博士課程の休学問題


大学院を休学しておきながら、ほぼ毎日のように研究室に顔を出し、仕事を続けている人間がいる(1)。

新潟大学大学院自然科学研究科で、福祉人間工学(歯科医療工学)を専攻する大学院生.である。彼は、博士後期課程の3年次を終えた時点で休学し、2005年4月から3年目の休学に入る。この時点で、実質的には「D6」ということになる。彼が休学した理由を聞いたことがあるが、それは次のような、我が耳を疑うものであった。

・休学中は、授業料を支払う必要がない。
・第1著者の学術論文が2篇以上アクセプトされたら復学し、課程博士で学位の申請が出来る(2)。

私が見たところ、こういった策略を思い付く頭は彼には無いから、誰か入れ知恵をした輩が近くにいるはずである。「休学中に研究室で仕事をする」という不正行為は、法的に問題があるのかどうかは分からないが、少なくとも「社会通念上、許されないこと」ではないのだろうか?

[脚注]
(1) 「週に3回(火曜日、木曜日、土曜日)のアルバイト(新潟大学旭町学術資料展示館)をする以外は、研究室に来ている」という話である。彼が休学していることを周りの大学院生は知らないのかもしれないが、少なくとも彼の指導教員である教授は知っているはずである。また、大学院の事務は、彼が休学していることを知ってはいるが、まさか彼が研究室に来て仕事をしていることなど、思いもよらないのだろう。国立大学が法人化されてから、どの大学も財政状況は逼迫(ひっぱく)している。授業料を支払わないで居座り続ける大学院生を黙認するほど、新潟大学の財政状況は豊かなのだろうか?
(2) 留年して正規の年数(3年間)で博士後期課程を出られなければ、学位の申請に必要な学術論文数は、通常よりも増えるのが当たり前である。「論文博士」制度が廃止されようとしている昨今、もし彼の言ったことが制度的に可能なら、規定数の学術論文がアクセプトされるまで、休学という手段を選択する大学院生が、これから増えて行くのではないだろうか?ちなみに、国立大学法人の場合、私立大学とは異なり、休学費用(施設設備費、図書費、在籍料、等々)は発生しない。

[追記] この問題の人物は、2003年4月から丸4年間の休学期間を経て、平成19年(2007年)3月22日付けで「博士(工学)」の学位を取得している。休学していなければ、実質的には「D7」で、博士後期課程の在籍可能年数である6年間(正規の年数の2倍)を優に超えているから、本来ならば少なくとも3篇の学術論文が必要な論文博士の扱いになるところである。しかも、あろうことか「課程修了者」として、課程博士に必要最小限の、たった2篇の学術論文を提出しただけで博士号を取得している(2篇のうちの1篇は日本の学会誌に掲載され、もう1篇は、彼が掲載されることを目指した難関の国際誌とは別の、レベルの劣る国際誌に掲載されている。この中で、論文原稿の改善を実質的に指導した私に対する謝辞をおこなっていないところが、この人物の狡猾なところである[つまり「自分ひとりの力で、論文原稿を執筆した」と、周りに思い込ませている狡猾さがある])。新潟大学にも良心が残っていると期待した私が馬鹿だったようで、この件は、これから博士号の取得を目指す者に禍根を残す「悪しき前例」と、きつく糾弾されなければなるまい。


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