■2021年9月号

今月の潮流
News
News2


今号の目次へ戻る
ジャーナル目次へ戻る

























バイオジャーナル

フィリピンがゴールデンライスの栽培を承認

 

 7月21日、フィリピン農業省はゴールデンライスの栽培を正式に承認した。GMイネとしては世界で初めての承認である。同国ではすでに、2019年12月にゴールデンライスを安全と評価し、食品としての流通を承認していることから、すぐにでも栽培され流通する可能性が強まった。実際に栽培が始まると、バングラデシュ、インド、インドネシアなどでの栽培が現実味を帯びるとともに、日本にも影響が出てくる可能性がある。

ゴールデンライスはビタミンAライスとも呼ばれ、ビタミンAの前駆体であるベータカロチンを米粒の中で増やしたイネである。ベータカロチンが多い作物、例えばニンジンやカボチャなどは、赤味や黄色みを帯びているが、このイネも米粒が黄色味を帯びていることから、ゴールデンライスと呼ばれてきた。

このイネをめぐっては、長い開発の歴史があり、論争が繰り返されてきた。1992年にスイス連邦工科大学の研究者であるイルゴ・ポトリクスらにより、ラッパスイセンの遺伝子を導入して開発された。栄養失調に陥っている途上国の子どもたちを救うという大義名分で開発が進められたが、栄養失調そのものの原因に迫り、根本的な解決を迫るものではないことから、その意義や必要性に疑問がもたれてきた。

GMイネが誕生したのは2000年だが、その時のイネは黄色味をほとんど帯びていないベータカロチン含有量が低いもので、実用化にはほど遠かった。その後、2002年にフィリピンでの栽培を目的に研究拠点がIRRI(国際イネ研究所)に移され、同時に商業権をシンジェンタ社が取得し、研究体制が変わった。そして2005年にベータカロチン含有量が増え、黄色味が増した次世代の「ゴールデンライス(GR)2」が誕生した。

次に、フィリピンで栽培できる品種の開発が始まった。しかし、導入した遺伝子が他の遺伝子の働きを妨げることがわかり、遺伝子を変更するなどしたため、フィリピンでの栽培に適したGR2が誕生したのは2017年のことだった。そして2019年12月にフィリピン政府が安全と評価し、今回の栽培承認となった。

これに対してフィリピン国内から批判の声が上がっている。フィリピンの市民団体MASIPAGは農民や消費者に、ゴールデンライスに対して強く反対するよう呼びかけた。またフィリピン・グリーンピースは、気候変動やコロナ禍で農民が苦闘しているさなかでの決定を強く批判し、承認取り消しを求めている。〔New Age 2021/7/29ほか〕