一般に英語で学術論文を書く場合、羽角正人は「Masato Hasumi」と表記する。実は、これで何の問題もない。もし姓・名の順に書きたければ、姓の次にコンマを入れて「Hasumi, Masato」とすれば良いだけの話である。これは、学術論文の参考文献をアルファベット順に並べて書く場合の、一般的な方法である(例えば「Hasumi, M.」となる)。
昨年あたりから奨励されているのが、姓を大文字で表記する方法である。これだと「Masato HASUMI」となり、より間違いが少なくなること、請け合いである。問題は「この方法で、コンマで区切らずに姓・名の順に書いたとき『HASUMI Masato』が、相手に正確に伝わるか?」ということだと思う。
これには「大文字表記が姓を示す」という、国際社会の理解が得られなければなるまい。しかし、この表記法が適用できない国も少なくない(1)。
誤解を生じさせることなく、日本人の名前を姓・名の順に書くためには、大文字表記の場合も、姓の次にコンマを入れて「HASUMI, Masato」とする以外に、方法はないのではないだろうか?
[脚注]
[脚注の脚注]
(1) 日本でも、江戸時代の一般庶民は姓を持たないのが普通であるし、このような国は現在でも少なくない。例えば、これまで再三登場するインド人留学生の名前は「N. S. Kumaraswami(1)」である。「N.」は父親の名を「S.」は母親の名を示し、フルネームで表記する「Kumaraswami」が、彼の名である。彼は「インドでは、名前は個人に与えられたものだから、アイデンティティーを尊重するのなら、自分のことを『Kuma』などと省略せずに『Kumaraswami』または『N. S. K.』と呼んで欲しい」と言っていた(私は、いつも彼のことを「Dr. Kumaraswami」と呼んでいた。これは、私のことを「Dr. Masato」と呼ぶようなものである。しかし、この「Kumaraswami」という呼び名こそが、彼のアイデンティティーそのものであることに、他の人たちも思い至るべきであった)。
(1) 彼の生まれ故郷インドのタミル地方で話されるのは、タミル語(Tamil)である。この言語では、彼の名「Kumaraswami」の「Kumar」も「Swami」も「one of gods」を意味し(インドは多神教の国)、二つの神の間にある「a」は接続詞だという話である。ちなみに、英語で「swami」と言えば「ヒンズー教の聖職者(a Hindu religious teacher)」のことである。