紀要の紛失!?


イタリアの研究者に、Morisita (1959)のコピーを送ることになった。彼から依頼を受けて、さっそく新潟大学図書館情報検索システム(OPAC)で調べると、九州大学理学部紀要(生物)は、理学部生物学科の図書室にあることになっている。そのため「週末は休みで図書館は閉まっているから、来週の月曜日にコピーを取ってあげるよ」というメールを送ったのは、2003年2月15日(土曜日)のことであった。

16日(日曜日)は「コピーを取ったら、すぐに送れるように」と封筒の宛名書きを済ませ、17日(月曜日)になって生物学科の図書室に出向いてみれば、幾ら探しても肝心の紀要が見当たらない。司書を兼ねた事務官に尋ねると「紀要関係は全て本館(中央図書館)の書庫に保管転換した」と言う。

書庫に入る手続きを済ませ、くまなく探すこと、およそ40分間。とうとう自力では見つけ出すことが出来なかった。こんなことは初めてである。九州大学の紀要は数が多く、本棚2列にひとまとめにされて、ぎっしりと詰まっている。ところが、理学部の紀要は生物だけが影も形もなく、見事に抜けているのである。「Memoirsで始まっているから、間違って洋雑誌のMの書架にあるのかも?」と思ったが、そこにはあるはずもなかった。「もしかしたら未整理のままなのかも?」と思い、更に書庫の奥にある集積書架まで探してみたが、それでも見つかることはなかった。

書庫から出て、たまたまカウンターにいた若い司書に尋ねてみても「誰かが借りているかもしれませんから、書籍調査願いを書いて出して下さい」と、マニュアル通りに(?)言うだけで、まったく埒(らち)が明かない。何度も説明を繰り返しているうちに、近くにいた年配の司書が事情を聞いてくれて、雑誌の受け入れ情報を調査してくれることになった。

カウンターから少し離れて待つこと、約20分間。彼女の説明によると「理学部生物学科の図書室は『九州大学理学部紀要(生物)を本館の書庫に移した』と言うけれども、こちらでは受け入れていない。OPACで調べても、理学部生物学科に所蔵していることになっている。もしないのであれば、これは紛失扱いにするしかない」ということであった(1)。

イタリアの研究者にメールで事情を説明したところ、即座に「どうしても必要な文献だから、なんとかして手に入れて欲しい」と懇願され、中央図書館参考調査係を通して、他大学の図書館へ文献複写依頼をすることになってしまった。これが、2月18日(火曜日)のことである。

こうして、Morisita (1959)のコピーを漸く手に入れ、イタリアの研究者に航空便で郵送することが出来たのは、それから約2週間が経過した3月3日(月曜日)のことであった。

もし「紀要の紛失(2)」という不測の事態がなければ、このような「余計な手間暇」や「お金(3)」をかけなくても済んだはずである。お粗末な、所蔵文献の管理体制ではあった。

Morisita, M. 1959. Measuring of the dispersion of individuals and analysis of the distributional patterns. Mem. Fac. Sci. Kyushu Univ. Ser. E (Biol.) 2: 215-235.

[脚注]
(1) 理学部生物学科図書室の司書を兼ねた事務官は「本館の書庫に移したのに、OPAC(の所蔵情報)を直さない」と、逆に憤慨していた。ちなみに、この事務官は2003年3月31日付で退官した。
(2) 事務官が、この紀要のことで誰かと電話で話している内容を側で漏れ聞いていて「紛失」という言葉に疑念を抱き、彼女に「廃棄したんですか?」と尋ねると「そうみたい」という言葉が返ってきた。「紛失と廃棄とでは、かなり事情が異なっているのではないか?」と思ったが、済んだことは仕方がないので、それ以上の追究はしなかった。
(3) 今回、他大学の図書館(この場合は、九州大学附属図書館)に文献複写依頼をすることで請求された料金は、郵送料の160円を含めて、545円であった。A3用紙11枚分のコピーなので、1枚あたり35円の単価である。大学のコピー機の単価は1枚あたり9円なので、もし紀要の紛失がなければ、自分でコピーを取って、たった99円で済んだことになる。


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