大学院卒業?


世間的には「大学院卒業」という文言が、まことしやかに使われている。大学院卒業という文言を使う理由を推測するに、大学院の修士課程(博士前期課程)と博士後期課程の区別を付けず、両者を一緒くたにしてしまっているからだと思う(1)。

大学院は、修士課程(博士前期課程)と博士後期課程に分かれている。もし大学院の博士課程が前期と後期に分かれていなければ、大学院卒業という文言は有効である。しかし、それぞれの課程は分離独立しているので、大学院卒業という文言は使えず、代わりに大学院修士課程(博士前期課程)修了、または大学院博士後期課程修了という文言を使う。

プロフィールの最終学歴に、仮に大学院卒業と記載した場合、彼、または彼女が、大学院の修士課程(博士前期課程)を修了したのか、それとも博士後期課程を修了したのかは不明である。大学院卒業という文言を使う方々は「両者を区別する必要がない」と考えているようだが、それが、そもそもの間違いである。以下に、なぜ間違いなのか、その理由を簡潔に説明する。

大学院の場合、修士課程(博士前期課程)では修士論文を、博士後期課程では博士論文を提出して、それぞれ審査を受ける。実は、修士論文というのは大学の卒業論文に毛が生えた程度の難易度しかなく、大学院の修士課程(博士前期課程)に進学して必要単位数を履修し、2年間の修業年限を真面目に勤め上げさえすれば、誰でも簡単に修士号が取れてしまうような、その程度の代物でしかないのである。

これに対し、博士後期課程で博士論文を提出して審査を受けるには、国際専門誌や学会誌に複数(2篇以上)の査読付き論文を受理させることが必須条件になる(私が所属した研究室では、博士号を取得するのに、第一著者で国際専門誌に少なくとも5篇の論文が受理されなければならないという不文律が存在した)

難易度で言えば、博士号と修士号は月とスッポン、天と地ほどの差、雲泥の差がある。そのため、私たち研究者は、博士号と修士号を厳然と区別している(〇〇博士とは呼び掛けるが、〇〇修士と呼び掛けることはない。また、現役時代の役職や肩書きがどんなに素晴らしい人でも、定年などで退職してしまえば只の人だが、〇〇博士という称号は一生もので、現役を引退した後も普遍的に使われる)。従って、同じ大学院修了でも、博士後期課程修了と修士課程(博士前期課程)修了を同一視することに、はなはだ無理があるのは自明の理である。なおのこと、大学院修了の意味で大学院卒業の文言を使うことにも無理があることは、これでお分かりいただけたのではないだろうか?

[2022年11月22日追記]
(1) 2022年11月22日(火)にマスコミ各社が報じた「新卒採用ウェブテスト替え玉受験」のニュースでも、被疑者に「京都大学大学院卒業」という肩書きが当たり前のように使われていた。


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