この「もってのほか」だが、何故このような名称が付いたのかと言うと、昔からの伝説では「こんな旨いものを嫁に喰わせるなんて、もってのほかだ」と姑が叫んだことに由来するらしい(1)。古式ゆかしき家長制度下での、嫁姑の関係を象徴するかのような、食用菊ではある。幼少期の頃の拙い記憶では、山形を舞台にした「もってのほか」というTVドラマがあったように思う。
大学に入って新潟で暮らすようになると、新潟では「おもいのほか(中越地方の言葉で、下越地方では「カキノモト」と言う)」という食用菊があることを知った。食べてみると、おもいのほか美味しかったことから、この名称が付いたという話である。遥か昔の大学院生の頃だったと思うが、この「おもいのほか」を目の当たりにする機会があり、菊を食する文化圏が山形の近くにあることに、妙に感激したものであった。しかし、もってのほかとの違いが、どうしても私には分からなかった。そこで「山形では、もってのほかという食用菊があるのですが、それとどう違うのですか?」という質問を相手にしたのだが、そのときは回答を得ることができなかったと記憶している。
後に伝え聞くところによると、どちらも同じ「延命楽(えんめいらく)」という食用菊の品種らしい。それにしても、同じ品種に一方では「もってのほか」と名付け、他方では「おもいのほか」と名付ける。その名付け方の違いに、土地柄が反映されているようで、非常に興味をそそられるものがある。
[脚注]
(1) 他に「菊の御紋(天皇家の紋章)を食するのは、もってのほかだ」と誰かが言ったことに由来する、とする説もある。