コメは世界の主要な主食作物の1つで、世界の人口の半数の主食になっており、必要とする1日のカロリー摂取量の約80%を供給している。コメの生産と消費の大部分は中国とインドで、東アジア・東南アジアの国々では大半がその国で作られ、主食として消費される。輸出入が少ないところに特徴があり、現在、自国で消費される割合は89.8%である〔FAO 2020/21〕
現在、遺伝子組み換えやゲノム編集などの遺伝子を操作したコメは市場に出ていない。しかし、開発は活発で、違法な形で流通することも多い。現在開発されている遺伝子操作イネは、除草剤耐性、害虫抵抗性、高温や冷害などの環境ストレス耐性、栄養強化などである。
最近の動きとしては、インド農業研究協議会(ICAR)がゲノム編集イネ2種類を承認した。1つは塩分およびアルカリ性土壌でも耐性を持つ「Pusa DST Rice 1」で、もう1つは気候変動への回復力、温室効果ガス排出量の削減、水使用量の削減、収量の増加を目的とした「DRR Dhan 100 Kamala」である。
これに対して農民が主体のGMOフリー・インド連合は、この2種類のゲノム編集イネの開発中止を求めて声明を発表した。声明では、@外来遺伝子が残っている可能性や遺伝子組み換えの可能性がある。Aゲノム編集作物に対する規制が緩いため、オフターゲットによる影響評価を得ていない。Bこれらのゲノム編集イネは環境や人間の健康に悪影響をもたらし、種子の権利を大企業に売り渡す可能性がある。このイネを承認したICARにおいて、農民代表として発言してきたヴェヌゴパル・バダラバダはこの声明を支持したため、その後、彼はその地位を追われた。
中国でも遺伝子操作イネの開発は活発である。同国の研究者は2023年に、高身長の遺伝子組み換えイネの試験栽培を行い、収穫を報告している。この研究者は、作物の丈を高くすることで生産量が増え、害虫や洪水にも耐性があると述べている。
中国政府はまた、2024年12月、収量を増やし食料安全保障を担うために進めているGMOイニシアチブの一環として、ゲノム編集イネの新たな品種に安全証明書を与えた。しかし、具体的な形質や栽培計画は不明である。また、中国の南京農業大学は、米国ミズーリ大学と提携して、細菌性の病気に耐性のあるゲノム編集イネを開発したという。これらの取り組みは、研究または試験段階にとどまり、商業栽培は当分なさそうである。
イタリアでは、遺伝子組み換え作物に対する市民の反対運動が根強く、ヴィア・カンペシーナ欧州によると、イタリア全土の18地域のうち15地域がGMOフリー自治体となった。しかしEUがゲノム編集など新たな遺伝子操作技術を応用して生産した作物を容認する動きを加速させていることから、イタリアでもゲノム編集作物を栽培する動きが出てきた。2024年5月、同国でいもち病耐性のゲノム編集イネ「アルボリオイネRIS8imo」の野外試験が始まった。しかし、作付けから数か月で刈り取られ、実験そのものは中止になった。しかし研究者は、刈り取ったイネから種子を採取し、研究を継続させている。
フィリピンではゴールデンライスの栽培が図られたが、市民の力で商業栽培は阻止されてきた。ゴールデンライスは、世界で最も貧しい人々の間で起きている、健康に深刻な影響をもたらし、時には致命的な影響を受けるビタミンA欠乏症(VAD)と闘うための遺伝子組み換え作物として喧伝され、開発されてきた。VADの予防については幅広いコンセンサスがあるが、ゴールデンライスはその有効性と安全性において、強い疑問が持たれている。ゴールデンライスは2021年から24年にかけてフィリピンでの栽培が承認されたが、環境や食品の安全性への懸念から、最終的に裁判所により承認は取り消された。
非GMO作物・食品、または野生の近縁種へのGMO汚染を追跡する世界的なデータベースであるGMO汚染記録は、コメに関する遺伝子汚染が、記録されたすべてのGMO汚染症例の約3分の1を占めていると報告している。2006年以来、認可されていない遺伝子組み換えイネが世界のサプライチェーンで繰り返し検出されている。汚染が試験栽培に起因するのか、違法栽培に起因するのかは不明である。このGMO汚染は、生計をコメ生産に依存している発展途上国の小規模農家に深刻な影響を及ぼしている。〔Non-GMO Project 2025/6/13〕
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