M-1グランプリツアースペシャル(新宿文化センター)
このレポートは、ブログ&メルマガ「お笑い批評」を製作・発行している「あさい 海」さんからいただいたものです。
(以下、原文通り)
新宿文化センターで行われた「M-1グランプリツアースペシャル」を観てきた。フットボールアワー、笑い飯、アンタッチャブル、スピードワゴン、2丁拳銃、おぎやはぎ…信じられないほどの豪華メンバーの競演。オンバトのチャンピオン大会でもあり得ない布陣だ。
個人的にも好きな芸人ばかりなので、この日が来るのを心待ちにしていた。
司会ははりけ~んず。発言はカブるしボケはかみ合わないし、かなりサムく、芸人たちもやりづらそうで気の毒だった。
本物のM-1決勝審査員になったつもりで、頭から最後まで採点しつつ観ていたが、やはり最初の方の点数はつけづらい。あと、順番の作用は大きいと改めて実感した。
1…トータルテンボス 80点
シブヤ系漫才の開発者。つかみのうずらの卵に大笑いした。トップバッターの資格は十分。「サンダる」や「ルクプる」など新しい動詞を作るというネタ。
大村が突っ走る箇所がちょっとくどかった。どうせくどいならズキューンが観たかった。いつも思うが、藤田が大村に比べて存在感が薄く思えて残念。
2…POISON GIRL BAND 70点
じわじわ笑わせる脅威のローテンションコンビ。彼らに比べたら、おぎやはぎがテンション高く見えてしまうという恐ろしい力量を持っている。自転車ともものネタ。
このコンビもまだ成長期で、阿部にまだ成長の余地があると思う。笑い声で聞こえない箇所が多かったのが残念。どうせテンポが遅いのだから、おぎやはぎのように笑いを待ってから進行してもいいのではないか。
3…タカアンドトシ 90点
語気の荒い道産子コンビ。ルックス的にはツッコミとボケが逆に見える。ジッタリンジンの「プレゼント」を歌うネタで会場は大盛り上がり。つかみの「タカと、トシです」も◎。
アドリブっぽいやりとりもあったけれど、帰宅して「笑いの金メダル」のビデオを観たら一言一句同じネタだった。しかも金メダル。
4…おぎやはぎw) 88点
観客の黄色い声援(古い表現で失礼)が飛ぶ。本人いわく人気先行型のおぎやはぎ。出てきた瞬間、矢作が髪を切ったのに気づいた。本人も気にしていて「かりあげにしちゃって失敗」というつかみにしていた。言っちゃ何だが本当に失敗だった。
おぎが歌を歌いたい…というネタ。内容は浅いが面白い。なぜかおぎやはぎのときだけ、お客さんがみな遠慮した笑い方になっていた。聞き逃したくないから自然に声を殺していたのか。
ただもっと面白いネタもあったのに、ということで88点。
5…アメリカザリガニ 60点
3オクターブコンビ、高音と低音、テンションのミスマッチで人気を誇る。M-1では過去3回とも決勝に進出という実力派だが、今日はどうしたのだろう?ティッシュ配りのネタだが、まったくかみ合っていなかった。柳原はほとんどほえないし、平井のボケにも冴えがない。
今まで柳原がやかましいと思っていたが、静かになるとこれほど面白くなくなるのか。試行錯誤している時期かもしれないが、会場の空気を一変させてしまった。これが大阪なら少しは違っただろうに。
6…スピードワゴン 90点
ボケの小沢が独特の世界を作る。ネタに波があるコンビだが、最近のネタはかなり完成度が高いので、今日も注目していた。期待を裏切らないドライブと巨人ネタ。
何がよかったって潤さんにつきる。普段は小沢さんが突っ走って自分の世界を作り、潤さんが「あたし認めない」で引き戻すスタイルだが、今日は潤さんが突っ走っていた。ツッコミでも自分の世界を作れている。こりゃぁ今年のM-1は来るだろう。だが小沢さんの滑舌の悪さが気になるので90点。
7…2丁拳銃 85点
漫才の天才としか言いようがないコンビ。何を言っても笑ってしまう。つかみはM-1決勝と同じ滑舌の練習だが、そこにM-1への複雑な気持ちを感じとったのは私だけだろうか。あえてアドリブを省いたところも挑戦的かと。女の子のタイプから夫婦のネタへ。やはり彼らは短時間
では真価を発揮できないと思った。彼らの本領は百式(百分間漫才)にあり、もともと持ち時間4分のM-1には馴染まなかったのだ。今日はそれを改めて知らしめに来たのだ、というのはうがった見方だろうか。
8…笑い飯 85点
「Wボケ」という新風を送り込んだ。蚊をつぶすネタから宮本武蔵がハエをつかむネタだが、なんとなく前より面白くなくなった気がする。斬新なスタイルを見慣れてしまったからか?最初にWボケを観たときの破壊力は相当なものだったのに。飽きられてしまったら終わりというネタが多いだけに、今後が心配になった。今年の決勝は大丈夫だろうか。
9…アンタッチャブル 95点
のっけから山崎の適当さで、会場は笑いの渦に包まれる。
不動産屋のネタだったが、山崎がキッチンとバスを本気で間違えたせいもあり、ネタの進行はほぼ不可能、かなりアドリブでまかなったという感じ。それで柴田の力量を見直した。彼はアドリブに翻弄されるばかりだと思っていたが、今日はミスをした山崎がヘコんだのを必死でカバーし、
笑いも取りつつ、ネタも進行させていた。もちろんいつものように笑っていたけれど。山崎にはやはり柴田が必要なのだと思った。潤さんといい、今日はツッコミを見直す機会が多い。その分山崎のボケがパワー不足なので95点。
10…フットボールアワー 100点
言わずと知れたw)・屋鯵年の覇者。実は私の中ではあまり彼らの評価は高くなかったのだが、ライブでこそ力を出せるコンビなのだと痛感した。まず、空気の作り方がうまい。結婚式の司会というテレビでも観たネタだが、段違いに面白かった。
後藤とのんちゃんの歯車が、少しのズレもなくぴったりとかみ合い、時を刻んでいく。漫才とはこういうものだと納得させてくれた。まさに正統派漫才の王道、王者の貫禄。個人的に感動したので100点。
今回の私の評価を見てみると、
100 フットボールアワー
95 アンタッチャブル
90 スピードワゴン タカアンドトシ
88 おぎやはぎ
85 2丁拳銃 笑い飯
80 トータルテンボス
70 POISON GIRL BAND
60 アメリカザリガニ
うーん、2003のM-1を思わせる無難さ…と思いつつ。しいて特徴的なのは同点3位スピードワゴン、タカアンドトシか。2004への期待十分な二組である。
では、もし決勝に3組進出する場合は?今回はネタの差でタカアンドトシであろう。構成もテンポも申し分なかった。
今回のライブ、そしてM-1グランプリに関していえることは3つ。現代の漫才は多様化しており、東西の違いだけでなく様々なスタイルができてきたこと。その中でオリジナル性の高い型を持っている者は強いということ。さらに、その型を完成させた者が勝利を得るということ。
その点から見れば、笑い飯、アンタッチャブル、スピードワゴンはやはり未完成だ。笑い飯はそのネタの幅の狭さ。アンタッチャブルは突発的なアドリブの処理法に難がある(ちなみに今日の柴田は完璧だ)。スピードワゴンはネタの質が均一でないし、潤さんか小沢さんのどちらかにしかスポットが当たらないネタが多い。
M-1では2人ともが笑いを取れなければ、勝者にはなれないのだ。歴代チャンピオン、中川家、ますだおかだ、フットボールアワーを見れば分かる。3組とも着実に笑いを取る漫才だった。さらに王道の中にも、新しい独自の「型」を感じられた。
今年、新たな型を完成させるコンビは誰だろうか。決勝進出者、優勝者を予想するのが今から楽しみだ。