戦艦アラバマ級(米)
アラバマ(BB55) ミネソタ(BB56) イリノイ(BB57) ロードアイランド(BB58) ミシガン(BB59) ジョージア(BB60) 本級は、ダニエルズ・プランの戦艦群に代わる新世代戦艦の第1シリーズとして米国で10余年ぶりに建造された16"砲搭載戦艦である。 本級は、海軍制限条約延長の可能性を考えてワイオミング級やニューヨーク級の代艦とする事ができる海軍軍縮条約の代艦性能制限枠内に収まる事が要求されていた。 また、パナマ運河通過問題とニューディール製作の失敗による予算不足に加え、海軍造艦設備拡大計画と同時期に建造が計画されていたため建造費を極力抑えコンパクト性と低運用コストを追求した設計で建造された。 このような経緯で設計された本級は、主砲に45口径16"砲3連装3基9門を装備する基準排水量35000トン、最高速力27ノットの中型戦艦として建造された。 この性能は、一見するとサウスダコダ級の50口径16"砲3連装4基12門、公試排水量47000トン、最高速力23ノットと比べ速力以外の面でかなり劣るように見える。 しかし実際には、米国が持つ可能な限りの新技術を盛り込んだ本級は、極めて優れた戦闘艦で特に新型主砲の45口径16"砲Mk6を装備した事により発揮できる火力はサウスダコダ級と比べて勝るとも劣らない程であった。 この45口径16"砲Mk6砲は、各砲門に間隔を持たせた独立懸架式を採用したことで独立装填、独立仰角も可能となり、発射速度が1門当たり2発/分に達しており、単位時間当たりの投射弾重量は中遠距離でサウスダコダ級を大きく凌駕していた。 しかも、それだけでなく初速に劣る45口径主砲ながら主砲仰角が拡大されて最大射程が延伸し、加えて通常弾と比べて弾重が1225sと2割以上も重い新型徹甲弾Mark 8 Mod 6 SHS弾が発射可能になった事により中遠距離での砲弾威力はサウスダコダ級のそれを上回っていたのだ。 しかも精密計算機の極みと言える機械式射撃管制装置の搭載は、本級に優れた射撃照準能力を与えていた。 特にレーダ(英国のRDFと類似する電波機器)の使用が確立された後には、光学測距装置との併用で25000m以上の遠距離においての初弾夾叉すらを可能としていた。 これは日本戦艦と比べて広い弾着散布界に助けられていた事も確かだが、それでもこの距離で初弾夾叉を米戦艦が可能とした事は、遠距離砲撃戦での優位に自信を持っていた日本海軍関係者を驚愕させるに充分であった。 また、本艦は米戦艦で始めて副砲を全廃止して砲塔型両用砲のみを補助砲とした戦艦でもある。 これは、高性能射撃管制装置の効果に加え、新技術のひとつである電動制御方式により補助された砲塔の旋回や砲身の仰角、砲弾の装填等の操作を的確に進行させる射撃システムの恩恵のひとつであった。 この電動方式の大規模採用で油圧や水圧の人力制御が主流だった日英戦艦の大型砲塔と比較して、旋回や仰角の速度および装填速度が極めて向上し、大口径主砲で中口径砲並の素速い咄嗟射撃が可能となっていたのである。 これにより至近距離の咄嗟射撃においても短時間なら1門当たり1分間に3〜4発の連続発射が可能になっていた。 その代わりとして防御力向上と排水量削減のため副砲が全廃され補助砲として5"連装両用砲のみが搭載された。 つまり英国が辿った両用砲の大口径化による副砲の廃止とは別の思想から選択された副砲の廃止だったのだ。 また、両舷に各5基の計10基が装備された両用砲は米軍艦の標準装備とも言える5"/38口径連装両用砲Mk12が搭載されていた。 この砲は、特に発射速度に優れており、その射撃は1分間に1基当たり20発以上、片舷では1分間に100発以上の発射が可能で、接近してくる敵の航空機と水雷戦隊に対しての猛烈な防御弾幕の形成が可能であった。 また、戦艦に搭載されたMk12用砲塔には、小口径弾および破片防御のために約60mmの装甲が施されていた。 その他に本級は、米艦としてはじめて完成時から28mm4連装機関砲Mark1を搭載していた戦艦でもある。 この機関砲は、日本軍が愛用した九六式25mm機関砲と比べて砲門数と威力、発射速度に優れおり、日英両国が愛用したビッカース40mm多連装機関砲と比べても、対空射撃力に限って比較するなら有効射程や威力では劣るもが、その高い発射速度と良好な操作性により高い阻止弾幕形成能力を発揮した。 また、防御面でも砲塔数減少等による主要防御部の小型化等により少ない排水量で舷側310o、防御甲板146o(船体部垂直装甲の合計は約208mm)、砲塔前面457o、砲塔天蓋185o、砲塔支筒440oとサウスダコダ級と同等以上の装甲防御力を有している事に加え、注排水や消火の設備等に最新式ダメコン・システムが採用されている。 特にダニエルズ・プラン艦の弱点とされた遠距離砲戦や航空攻撃防御で重要とされる水平装甲は、サウスダコダ級の89mm(大改装後115o)と比べて146mmと格段の増強がなされていた。 また、舷側装甲帯は、それまでの米戦艦のように船体外縁に取り付けるのではなく、船体内部に取り込まれ、主要防御部の外鈑として傾斜して取り付けられており、その傾斜効果により実質的な装甲防御力が向上していた。 ただし、この舷側装甲帯の取付方法については、装甲帯で敵弾の進入を阻止しても、阻止された敵弾が装甲帯と船体外鈑の間の船腹内やバルジ内で炸裂して大浸水や火災を発生させる可能性が大きく、欠点と指摘する意見もあった。実際、極めて薄い舷側の外鈑は、8"砲弾や6"砲弾にも貫通されており、小口径弾により思わぬ損害や浸水が発生する事もあった。 全幅に制限のないルイジアナ級以降の戦艦の装甲帯配置位置が最外部に戻った事を考えると総合的に見て船幅を増加させずに舷側装甲に良好な傾斜を持たせるための苦肉の策であったとするのが妥当であろう。 また本級は、従来の米戦艦と同じく船腹部の多層化等の対水雷防御を強く意識した設計がなされいた。特に本級は新技術として艦尾底部にスクリュウと舵を魚雷や水中弾の直撃から護るツイン・スケグと呼ばれる船底構造を採用している。 この内側推進軸を包み込む様なツイン・スケグの採用により左右方向からの魚雷や水中砲弾の直撃からスクリュウと舵が保護される事となるため、パナマ運河通過問題等で船幅が制限されていた本級の耐水雷防御力を極めて向上する効果があった。ツイン・スケグ構造は、その優れた効果により続くミズーリ級でも採用されている。 しかし、流体力学の高度な解析方法が確立する以前に設計された、このツイン・スケグ構造は、速力が25ノットに達するあたりから乱流を生じて船体に異常振動を発生させる欠点があった。この異常振動は、高速航行時の遠距離砲撃精度を大きく低下させる厄介な問題であった。 加えて、ツイン・スケグが船体の水中面積を拡大していたため、極めて効果の高い新型のマリーナ方式舵を採用したにもかかわらず本級の旋回半径は670mとお世辞にも優れているとは言い難いものだった。 それらの問題により船幅制限を考慮しないで設計されたルイジアナ級以降の米国戦艦では、ツイン・スケグ構造は採用されなくなった。 また、本級は広大な太平洋での作戦を重視した設計で他国戦艦に比べて燃料弾薬の搭載量が多く、その搭載量は10000トン近くに達していた。そのため当然満載排水量は47000トンにもなり15ノットで15000海里以上と言う列強戦艦中最長級の航続距離を持っていた。 加えてこの燃料タンクを含めた予備浮力は大きく、ほぼサウスダコダ級の予備浮力に匹敵するものであった。 この傾向は続くミズーリ級以降の艦にも受け継がれた。 この他の特徴として本級は、第三砲塔後方の船尾部にカタパルト2基、デリック1基を装備した航空機運用設備をはじめて建造時から用意して常時航空機2〜3機を運用可能な優れた能力を有していた。 また本級は、それまでの米戦艦では、船体中央部の甲板上等に多数が搭載されていた内火艇等の小型作業艇の搭載を極力削減する事で、それらに必要な容積を削減して排水量の削減を図っていた。これは米戦艦が帰港時に直接桟橋へ接岸する方法を主流とした事に対応したもので、直接接岸できる桟橋等が無い場合は、その基地所属の小型艇が応援する事とされていた。 ただし、実戦において喪失艦が発生すると総員退艦時等の緊急避難用小型艇が著しく足りない事が判り、その対応として破片の飛散防止材の意味も兼ねて多数の大型ゴムボートが船体の至る所に縛り付けられる事になった。 ちなみに、この多数の大型ゴムボート搭載は、他の米戦闘艦でも実施され大戦中期以降の米艦艇のトレードマークのひとつとなった。 本級は、1937年に2隻が、また1938年に4隻が着工され1940年秋から続々と就役し、大戦初期の米国戦艦戦力の中核として重要な活躍を見せた。 本級は、カタログ・スペックからの予想を上回る、極めて優れた総合性能を持つ戦艦であり、特にSHS弾を使用できる攻撃力と極めて打たれ強い耐久力により個艦総合戦闘能力では、英国のインビンシブル級やキング・ジョージ・X世級等の16"砲搭載戦艦と充分以上に渡り合えた。 その優れた性能が以後の米戦艦に与えた影響は計り知れない。また戦歴も当然ながら武勲に満ち溢れていた。 基準排水量35000トン 満載排水量46500トン 最高速力27.8ノット 航続力15ノット/15000海里 主武装16"V×3 5"U×I 28mmMGW×G カタパルト×2 航空機×2〜4 他 |