出たがりな「霊」たちの話


 ホラー映画の魑魅魍魎
2004.11.14

 
 サイト内で都市伝説のことを扱っていると、折に触れて出くわすのが「ある映画作品に霊の姿が映りこんでいる」というタイプの噂です。有名どころでは「スリーメン・アンド・ベイビー」。これ以外にも、調べてみると出るわ出るわで、「ゴッドファーザー」やら「八つ墓村」やら「バックドラフト」やら、百花繚乱狂い咲き状態。しかし今回の話のメインは、律儀に「ホラー映画」という自分の専門ジャンルに登場する霊たちです。彼らの場合は「出演」作品の性格が性格なので、エンドクレジットに「Special Thanks … 霊」などと入れてもらっても良いほどの功労者のような気はします。

 具体的な映画名を挙げるのが何となく業腹なのですが、最近でも鶴田法男監督の「予言」に心霊が映り込んでいるというような話が、スポーツ新聞を中心に報じられたことがありました。この種の「演出」はすでにホラー映画につき物(憑き物?)と言える状態になっています。「予言」ばかりを槍玉に挙げるのはいささか気の毒な感じはしますが、どうもこの「予言」の場合、フィルムに写りこんだ心霊の話は製作サイド発の情報らしく、どうしても好感は持てません。公開前から「霊が写っていた!」などと騒ぐ前に、近年急速に進歩したCGの技術を駆使して、画面に映りこんだノイズをさっさと除去するのが映画人の正しいあり方なのではないかと、小一時間問い詰めたいところです。それをやらないと言うのはやはり、スタッフと「霊」がグルなのではないかと勘繰りたくもなります。だいたいこういう話題づくりは、せめて公開後、「映画を見た観客の中から誰言うともなく出てきた話」とするのが最低限のマナーのはずで、「予言」の場合はわかり易すぎるマッチポンプ感があまりにも鼻につきます。100歩譲ってスタッフのミスで写ってはいけないものが写ったのだとしても、やはり一般公開までに責任を持ってこれを消しておくのがプロの仕事というものです。1000歩譲って例え本物の霊が写りこんでいたのだとしても、映画人とは、怖気づくことなくこれを消してくれるような気骨ある職能者集団であって欲しいとさえ思います。大体「予言」の場合は、噂や都市伝説の類ですらありません。

 おそらくこういう流れを作ったのは、日本に関して言えば鶴屋南北の「東海道四谷怪談」なのではないかと思います。文政8年(1825)に初演されたこの作品は、本来「仮名手本忠臣蔵」の外伝に位置付けられる作品です。「戸板返し」などの大仕掛けが目玉だったことから、その凝りようがかえって仇になり、上演中の事故が絶えませんでした。ちょうどストーリーが怪談物だったこと、さらに主役である亡霊「お岩さん」に実在のモデルがいたためにその祟りなのではないかという事になり、出演者がお岩さんを祀った於岩稲荷にお参りをする慣習が出来上がったとされています。

 ところが実在の「お岩さん」は、良妻の鑑のような女性で民間信仰の一つとして江戸の町人に人気があったといわれています。よく聞く話ではありますが、四谷は甲州街道沿いの町であって、東海道とはまったく無縁のところに位置しています。これは「四谷」とか「お岩」とかどこか聞き覚えのあるキーワードが頻出するものの、物語がある種のパラレルワールドの出来事であって、「実在の人名・地名とは関係ありませんよ」という事を伝えようとした南北のメッセージと解釈されています。お岩さんは本来であればドロドロとした怨念劇とは無関係の人だったわけです。南北はもちろん、出演者もそのあたりは心得ていたでしょうから、純粋に怨念を恐れてというよりは、もう少し儀礼的というか、形式的な物としてのお参りだったのでしょう。歌舞伎演目自体に人気があったのも確かで、出演者のお礼参りの意味もあったはずです。そこへ降りかかった事故の頻発。しかし「転んでもただでは起きない」の精神で、お参りを何やらおどろおどろしい謂れで飾り立て、出し物の宣伝にも活用したという裏があったような気がします。

 ただ、今回の話を書くために少し詳しく四谷怪談について検索してみると、田宮家のお岩さんが冷たい扱いを受け、お岩さんの消息は不明ながらも、やがて田宮家が没落していったという出来事に材を取った話であるという説まで見つけ出してしまい、四谷怪談の真相についてはあまり思い切った事は言えないというのが正直なところです。

 さて話を戻して。実は怪しげな「心霊現象」を作品の宣伝に利用しているという点では、予言ばかりを責めることは出来ません。前述の話の中でネタばらしをしてしまうと、「スリーメン…」の幽霊は監督が意図的に入れた遊びで、写っていたのは映画の中で使われていた書き割りだったようです。もともとコメディーですから、遊びで入れるようなものかという疑問はありますが、製作の意図が透けて見えるホラー映画とは違った不気味さが受け、噂に拍車がかかったものでしょう。もっとも「スリーメン」の場合は、「オカルト的な噂を嫌った製作元のディズニーが流した一種の対抗神話」という噂もあるようです。もう少しホラー的要素のある映画で言うならば、「サスペリア」、「フェノミナ」なども意図的にそういう「演出」が入っていました。「ポルターガイスト」の出演者は次々に原因不明の怪死を遂げた、という話はかなり有名ですが、これは「製作元が話題づくりのため、次々に病死した出演者を原因不明の死として宣伝したものだった」というかなり怖い話もあります。

 もちろん四谷怪談の伝統がハリウッドをはじめ海外の娯楽映画に影響を及ぼすとも考えられませんから、オカルティスティックな芸能作品に関しては普遍的に行われるコマーシャルということなのでしょう。となると、実話系怪談を創作怪談のコマーシャリングに利用するのは、やっぱり発想としてはわりとありきたりなものなのかもしれません。

 「エクソシスト」は映画の公開から20年も経って出演者の死亡説がチェーンメール化したことがありましたが、これなどはこの作品がホラー映画として成功した事の証明で、その意味ではホラー映画冥利につきる話だったのだろうなあと思います。

 などとさんざんホラー映画を揶揄するような事を書きなぐってきた私は、ホラーどころか映画自体をあまり見ません。一番最近見た映画が「ハリー・ポッター」と言う体たらく。



※これだけだとややネタが少なかったので、ネットを徘徊していて見つけた映画にまつわる諸々の噂・小ネタ。
  • 「バックドラフト」のサントラには、日本語で「助けて」という叫び声入っている
  • 「エクソシスト」で、「TASUKETE」と壁に書かれているシーンがある
  • 「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」公開時、映画を真似て恋人の首筋に噛み付き、大怪我を追わせた男がいるらしい
  • レオナルド・ディカプリオは、共演女優を落ちぶれさせる「さげちん」
  • 「タイタニック」には続編が予定されていたらしい