1989年11月9日、東西の冷戦構造が崩れ、ベルリンの壁も崩れた(1)。その直後、ある学術論文の校正刷りが航空便で私の元へ届けられ、引用文献のひとつが編集者の手によって赤ペンで修正されているのを目の当たりにしたとき、私も壁の崩壊といったものを漸く実感できたのである。
具体的には、米国で発行されている国際専門誌「Copeia」に掲載された論文(Hasumi et al., 1990)の、とある引用文献の記載のことである(下記)。これが「West Germany」から「Germany」へと修正され、編集者の「もうWestは要らない」という誇らしげなコメントが、妙に印象的であった。
Mann, T. 1984. Spermatophores. Springer-Verlag, Berlin, Germany.
[脚注]
(1) 現在のドイツの首都であるベルリン(Berlin)は、当時の東ドイツ=ドイツ民主共和国(DDR: Deutsche Demokratische Republik)にあり、壁で東西に(Ost und West)分断されていた。この「Berlin (West)」が当時、東ドイツの中にある西ドイツ=ドイツ連邦共和国(BRD: Bundesrepublik Deutschland)であった。