| 2月18日、トランプ大統領は「元素リンおよびグリホサート系除草剤の供給を確保することで国家防衛を促進する」ための大統領令に署名した。この大統領令は、農務長官に権限を与え、国内生産者に対して法的免責を与え、さらにいかなる実施規則も国内生産者の企業存続を危うくしてはならないと規定している。すなわちリンやグリホサートの生産企業は何ものにも左右されず生産できることになる。対象企業は、独バイエル社である。
グリホサートをめぐっては、米国では非ホジキンリンパ腫などのがんや健康障害を発症した被害者が、ラウンドアップを開発し販売してきた米モンサント社を訴え、10万人を超えるマンモス訴訟となった。2018年、裁判はモンサント社を買収したバイエル社に引き継がれ、現在も約6万7千件が係争中である。日本でも現在、グリホサートの毒性の再評価が行われており、訴訟の行方がこの再評価にも影響するとみられている。
元素リンは、それを用いた白リン弾がイスラエル軍によりパレスチナで、ロシア軍によりウクライナで使用され、被害が拡大し問題になっている。白リンは、酸素に触れると発火する物質で、戦時には煙幕や照明に用いられるとともに、建物などを焼き尽くす焼夷兵器として利用されてきた。加えて、人間が被爆すると重いやけどを負い、呼吸器や臓器が冒され、やがて死に至る非人道兵器である。しかし、1997年に発効した化学兵器禁止条約では対象に含まれなかった。特定通常兵器使用禁止制限条約の焼夷兵器に関する議定書で、民間地域の人口が密集しているところでの使用が禁止されているものの、その禁止は限定的である。最近では、白リン弾に加えて、赤リン弾も開発された。白リンが赤外線センサーで検知されやすく煙幕としての効果が弱いことからである。
グリホサートもまた、以前、化学兵器として米軍により中南米でのジャングル戦で枯葉剤として使用され、今日でもイスラエル軍が南レバノン、ガザ、シリアで住民の居住地域だけでなく、作物を枯らし食料を奪うために畑に散布している。人々の生活基盤を奪う兵器として、広く用いられているのである。
このラウンドアップを開発したモンサント社を独バイエル社が買収したことで、かつての毒ガス開発メーカーが、再び化学兵器の表舞台に登場した。そして、そのバイエル社を今回の大統領令によりトランプ政権が救済したのである。現在バイエル社はグリホサートの唯一の製造企業である。また米国内では、アイダホ州ソーダスプリングスでのリン採掘、アイオワ州マスカティンでの有効成分の合成、ルイジアナ州ルーリングでの製剤化――この国内サプライチェーン全体を同社が押さえている。
しかし同社は今、危機的状況にある。それは最初に述べた、がんを発症するなどの被害を受けた人たちによる訴訟の拡大である。バイエルが発表した数字では、2025年12月期の純損失は36億2000万ユーロに達し、さらに赤字が拡大している。10万人訴訟で生じた巨額の賠償費用や和解金、訴訟関連費用が重荷となってきた。
しかし、ここにきてバイエルへの追い風も吹いている。以前、ミズーリ州での陪審裁判で被害者に125万ドルを支払うよう命じる評決があったが、それに対してバイエル社が異議を申し立て、それを連邦最高裁が受け入れたのである。この春にも最高裁で口頭弁論が開かれる予定だ。今回の大統領令は、それを支える役割を果たすとみられている。この裁判でバイエル社が勝訴した場合、多くの訴訟が却下される可能性があり、同社の経営危機は大幅に軽減される。
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