■2003年4月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●遺伝子組み換え食品
遺伝子組み換え食品の発癌性が指摘される

 スコットランドの組織病理学者Stanley Ewenは、遺伝子組み換え食品には発癌性がある、と警告を発した。プロモーターとして用いられているカリフラワー・モザイクウイルスの遺伝子が肺がんや大腸がんのリスクを高めるとしており、遺伝子組み換え作物の試験栽培畑周辺住民の健康モニタリングを行うよう呼びかけている。GM作物畑の周辺では、地下水や食物がGM作物由来の残留物によって汚染されている可能性があり、癌を悪化させる危険性があるからだ。同博士の警告はスコットランド議会にも提出された。
〔Sunday Herald 2002/12/8〕

ベビーフード・メーカーがGMフリー宣言

 カナダの大手ベビーフード・メーカーのハインツ社が、自社製品の原料には、遺伝子組み換え作物及びGM由来のものをいっさい使用しないと宣言した。これはグリーンピースの活動によって実現したもので、同団体は、ネスレ社やミード・ジョンソン社などのベビーフード・メーカーにも働きかけている。カナダ政府がいまだに遺伝子組み換え食品の表示を義務づけていないため、消費者はメーカーが自主的に表示を行わない限り、知ることも選ぶこともできない状況にある。
〔Greenpeace 2003/1/30〕

北大教授が遺伝子組み換え納豆販売へ

 北海道大学大学院農学研究科教授・冨田房男らのグループは、遺伝子組み換え大豆を原料に納豆を製造し、インターネットで販売する方針を明らかにした。遺伝子組み換え大豆使用を明記して販売する初めてのケースになる。外国で栽培されている遺伝子組み換え大豆を用い、道内の納豆メーカーに委託して製造、北海道バイオ産業振興協会か、自分たちが設立するベンチャー企業A-HITバイオを通して販売する計画だ。
〔日経バイオテク 2003/2/17〕

●クローン
ニュージーランドでクローン乳牛

 チーズを高い効率でつくり出すミルクを生産するクローン牛がニュージーランドで誕生した。誕生したクローン牛は9頭で、牛乳の成分のバランスを大きく変え、牛乳に含まれるタンパク質含有量が8〜20%高く、凝固に要する時間も2倍短くなった。これまで医薬品製造目的で特定のタンパク質を増やしたクローン牛づくりは行われてきたが、チーズ生産目的で牛乳成分自体を変えた牛は初めてである。 〔BBC 2003/1/27〕


●ES細胞
米大学がヒトES細胞の組み換え行う


 米国ウイスコンシン大学のThomas P. Zwakaらが、初めてヒトES細胞の相同組み換えに成功した。この技術は、マウスでは以前から行われており、ノックアウトマウスをつくる際に用いられていたが、ヒトでは初めてである。実験では、ヒトゲノムからレッシュ・ナイハン病の原因遺伝子をノックアウトしたことが確認された。人間の遺伝子組み換えを可能にする技術が確立しつつあるといえる。 〔Nature Biotechnology 2003/2/10〕


●遺伝子組み換え植物
遺伝子組み換えタバコが市販される


 遺伝子組み換え技術によってニコチンの含有量を減らしたタバコ〔商品名クウェスト)が、全米7州で市販された。開発したのはベクター・タバコ社で、同社によると、ニコチンの量を減らすことで中毒からの解放を目指しているという。クウェスト1は、従来のライト・タバコに比べてニコチン17%減、クウェスト2は58%減、クウェスト3はほぼニコチンが入っていないという。同社はすでに、2001年11月より発癌物質を減らしたタバコ(商品名オムニ)を販売してきたが、売れ行きは芳しくないという。 〔AP 2003/1/27〕


●ゲノム
厚労省、遺伝子解析で国際シンポジウム

 2月26日、東京・霞が関の厚生労働省講堂で「ヒト遺伝子解析にともなう生命倫理を考える」と題した国際シンポジウムが開催された。これは、厚労省のミレニアム疾患ゲノムプロジェクトの一環で、国立循環器病センターと米国のNHLBI(国立心臓・肺・血液研究所)の主催で行われた。アイスランド国民の遺伝情報を調査しているデコード・ジェネティック社の研究者の参加も予定されていたが、裁判中のため公の場での発言は控えているとのことで姿を見せなかった。日本でも、すでに福岡県久山町などで住民から試料を収集し、遺伝子解析の研究が行われているが、今後ますます同様の研究が進められていくだろう。


●遺伝子治療
厚労省、九大遺伝子治療を継続審議

 2月27日、科学技術部会(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)が開かれ、九州大学医学部付属病院から申請が出されていた遺伝子治療臨床研究実施計画の審査が行われた。計画は、血管を作るのに関係している線維芽細胞増殖因子(FGF-2)をベクター(遺伝子の運び屋)となるセンダイウイルスに組み込み、それを閉塞性動脈硬化症やバージャー病の患者に直接投与し、血管を再生させる。複数の委員から有効性や安全性を疑問視する発言があり、下部組織の遺伝子治療作業委員会に戻してさらに検討することが決まった。
 九大の計画は、形式的には学内研究であるが、現在進行している他の遺伝子治療と同様に、実質的には企業が開発したベクターの実験で、そのベクターは、国策企業ディナベック研究所が開発し、英国のバイオ・リライアンス社に生産を委託している。

ことば
*ノックアウト
 特定の遺伝子の働きを止めること。

*レッシュ・ナイハン病
 伴性劣性遺伝疾患で、乳児期後半からの不随意運動、幼児期以降の自傷行為などが典型的症状。

*閉塞性動脈硬化症
 足などの血管が詰まって壊死を起こす病気。糖尿病の合併症や高齢者に多く見られる。

*バージャー病
 閉塞性血栓性血管炎。足などの血管が詰まる病気。40歳以下の男性の喫煙者に多く見られる。