● 日本と自由主義諸国を滅ぼしてはならない

世界征服をめざすソ連=新生ロシアの謀略戦争

 

 一、ソ連の偽装消滅

 

 一九八九年一二月マルタ島での米ソ首脳会談で、ゴルバチョフが「冷戦終結」のプロパガンダを開始してから十年の年月が経ったが、この間に、世界秩序と自由主義国内の秩序の空洞化は激しく進んだ。自由主義諸国の存立の危機が密かに進行したのである。この事態は、ソ連イコール新生ロシアが謀略戦争(=冷戦)で創り出したものなのだが、そのことに気付いている者は世界全体でもごく少数である。わが日本では数人に過ぎないであろう。

 ソ連=新生ロシアが自由主義国内の左翼マスメディアを使って流す嘘情報によって、もちろん官僚、政治家に直接伝えることもあるが、ほとんどの保守の専門家、政治家、官僚は「冷戦終結、ソ連解体・消滅」という嘘を信じ込んでしまっている。こうなると、この誤認を正していくことは非常に困難である。圧倒的多数の主張は、批判や異論が出されても、それが存在しないかのようにしてしまう力を持つからである。だが諦めることなく粘り強く主張していこう。日本とその他の自由主義諸国の存亡がかかっているからだ。

 私は以前、「ソ連=新生ロシアの大謀略戦争」(九九年八月二0日記)という文を書いた。真正な保守主義者(=真正な自由主義者)の筑波大学・中川八洋教授の著書『大侵略−二○一○年、ソ連はユーラシア大陸を制覇する』(文藝春秋/ネスコ一九九○年十二月刊)と『蘇るロシア帝国−戦争の21世紀』(学習研究社一九九二年六月刊)から多くを学び、それを基に自分の独自見解を打ち出したのが、その文である。本文とともに参照して頂きたい。

 一九九一年のソ連の「崩壊・消滅」とは、ゴルバチョフをトップとするソ連共産党のエリートが、西側自由主義国を騙すために念入りに仕組んだ芝居なのである。ゴルバチョフに命じられてエリツィンも、「反ソ連共産党・反ソ連派、自由主義経済と民主国家ロシアの復活派」のリーダーの役割を上手に演技していったのである。国家の偽装解体・転換なのだ。超高等な謀略である。

 だから「新生ロシア」とは、ソ連共産党のエリートが、エリツィン派やロシア共産党派また今日でいえば「統一」や「右派連合」あるいは「祖国・全ロシア」や「ヤブロコ」や「自民党」等々の政治集団役を役割分担して演技しているだけのことなのである。ソ連の指導者(独裁者)と新生ロシアの指導者(独裁者)は全く同じなのだ。ソ連=新生ロシアである。表には出ていないがゴルバチョフが新生ロシアの最高指導者である。

 こうした芝居が可能になるのは、ソ連共産党が全ての権力を握る自由ゼロの全体主義国であるからであり、秘密政治警察KGBの恐怖支配が隅々まで貫徹しているからである。

 

 二、東西冷戦に負けたのは西側である

 

 ソ連=新生ロシアのエリートの超高等な騙し(情報戦争=冷戦)によって、アメリカを筆頭に西側自由主義国のエリートも国民も完全に洗脳されてしまっている。そして西側は「我々は東西冷戦の勝者だ。共産主義のソ連は消滅した。自由主義国を志向する新生ロシアは我々と『協力関係』にある国だ。なおかつロシアは経済が破綻し西側の支援を受ける貧しい国に転落しており、我々の脅威にはならない」と驕慢にさせられ、安心・油断させられ、精神的・思想的に武装解除させられてしまったのである。実際にアメリカを筆頭に西側自由主義国は、核戦力も化学戦力も通常戦力も大削減してしまったのである。国をあげて「平和の配当」を求めていったのだ。西側は騙されて大軍縮させられたのである。

 熱戦によって敵(西側)の戦力を殲滅するのも、謀略外交に基づく軍縮条約によって敵の戦力を削減してしまうのも同じである。いや、後者による勝利の方がはるかに重い。なぜならば、後者では西側は新生ロシアを敵とは認識せず、協力関係にある国、被支援国ととらえるから西側の油断と軍縮はとめどもなく進展していくからだ。

 ソ連(=新生ロシア)は東西冷戦に敗北してはいない。彼らは、一九八三年のアメリカの地上発射INF(中距離核戦力)の西ヨーロッパ配備開始とSDI(宇宙防御兵器)研究の決定によって、封じ込められるとともに、近い将来における国の存立そのものの危機に直面したが、当のアメリカ自身はこの政策の戦略的意味を全く認識していなかった。そのことにも助けられて、ソ連はゴルバチョフ新書記長の下で大謀略戦略を発動することにしたのである。すなわちゴルバチョフは、「新思考外交」を開始して「核兵器三段階廃絶」を提案し、アフガニスタンからの撤退や東欧諸国からの撤退を演出し、国内においては「ペレストロイカ」を演技して、その上に仕上げとして「ソ連の消滅・ロシアの復活」の保守革命を演じて、「冷戦は終結したのだ」とアメリカをはじめ西側を美事に騙していったのである。

 これによって西側は、無警戒となり無制限の大軍縮路線へと突き進むことになったのである。ソ連を完全に封じ込めていた米国の地上発射INFは一九九一年五月までに全廃されてしまった。ソ連の弾道ミサイルを無効化することになり、従ってソ連の存立そのものを脅かす存在になるはずであったSDI研究開発・配備の熱も急速に冷めてしまい、クリントン大統領によって中止されてしまったのである。在欧米空軍の核爆弾は維持されたが、欧州に前方展開されていた米軍のそれ以外の戦術核と戦場核も全て本国へ撤去されてしまった。アジア太平洋地域に前方展開されていた核爆弾と戦術核・戦場核もまた全て撤去されてしまった。アジアの中距離核戦力であった水上艦搭載の海洋発射巡航核ミサイル・トマホークSLCMも全て撤去されてしまったのである。アジアに前方展開された核兵器はゼロになったしまった。

 四軍合せて二○八万であった米軍の兵員は一四○万にまで削減され、三三万であった在欧米軍は一○万に削減された。アメリカは米ソ化学兵器廃棄協定(九○年六月)により、同年七月から西独配備の化学砲弾の廃棄を開始していった。そして西側諸国は化学兵器禁止条約の発効により、二○○七年までに化学兵器を全廃することになる。

 ソ連・ロシアはアメリカとの間に戦略兵器削減条約START1(九一年七月)と2(九三年一月)を結んだ。1は二○○一年一二月までに両国の戦略核の運搬手段数の上限を一六○○基(機)にまで削減し、戦略核の弾頭数の上限を六○○○発に削減するというものであり、2はニ○○四年末までに弾頭数の上限数を四二五○発にし、二○○七年末までに三五○○発にまで削減するというものである。運搬手段の削減も規定されている。

 ソ連=ロシアの独裁者たちはSTART1、2の締結とソ連消滅の芝居によって、SDIをつぶしてしまったのである。またアメリカの戦略核戦力が大きく削減されるということは、ロシアも同じだけ削減しても、アメリカの核抑止力の大幅な低下を意味するのである。

 ソ連=ロシアは東西冷戦に負けてはいない。彼らは謀略によって戦略環境の悪化、危機を克服しただけでなく、上記のように西側を騙して大軍縮させてしまったのだから、中長期的には勝利しているのだ。ユーラシア大陸の周辺に前方展開されていたアメリカの戦力は大削減されてしまったのである。東西冷戦に敗北したのは西側の方なのである。ソ連=ロシアの独裁者たちは、全ユーラシア大陸(日本などその周辺部を含む)の征服という戦略目標の実現を二、三○年先に延しただけなのである。

 

 三、ソ連=新生ロシアの二段階世界征服戦略

 

 ソ連=ロシアの独裁者たちの最終目標は世界征服である。彼らはそれを二段階で実現しようと考えている。まず第一段階として全ユーラシア大陸(その周辺部を含む)を征服し、次いで世界(アメリカ)を征服しようという戦略である。

 これまでの記述でわかるように、彼らは謀略戦争という冷戦によって、アメリカをリーダーとする西側自由主義国に勝利して、自らの戦略的な絶対優位を確立しようとしている。すなわち西側を大軍縮させ、とりわけ核軍縮させて、かつ核戦力においてロシア(ソ連)の絶対優位を確立することをめざしているのである。またそのためには、防御兵器であるNMD(アメリカ本土ミサイル防衛)システムとTMD(戦域ミサイル防衛)システムの開発配備を断念させることが不可欠であるから、それをめざしているのである。

 もしもこの謀略戦争に勝って核戦力の絶対優位を確立できたならば、彼らは全ヨーロッパや日本など全ユーラシア大陸を征服する熱戦を開始していくのである。彼らはアメリカを直接軍事侵略することは考えていない。アメリカから海を隔てて遠く離れているユーラシア大陸を侵略征服するのである。だから既に今日においても、彼らの通常戦力や化学戦力また生物兵器の対西側絶対優位は確立しているのである。なおロシアは西側を欺くために、ロシア軍の弱体化を演技しており、チェチェン戦争でもわざと実力を抑えて戦っているのである。

 ユーラシア大陸征服戦争において彼らは、アメリカに同盟国や友好国に核の傘をさしかけることを断念させさえすれば、征服に成功する。侵略を開始した彼らに対してアメリカがもし戦略核を撃てば、彼らも戦略核をアメリカへ撃ち込むことになるから、アメリカが戦略核を撃てるのは、自らが核戦力において優位にある時に限られるのである。ロシアの方が優位さらには絶対優位であれば、アメリカは断腸の思いで戦略核のボタンを押すことを断念するしかないのである。アメリカはロシアに逆抑止されるのだ。アメリカ本土が軍事侵略されてもいないときに、負ける核戦争を開始する指導者はいない。

 この征服戦争を開始する際、ロシアのエリートたちは、正体を隠すことを止め自分たちはソ連共産党とソ連であることを世界に宣言し、世界革命戦争として戦争を実行していくことになる。敵国内を分断し内戦を引き起こさせるためである。彼らは核兵器も化学兵器も生物兵器も総動員して一気に侵略を開始していくことになる。

 全ユーラシア大陸が、ソ連およびソ連の指示に従う各国共産党の独裁支配下に落ちれば、次にはアフリカ大陸が落ちることになる。そうすれば南北アメリカは地理的に包囲されてしまうことになる。中東の石油も押えられてしまう。遠からずして南アメリカでは革命が勃発して、各国がソ連陣営に入ることになる。

 残るはアメリカだけとなるが、ソ連の独裁者たちは直接アメリカと戦争することはしない。彼らは中米にINFを配備するなどして軍事的にアメリカを包囲して圧力をかけ、経済的にもアメリカを包囲してじわじわと絞め上げていくことになる。そうしておいて彼らは、政治宣伝の嵐によって、アメリカを内側から乗っ取ることをめざすのである。アメリカでは内側の侵略勢力である左翼が急成長していき、アメリカをどんどん侵食(侵略)していくことになる。左翼はアメリカ政府・軍の内部へも浸透していくようになり、遂にはアメリカはソ連陣営の軍門に下ることになるだろう。ソ連の独裁者たちは熟柿が落ちるのを待つ戦術を採るのである。ここに、ソ連の世界制覇が達成されることになる。

 ソ連=新生ロシアの独裁者たちが、このような遠大な二段階世界征服戦略を堅持していることは間違いないのである。日本をはじめ自由主義諸国の存立の危機は密かに進行しつつあるのだ。

 

 四、キャスリーン・C・ベイリー博士の主張

 

 私が主張してきたことの一端は、『SAPIO』(二○○○年一月二六日・二月九日合併号)に掲載された米国国立政策研究所主任研究員のキャスリーン・C・ベイリー博士の文でも裏づけられている。彼女はレーガン政権時代の国務次官補を務めた人である。ベイリー氏が書いていた一部を次に箇条書きしてみよう。まずは米国に関する記述である。

 (1)アメリカは一九八八年以降、新しい核弾頭の設計を行なっていないし、再開する予定も全くない。このために核弾頭設計者は数十人にまで縮小してしまった。時間が経てば経つほどアメリカの核兵器と核抑止力は旧式のものになっていくだろう。

 (2)アメリカの核兵器製造工場は環境問題等により閉鎖されており、政治的経済的理由から再開されていない。だから核弾頭の心臓部であるピットを生産する能力は今のアメリカにはない。

 (3)アメリカは一九九二年から今日まで核兵器の実験を行なっていない。そのために有事の際、ちゃんと機能するかどうか自らの核兵器に対する信頼性が失われつつある。従ってアメリカ上院は昨年十月にアメリカの国益に反するとしてCTBT(包括的核実験禁止条約)の批准を拒否したが、実験を再開させる決定はなされていない。また仮になされても、実験設備や能力がさびついてしまっているため、実験が出来るようになるのは二年先になってしまう。

次にロシアに関する記述を箇条書きしてみる。

 (1)ロシアは自国の核兵器の改善と数の増大という軍備拡大路線を継続している。彼らは自分たちは貧困国であると低姿勢に宣言し、国際社会の経済的援助を最大限に仰ぐ一方で、何十億ドルもの資金を惜しみなく投入して、新核弾頭の開発・配備の研究に邁進しているし、ピット製造工場を維持して数千という数ではないにしても年間数百のピットを生産している。またロシアは弾道ミサイルの生産・配備にも力を入れている。

 (2)ロシアは核実験は行なわないと公言しながら、密かに核実験を続行している形跡が見られる。

 (3)国際条約で禁止されているのに、ロシアは細菌兵器の製造を続行している。

 (4)ロシアは抜かりなく新しい潜水艦の建造にも着手している。

 ベイリー氏は、中国がアメリカから最新の核兵器技術を盗んだこと、中国の核兵器開発の進歩には目覚ましいものがあることも主張している。

 そしてベイリー氏は「アメリカ合衆国の核の傘」は「腐りかけている」と断じ、「日本にはアメリカの強い核の傘に関わる権利、いやそれどころか、その義務がある。日本の外交官と防衛庁や自衛隊の幹部は、アメリカ合衆国が保有する核兵器の現状、さらに核実験を止めて以来生じてきている問題に、アメリカ合衆国がどのように対処する計画なのかについて、説明を強く要求すべきだ」と述べていた。

 河野外相は米上院がCTBTの批准を拒否した翌日に、「世界の核軍縮・不拡散へ及ぼす悪影響は図り知れず、極めて憂慮すべきことだ」との談話を発表したが、これは日本と同盟国のアメリカそして自由主義諸国の根本的な国益を否定する談話である。日本政府もアメリカ政府も「核軍縮・核不拡散=平和」というソ連=ロシアの嘘プロパガンダに洗脳されてしまっているのである。日本政府はベイリー氏のこの警告と忠言をしっかりと受け止めねばならない。

 

 五、ロシアは軍縮条約を戦争手段にする

 

 ロシア(ソ連)は今、START(戦略兵器削減条約)交渉とABM(弾道ミサイル迎撃ミサイル)制限条約で、アメリカに対する自らの戦略核戦力の絶対優位を確立しようとしている。だがアメリカはロシアの狙いを全く認識できていない。このようなアメリカ政府のままであれば敗北は免れえない。このままSTART交渉を続けていけば、ロシアの術中にはまって、ついにはロシアの絶対優位が達成されることになるだろう。そうなったら全ユーラシアがロシア=ソ連の手に落ちることになり、そしていずれはアメリカも滅ぶことになってしまうのである。

 アメリカが核弾頭の心臓部のピット生産工場をはじめ核兵器製造工場を閉鎖してしまったのは、ソ連やロシアとの間でINF(地上発射の中距離核戦力)全廃条約(八七年十二月調印、八八年六月発効)やSTART1、2を締結したからである。

 START1(第一次戦略兵器削減条約)は九一年七月調印で九四年十二月に発効したが、二○○一年十二月までに米露の戦略核の運搬手段の数の上限を一六○○基(機)に削減し、弾頭数の上限を六○○○発まで削減するというものである。九三年一月に調印されたSTART2は、二○○四年十二月までに戦略核弾頭の上限数を四二五○発まで減らし、二○○七年の末までに三五○○発にまで削減するというものである。またSTART2の下での戦略核の運搬手段の削減を二○○七年の末までに行うというものである。アメリカもロシアも未だ批准していない。ロシアは2の批准も済ましていないのに、START3の交渉において、核弾頭数の上限を一五○○発まで削減しようと提案(宣伝)している。

 アメリカは現在、START1の上限である六○○○発をはるかに越える戦略核弾頭を持っている。INF全廃条約等も締結している。だから、政治的経済的にもうこれ以上核弾頭を製造する必要はないということで、核兵器製造工場を閉鎖してしまったわけである。根本には新生ロシアに対する基本的な信頼(誤認)があるのである。アメリカが新核弾頭の設計をしていないのも同じ理由からである。政治的理由には、条約のほかに国内外の反核・核軍縮運動や環境保護運動がある。

 アメリカが核兵器の実験をしていないのは、言うまでもなくCTBTに調印(九六年)しているからである。上院が国益のために批准を拒否した翌日、クリントン大統領は「九二年から続けている核実験凍結政策を継続する」と明言した。自ら首を絞めているのだ。

 アメリカ政府は上記の如く軍縮条約と国内外の〃世論〃(核軍縮や環境保護)に支配されてしまっているのである。これがロシア(ソ連)の戦術である。ロシアは「核軍縮」の主張を積極的、大々的に展開してアメリカなど自由主義国に「平和攻勢」をかけ、〃世論〃を創り出していくのである。そうしてアメリカ政府に軍縮条約を結ばせていくのである。

 西側自由主義国のマスメディアには左翼侵略勢力が多く侵入しているし、リベラル左派も多い。特に日本のテレビ、新聞は左翼侵略勢力の牙城となっている。ロシアは「平和攻勢」かける時には、事前にKGB(KGBは存続している!)の情報将校が西側のマスメディアへ精力的な工作を行なっている。西側のマスメディアにはソ連時代の協力者が依然多くいるし、思想的に共通しているから、工作するのは容易なのである。ロシアの独裁者たちは、マスメディアという巨大な権力を握っている強力な味方を自由主義国内に持っているのである。

 民主主義が美化されている今日の西側諸国の誤った政治、思想状況においては、政治は〃世論〃に左右されてしまう。〃世論〃とは、ほとんど左翼マスメディアの論調のことなのである。今日の西側では、国の存立と国益を守ために、左翼マスメディアや〃世論〃と対決し、世論を説得して正しい方向へ導いてゆく真正な政治エリートは極めて少ない。ロシアが「核軍縮=平和」の謀略宣伝をかけてきたら、それに呼応する国内の左翼マスメディアの大量宣伝とも相俟って、西側の政治リーダーたちは〃世論〃に支配されてしまうし、さらには洗脳されていくことになる。実際、核軍縮=平和というイデオロギーに洗脳されてしまっているのである。

 そればかりでない。アメリカ政府は相手を自らのイメージでとらえてしまうミラー・イメージングの誤りをいつも犯してしまうのである。アメリカがソ連との軍縮交渉・軍備管理交渉で一貫して騙され敗北してきたのはこのためでもある。「法と正義」や「誠実さ」とは全く無縁で、正反対の立場にいるのがソ連(や中国や北朝鮮などの共産主義国)であるのに、アメリカ政府は、ソ連も核戦争を防止したいと考えているはずだとか、ソ連も条約を誠実に履行していくだろうと、ミラー・イメージングの誤りに陥ってきたのである。

 一九七二年のABM(弾道ミサイル迎撃ミサイル)制限条約(無期限)は、実戦配備に向けて開発中であったアメリカのABMの数を大削減するだけでなく、本土防衛そのものを不可能にさせるものであった。だが条約を破るのがソ連であるから、この条約はABMのソ連独占を作り出しただけであった。同年のSALT1協定(第一次戦略的攻撃核兵器制限暫定協定)は、アメリカの戦略核の基数を凍結する一方で、ソ連の基数のみ大幅に増大させるものであった。そしてソ連もMIRV(多弾頭)化に成功したとき、基数が多い分だけソ連は弾頭数でもアメリカを上回ることになったのである。一九七九年のSALT2条約では、アメリカは条約の基数を守り弾頭数も凍結することになったが、条約はソ連に対しては「隠し戦略兵器」を認めていたし、ソ連は条約を守らなかったし、またICBMを更新して(MIRV化の向上)、弾頭数を飛躍的に増大させていったのである(中川八洋教授『核軍縮と平和』中央公論社一九八六年刊参照)。

 すなわちアメリカのみが軍縮や凍結をさせられ、ソ連のみの核大軍拡となっていったのである。ソ連はこの軍縮交渉・条約によって、戦略核戦力の対米劣位を優位に逆転していったのである。アメリカの敗北である。

 ABM制限条約とSALT1協定を裏外交で締結したのは、大統領補佐官(安全保障担当)のキッシンジャーである。キッシンジャーは、「相互抑止理論」というアメリカと自由主義諸国の国益を否定しソ連を利する「世紀の奇論」を唱えてきた学者である。中川教授はキッシンジャーは隠れ共産主義者であり、ソ連や中国の利益のために行動してきた人物であると断じ、この問題についても「キッシンジャーが、ソ連が最重点的に狙っていた〃米国のABMつぶし〃に全面協力したのである。またソ連のICBM/SLBMの対米優位についてもソ連側に立ってそうなるようにまとめあげたのである。キッシンジャーが『ソ連のエージェント』でなかったと断定するのは困難なことである」(『中国の核戦争計画』七一頁、徳間書店一九九九年刊)と述べている。私も全く同感である。

 人物の判断は彼の行動によって行なわなくてはならない。言葉ではどのようにでも偽り、隠ぺいすることができるからだ。言葉でアメリカの国益と対ソ・対中強硬を唱えつつ、実際の行動においては、アメリカと自由主義諸国に不利益をもたらし、ソ連や中国を利することをしていれば、その人物は間違いなく隠れ共産主義者である。

 ソ連という敵との交渉においてさえこのようであったのだから、アメリカが「協力関係にある」と考えているG8の一員たる新生ロシアとの軍縮交渉では、なおさらアメリカの弱点が現れてくることになる。アメリカおよび西側諸国は一刻も早くロシアの正体に気付かねばならない。

 ロシア(=ソ連)は初めから条約を守る意思など持っていない。彼らにとって条約とは、敵を欺き敵を縛り付け、もって自国の軍事的優位、絶対優位を達成する手段なのだ。敵を征服するための戦争の武器なのである。戦争の謀略手段だ。彼らは熱戦の前に、軍縮交渉(条約締結)という冷戦(謀略戦争)を戦っているのである。だからアメリカはロシアとは軍縮交渉をしてはならないのである。断固拒否しなくてはならないし、条約を破棄しなくてはならないのである。

 

六、ロシアのSTART交渉の策略

 

 START交渉におけるロシアの目的は、アメリカの戦略核の量をできるだけ低いレベルに削減し、かつロシアの対米絶対優位を確立することである。米露双方が同数量の戦略核弾頭を削減するにしても、巧妙な策略によってアメリカに一足先に削減させてしまうことに成功すれば、ロシアの絶対優位は達成できる。

 たとえば、START3(第三次戦略兵器削減条約)を締結して、アメリカに一五○○発まで一足先に削減させてしまえば、ロシアは三五○○発を持っているから二・三倍以上の格差の絶対優位が確立する。

 現在ロシアはSTART2を批准していないが(計画的にそうしている)、期限内までには批准するはずである。ロシアはSTART1の期限である二○○一年十二月末間際には運搬手段を一六○○基(機)に、弾頭数を六○○○発まで削減して、条約を誠実に履行することをアメリカや世界にアピールするだろう。START2の第一段階の期限までに、ロシアはアメリカが四二五○発まで削減するかどうかを見極めて、アメリカが削減したら直ちにSTART2を批准して、すぐに四二五○発まで削減する。これでまた信用を売るのである。二○○七年の末が第二段階の期限であるが、ロシアはそれまでの間に主導的に一五○○発まで削減する内容のSTART3を調印して、「平和愛好国」ぶりをアピールするだろう。そしてアメリカが三五○○発に削減するのを確認した後に、ロシアも三五○○発まで削減してSTART2を履行していくのである。

 ここまでくればアメリカは「ロシアでは議会の賛成が得られずなかなか批准ができなくても、条約の期限が迫ってくれば議会もロシア政府の説得に応じて批准していくのだ。そしてアメリカが先に削減すればロシアも条約をちゃんと履行していくのだ」と考えるようになるだろう。もちろんロシアはアメリカのマスメディアへ工作して、そうした主張を大々的に展開させて〃世論〃を創っていくのである。

 ロシアはSTART3を調印しても、また議会の賛成が得られず批准はなかなかできないと芝居して、期限ぎりぎりまで批准を延していくだろう。一方でロシア政府は、上限数を一○○○発まで減らすというSTART4提起し、START3の期限の前に主導的に調印にこぎつけていく。そして期限切れを前にしてSTART3の批准も行なうのである。

 そうすれば、アメリカ政府は前回のSTART2のケースを思い出して、「アメリカが先に条約を履行して一五○○発にまで削減すれば、また規定された運搬手段を削減すれば、やや遅れてもロシアもちゃんと条約を履行するだろう」と考えるだろう。またアメリカや西側のマスメディアは、「ロシア政府は既にSTART4を主導して調印している。ロシア政府の核軍縮、世界平和を求める意思は明確であり強固だ。世界のリーダーたるアメリカは、START3の期限までに率先して条約を履行し、核軍縮を実現して核兵器のない平和な世界の創造に向けた偉大なリーダーシップをとらなくてはならない」云々と大々的に主張していくことだろう。アメリカ政府はこの内外の世論に押されて、一足先に一五○○発まで削減してしまうだろう。規定の運搬手段も無効化してしまうだろう。

 この策略が成功すれば、三五○○発の核弾頭を保有し、運搬手段数でも一層優位になるロシアは対米絶対優位を手に入れることになる。しかもロシアは核兵器製造工場を維持しているから、急速に核弾頭を増産することができ、短期間に更に格差を大幅に拡大できるのである。一方アメリカの核兵器製造工場は、ベイリー氏が言ったように今日既に閉鎖されているが、二○○七年頃には廃棄と同じ状態になってしまっていることだろう。

 もしアメリカがこの策略に引っかからずロシアと同一歩調でしか削減しないならば(このことはSTART1、2の実行時にもわかることであるが)、ロシアも一五○○発まで削減することになる。ロシアはこのようにしても、アメリカに対する絶対優位を実現することができるのだ。その理由は、今書いたばかりである。アメリカの核兵器製造工場は廃棄同然であるが、ロシアでは維持されているからである。アメリカが核兵器生産を再開できるようになるまでには数年を要することになるからだ。

 たとえば、アメリカは一九六九年十一月に化学兵器の一方的な生産中止を実行した。レーガン大統領が化学兵器の生産開始を命じたのは八二年二月であったが、実際に生産が開始されたのは五年後の八七年であった(中川教授『大侵略』二二九頁)。核兵器の生産においても同様なことが言いうるのである。錆付いた生産設備は新たに作らねばならないし、技術者は既に別のところに移ってしまっており、技術そのものが錆付いてしまっているからだ。ロシアがSTART条約の批准を期限ぎりぎりまで延してきている狙いはここにある。このことこそがロシアのSTART交渉の策略の核心であろう。

 ロシアから見たとき、アメリカの戦略核が六○○○発よりも三五○○発の方がアメリカの核抑止力は約半分近くに低下する。アメリカの戦略核が一五○○発に削減されれば、抑止力は約四分の一になる。しかもロシアが核兵器を隠したり、急増産を開始する場合には、双方の核が六○○○発の時よりも三五○○発の時の方が、三五○○発の時よりも一五○○発の時の方が、ロシアははるかに容易に絶対優位を達成できるのである。だからロシアは喜んでSTART3や4も推進するのだ。ロシアにとって核軍縮条約とは、敵に対する戦略的優位や絶対優位を創り出す戦争手段である。核軍縮=侵略なのだ。

 それなのにアメリカをはじめ西側は、ロシア(ソ連)やそれと共闘する国内の左翼勢力が精力的に流す「核軍縮=平和」の謀略プロパガンダに洗脳されてしまっているのである。わが日本は最悪である。国の指導者たちが賢明でなければ、全体主義国の侵略を抑止して平和を守ることはできない。

 ロシアはあらゆる騙しを実行してくる。ロシアは一貫して、経済、社会が混乱し、税の徴収もままならず、そのために国家財政は危機に瀕して軍事予算は大幅に削減されてしまったという騙し、芝居(軍事弱体化)を演じてきている。西側はこれを信じてしまっている。ロシアは、退役した核弾頭を解体したいが財政事情がそれを許さないとして、一万発ほどの解体待ちの核弾頭を保管している。しかも、そのうち相当数はどのような形で管理・保管されているのかロシア政府にもわからないというのである。もちろんこれも騙しである。そしてこの解体待ちの核弾頭の中に、現役で使用できる戦略核弾頭が隠される可能性が極めて高いのである。

 ロシア(=ソ連)は自由ゼロの完璧な全体主義国である。自由が認められているかのように見えるのは全て芝居だ。KGBが政府も軍も国民も隅々まで監視しているのである。恐怖支配が貫かれている。言うまでもなくロシアでは、西側では当たり前の自由な言論も報道も全くない。だから国民の世論などは存在しない。ロシアでやられている世論調査などは全てやらせである。だからロシアの独裁者たちは、どのような嘘の芝居でも、条約破りでもすることができるのだ。そうした場合に西側では起こる内部告発やマスメディアの独自調査に基づく暴露報道は、ロシアでは絶対に起こりえないからである。

 アメリカや西側自由主義国は、自らとロシアの国家の性格の非対称性を全然認識できていない。ソ連時代の時だって全く認識できていなかったのである。ミラー・イメージングの誤りだ。これでは国家間交渉に負けるのは必然である。

 アメリカや西側は一日も早くロシアの正体に気付かねばならない。アメリカでも、ごく小数ではあれ真正なエリートがロシアの正体やロシアのSTART交渉の狙いに関して、アメリカ政府に警告を発しているはずである。だが多数派の意見の前に彼の警告は無視されてしまう。真実というものは決して多数派の側にはない。真正な指導者は、多数派の意見ではなく、真実の主張にこそ耳を傾ける責務がある。

 世界征服を目標にするロシア(=ソ連)と軍縮交渉をすること自体が、アメリカにとって反国家的な誤りである。アメリカ政府は直ちにSTART1、2を破棄し、START交渉を止めなければならない。全体主義国のロシアや中国は人類の敵である。敵に対しては戦力(攻撃力および防御力)の優位を確立しなければならない。これは戦略思想の基本中の基本である。すなわちアメリカがすべきは核軍拡であり、NMDシステム配備であり、TMDシステム配備である。ここに疑問の余地はない。このようにしてこそ、ロシアや中国の侵略を抑止でき、世界の平和を守ることができるのである。日本も同盟国としてアメリカのこれらの政策を最大限に支持・支援していかねばならないのである。

 

 七、アメリカはABM制限条約を破棄しNMDを配備しなければならない

 

 アメリカ政府は、今年の夏までにNMD(米国本土ミサイル防衛)システム配備の決定を出すことになっている。これに対してロシアは中国と一緒になって、NMDはソ連とアメリカが一九七二年に締結したABM(弾道ミサイル迎撃ミサイル)制限条約に違反していると猛反対している。ロシアと中国は九九年十一月、共同提案して国連総会第一委員会で、ABM条約の維持・強化の決議を採択させている(拘束力はない)。安全保障戦略が欠如している日本政府は愚かにも棄権した。今アメリカ政府は、NMDを配備するためにロシア政府に対してABM制限条約の修正要求を出しているが、ロシアがこれに応じることなどありえない。アメリカ政府は断固としてABM制限条約を破棄し、NMDを配備していかなくてはならない。

 なぜロシアや中国は、防御兵器であるNMD配備に猛反対するのか。それは彼らが侵略を国家目標にしているからである。中国は東アジアの制覇を目標にしている。日本も属国とする。ロシアは全ユーラシアを侵略征服しようとしている(第一戦略)。ロシアは全ヨーロッパや日本などを侵略するとき、アメリカが核の傘を差し出さないように、自らの戦略核でアメリカを逆抑止したいのだ。もしロシアが戦略核戦力において対米絶対優位であれば、アメリカは逆抑止されてしまうことになり、全ユーラシア制覇は成功する。ロシアは一連のSTART交渉で、この戦略核戦力の絶対優位を確立しようと謀略戦争を戦っているのである。

 だがもしアメリカがNMDシステムを完成させて配備していくことになれば、状況は一変する。ロシアが戦略核の数で絶対優位を実現しても、弾道弾についてはアメリカのNMDシステムによって大気圏外で破壊されて無効になってしまうのである。すなわちアメリカは、NMDシステムによってロシアの戦略核の大量報復の恐怖から解放されるから、もしロシアが全ヨーロッパや日本などへ侵略を開始したならば、ためらうことなく自らの戦略核をロシアへ撃ち込むことができるようになるのである。そうなったらロシアの敗北は必至であるから、ロシアは全ユーラシアへの侵略を抑止されることになるのである。アメリカの核の傘が完璧になるのである。中国の東アジア侵略征服に関しても同じ理由で、中国は侵略を抑止されるのだ。

 だからロシアと中国は猛反対しているのである。自由主義を国是として侵略を否定する平和愛好国であれば、アメリカのNMDシステム配備は双手を上げて歓迎すべきものである。全体主義国のロシアや中国はまた必然的に侵略国であるから、アメリカのNMDシステム配備に断固反対するのである。

 ロシア、中国がNMDに反対している理由は、じつはこれだけではない。もしもアメリカに真に偉大な大統領が登場して、「人類の敵である全体主義・侵略主義のロシア、中国と〃共存〃していくことは、道徳的にも悪である。そして〃共存〃していけば、いつロシアや中国が自らの完全なNMDを手に入れるようになるかもしれない。そうなれば、アメリカの戦略的優位は失われてしまい、世界は再びロシアや中国の侵略の脅威に怯えなければならなくなる」として、強力なNMDシステムとTMDシステムを配備し、後述の「戦域核戦争戦略」に基づいて、NATO諸国や日本や台湾や韓国などと共に、自由を圧殺されているロシア、中国の国民の解放と全体主義・侵略主義体制の打倒を目指す正義の解放戦争を実行するぞとの恫喝を行なうとすれば、前記の理由からロシア、中国は戦わずして降伏することにもなりうるのだ。だからこそ彼ら独裁者は猛反対しているのである。

 ロシアは、もしアメリカがABM制限条約を脱退してNMD配備を決定するならばロシアはSTARTからも脱退する、と警告を発している。つまりアメリカに対して、核軍縮から核軍拡へ転換せざるをえなくなるぞと脅しをかけているのである。アメリカ政府が、「核軍縮こそが世界平和をもたらす。核軍縮は正義だ」とのロシア発の謀略宣伝に支配されてしまっている時には、この脅しは効く。

 アメリカ政府は今、ロシア政府に対してABM制限条約の修正を求めているが、「ABMの対象はロシアの戦略核ではなく、北朝鮮の開発されつつある戦略核である」との立場で修正を求めているのである。そうであれば、北朝鮮がICBMの開発を凍結・断念すれば、「問題は解決した」ということになってしまう。だからNMDの破棄を狙うロシアと中国は、北朝鮮と条約を結ぶなどしてテポドン2型の発射を止めさせていったのである。ロシアは北朝鮮との間に「友好善隣協力条約」を結んだ。九九年三月に仮調印し、本年二月に本調印した。中国は九九年六月に北朝鮮との「伝統的な友好関係」を復活させたのである。両国は北朝鮮の安全を保障することで(食糧支援もする)、テポドン2型の発射を停止させたわけである。

 ロシアはアメリカとの交渉で、ロシアは世界の安定と平和を願っていること、北朝鮮のテポドン2型の発射を停止させる上でも多大な貢献をしたこと、START2が発効し、さらにSTART3交渉を進展させていくならば、NMDは不要であること、しかしもしアメリカがNMD配備を決定するならば、ロシアは自国の安全保障のためにSTARTから脱退する等々と、天才的な役者ぶりを発揮して、親ロシア政府の民主党政権をしてNMD配備決定を先送りさせ、ついには断念させようとしているのである。世界の運命を左右する謀略戦争が今戦われているのである。

 アメリカ政府はロシアの騙しや脅しに負けてはならない。既述したように、そもそもSTARTはロシアにとって戦略核戦力の絶対優位を勝ち取る手段である。だから彼らは一時的に脱退してみせることがあっても、決して永久脱退はしないのだ。逆にアメリカ政府こそがSTARTから脱退しなければならないのである。つまり軍縮ではなく核軍拡していくことが、また防御力(NMD)を飛躍的に強化していくことが、アメリカと他の自由主義国の安全を保障するのである。

 アメリカ政府は、ロシアの騙しや脅しを粉砕して、ABM制限条約を脱退し、断固NMDシステムを配備していかねばならないのである。それによって国の安全を保障される日本やNATO諸国は政治的、財政的に最大限の支援をしなくてはならない。そのためには、アメリカや西側諸国はロシアの正体に気がつかなくてはならない。

 アメリカと西側自由主義国はNMDシステム配備だけでなく、TMD(戦域ミサイル防衛)システムも、日本、台湾、韓国、ヨーロッパ諸国、イスラエルに配備していかなくてはならないのである。たとえば中国の中距離核ミサイルのうち約五十基は、日本を標的にして実戦配備されている。その爆発威力は広島型原爆の一○○○個分に匹敵する(中川教授『中国核戦争計画』二頁)。ロシアと中国はTMD配備についても、自国の侵略手段である核兵器が無効化されるので、「大量破壊兵器削減・不拡散の国際協議に破壊的な影響を及ぼす」だとか、「アジア・太平洋地域の平和と安定を破壊する」などと転倒語を駆使して共同して猛反対しているが、我々はそんなものは一顧だにせず断固として配備していかなくてはならないのである。

 

 八、全体主義侵略国のロシアと中国に勝利する「戦域核戦争」戦略

 

 我々は、ソ連がアメリカ・西側をはるかに上回る核兵器、通常兵器、化学兵器を配備しながら、なぜ「東欧解放」の演出と「ソ連解体消滅」の芝居を演じなければならなかったのかを、明確に認識しなければならない。戦略理論的に答えははっきりしているのである。

 すなわち、アメリカは一九八三年末から西ヨーロッパに配備を開始した地上発射の中距離核ミサイルのパーシングUとトマホークによって、ソ連のヨーロッパ部を核攻撃できる能力を得たのである。「ヨーロッパ戦域核戦争」を実行できる能力を得たわけである。

 もしもソ連が西ヨーロッパ侵略を開始したら、アメリカはこれらのINF(中距離核)をソ連の欧州部へ撃ち込むことになる。ソ連の指揮中枢、主要軍事基地、主要軍需工場、主要核弾頭備蓄庫などが攻撃目標となり、それらは壊滅的に破壊されることになる。たしかにこのヨーロッパ戦域核戦争では、アメリカ・西側に対して核戦力、通常戦力、化学戦力ではるかに優位に立つソ連が西欧へ攻め込んで勝つことになるが、しかしソ連はこの戦域核戦争の後では、もはやアメリカとの戦略核戦争(全面核戦争)を遂行する能力を奪われてしまっているのである。一方のアメリカ本土は聖域として無傷で残っている。従って、アメリカが戦略核戦争(全面核戦争)の恫喝をすればソ連は降伏するしかなくなるのである。そしてソ連の滅亡となる。だからソ連は西欧へ侵略することを抑止され、封じ込められてしまうことになるのである。

 しかもレーガン大統領は八三年三月、SDIの研究開始の決定をしたのであった。在欧米軍のINFで封じ込められてる間に、SDIの開発が成功し実戦配備されていくことになれば、ソ連のICBM、SLBMそして中距離弾道ミサイルは無効化させられてしまうことになる。だからソ連は完璧に封じ込められる。そればかりか、もしアメリカが「悪の帝国」のソ連を解体する解放戦争を仕掛けるとの恫喝を行なえば、ソ連は戦う前に降伏を強いられることにもなりうるのである。

 これが「欧州戦域核戦争戦略」である。ソ連のエリート(独裁者)たちはこれを正しく認識したからこそ、深い危機感を抱き、「東欧解放」を演出したり、ソ連消滅の演技をしてアメリカ・西側を騙し、INFを全廃させ(九一年五月)、またSDIを中止させていったのである。

 自由主義国の安全を守り抜くためには、日米安全保障条約やNATOなど同盟を強化するのは言うまでもないが、戦略論においても、攻撃力と防御力においても、敵国たる全体主義国に対して優位に立たなくてはならない。ロシアと中国は「戦略的パートナーシップ」を結んでいる。ロシア(=ソ連)の世界制覇の野望や中国の東アジア制覇の野望を粉砕するためには、我々はアメリカが八○年代において事実として実行した「戦域核戦争戦略」を自覚的に実践していけばよいのである。これは八八年頃から中川八洋教授が主張している戦略論である。

 西側同盟は、防御兵器としてはNMDシステムをアメリカに、TMDシステムを欧州、日本、台湾、韓国、イスラエル等に配備していく。さらにSDIの研究開発・配備もめざしていく。攻撃兵器としては、アメリカはINF条約を破棄して、アメリカのパーシング 、核トマホーク部隊を欧州、日本、台湾、韓国に配備していくのである。アメリカはまた空母など水上艦艇の核爆弾と核トマホーク(SLCM)も再搭載していく。日本は「非核三原則」などという反国家的政策は直ちに破棄すること。非核三原則は、ロシア(ソ連)や中国の尖兵である国内の反日左翼侵略勢力が主張する政策である。保守勢力は洗脳されてきたのである。

 以上の記述のうち、対中国の「東アジア戦域核戦争戦略」についてはこれでいい。あとは、日本自身でもアメリカからパーシングUや核トマホーク(GLCM)を購入するかライセンス生産するかして核武装することによって、中国に対する核抑止・防衛力をより一層堅固にすればよいのである。この場合には、日本のINFの核ボタンはアメリカと共有する「二重キー」となるから、アメリカも安心して日本の核武装に協力できるのである(『中国の核戦争計画』第二章参照)。

 一方ロシアに対するアメリカ・日本の「戦域核戦争戦略」は、INFだけではロシアの欧州部に届かないから成立しない。INFの日本配備だけでなく、アメリカのICBM部隊を日本に配備する必要がある。移動式にする。日本自身でもアメリカから移動式のICBMを購入し、またトライデントD−5(SLBM)搭載の原子力潜水艦を購入して配備していくのである。アメリカとの「二重キー」となる。これで完璧である。ロシアは完全に封じ込められて日本へ侵略することはできない。

 そればかりか、戦略核・INF・SNF(短距離核戦力)・戦場核、NMD・TMDそしてSDIで武装したアメリカをリーダーとする西側同盟は、自由主義に基づく解放戦争の恫喝によりロシア、中国の全体主義・侵略主義体制を打倒し、自由ゼロの両国の国民を解放していくことも可能になるのである。自由主義諸国陣営の真正な安全保障戦略は、封じ込めではなく「解放戦略」であるべきなのである。

 

 九、政治の最大の責務は国を守ることである

 

 政治の最大の責務は国の安全・存立と国の価値(真正自由主義)を守ることである。国防、安全保障だ。そのための中核組織が軍隊である。国の統治に当たる者は国防をはじめ重く厳しい責務を負っている。国防に関して言えば前章までに述べてきたことを実行していく責務を負っている。政治家、官僚が国防の責務を忘失し、自らの地位、出世、政権、役所といった私益、党益、省庁益を基準に行動するのは、国家と憲法(正当な九条)と真正な国民に対する裏切りであり、犯罪なのである。殺人事件等の凶悪な刑事犯罪などよりも遙かに重い犯罪である。この基本的なことさえ自覚していないリーダーたちがほとんどである。彼らは国のリーダーたる資格はない。

 保守派は明確に次の真実を認識しなくてはならない。憲法九条は国の自衛権を完全に容認(保障)しているのである。つまり軍隊の保持と交戦権を容認している(第2項)。むろん第1項は自衛戦争や多国籍軍の戦争また国連軍の戦争を容認している。だから九条をわざわざ改正する必要は全くないのである。

 マッカーサー三原則に基づいて作られた一切の軍隊と交戦権を否認した九条草案は、東西冷戦の開始を背景にして、憲法改正小委員会委員長の芦田均氏とGHQ内の保守主義者のホイットニー民政局長やケーディス次長との秘密裡の共同作業(マッカーサー元帥も了承)によって修正されて、国会で可決成立したのである。この修正とは、第2項の冒頭に「前項の目的を達するため」の文言を挿入したことだが、これによって第2項の内容は一八○度転換されたのである。すなわち自衛戦争、多国籍軍の戦争、国連軍の戦争等のための軍隊の保持と交戦権が容認(保障)されたのだ。当時の連合国の極東委員会のメンバー国(米英仏中ソ等)もそのことを認めていたのである。

 だが真正なエリート(真正な保守主義者=真正な自由主義者)が政界・官界・保守言論界に極めて少数であったために、保守勢力は、外国の尖兵で日本の乗っ取り・自由主義体制破壊を目標にしている違憲存在の反日左翼侵略勢力の「九条は一切の戦争を放棄し、一切の軍隊の保持と交戦権を否認している」「平和憲法を守れ」等々の思想闘争と大量宣伝を使った革命〃戦争〃に負けて、洗脳されてしまったのである。左翼侵略勢力は非合法化せねばならないのだ。

 「戦争と軍隊を放棄した平和憲法(九条)」とは神話以外の何者でもないのである。誤りは直ちに是正せねばならない。政治家と官僚は、左翼マスメディアと左翼議員を中心とする違憲の反日左翼侵略勢力と正面から対決し、閣議で「歴代内閣の九条解釈は非科学的・独善的であり、反国家であって明確に誤ったものであった。このことを深く反省して旧来の解釈は破棄する。九条の唯一正確な解釈は、これこれである」と決定していかねばならない。これは職を賭してやるべきことである。〃世論〃に迎合してやらないのは国家と憲法と国民に対する犯罪である。〃世論〃とは、反日左翼マスメディアの宣伝のことなのだ。敵に負けてどうする!

 九条問題は、この閣議決定と国家安全保障基本法案を作成して過半数で成立させれば全て解決する。九条の条文を明瞭なるものに改正する作業は、いつの日にか国会で行なえばよい。

 政治家、官僚は旧来の誤った九条解釈の下で作られた「専守防衛政策(戦略)」もすぐに破棄しなければならない。こんな戦略では国防は不可能である。攻撃的兵器を十分保有して想定敵国に脅威を与えなければ、全体主義国の侵略を抑止できないのだ。また(抑止が破れたとき)敵国の基地等への先制攻撃も当り前であるし、海外派兵も当然である。これらがなければ攻撃的兵器の存在意義はなくなるし、敵に勝利できないからだ。専守防衛政策は軍事の基本を否定した反国家的政策である。つまり憲法(正当な九条)違反である。もちろん集団的自衛権(行使)も合憲である。これらを閣議決定して改め、法案に盛り込むのである。専守防衛政策に基づいている防衛三法は九条違反であるから直ちにしかるべく改正する。自衛隊は軍隊とし、防衛庁は国防省にしなければならない。

 保守派も違憲存在の左翼侵略勢力のイデオロギー攻撃(戦争)に負け、頭脳を侵食されてしまっている。侵略する側は、野蛮な全体主義国であるロシア(=ソ連)や中国や北朝鮮やイラク等々であり、我々ではない。全体主義国の国民も、独裁支配者(党)によって侵略支配されているのである。だから西側自由主義国の核を含む軍備は善であり、全体主義国の軍備は悪である。西側自由主義国の軍備を増強し、全体主義国の軍備を縮少・廃絶していくことが正義なのである。保守派は国を守るために、思想を根本から立て直していかなければならないのである。このままでは近い将来、日本も他の自由主義諸国も亡びることになってしまう。

 

                                   二000年二月十五日記



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