論文の原稿で「The data is ......」と書いていたところ、かつての指導教官だった教授から「dataは複数形だから、datumだろう」と、まるで鬼の首でも取ったかのように勝ち誇られ「あんたでも、こんな間違いをするんだね」と皮肉られたことは、私の心の奥深くに刻み込まれている(1)。
「dataはdatumの複数形」というのは、もちろん私だって、英語を習い始めた中学生の頃から知っている。そして「dataは単複両用」ということも知っている。これまで色んな文献を読んで来たが、わざわざ単数形の「datum」を使用している論文には、一度たりともお目に掛かったことはない。もし書くのなら「The datum is ......」ではなく「One of the data is ......」とすべきところであるが、そんなまどろっこしい書き方は、今日(こんにち)どこの学術雑誌をみても、その存在を確認することすら出来ない。
当時は、教授の指摘が余りにも馬鹿らしかったので、反論する気力も起こらなかったことを覚えている。ちなみに、私は、教授が直した「datum」という単語を「data」に戻した上で、該当する論文の原稿を投稿しているが、欧米人のレフェリーからは何の指摘も受けていない。
[脚注]
(1) 当時、年齢が60歳をとっくに越えた教授が、まだ30歳そこそこの研究者の卵をつかまえて言う科白(せりふ)ではないだろう。