他人を疑ってはいけない


私は、自分の仕事や活動の邪魔をされるのが大嫌いである。だから、自分がされて嫌なことを、他人に対しておこなうことはない。

2003年5月13日(火曜日)のお昼ちょっと前のこと、いつものようにコーヒーを煎れようとして流し台をみると、普段、バングラディシュ人が使っているカップが壊れている。「ああ、壊したんだなあ」と思いながらコーヒーを煎れる準備をしていると、その彼が部屋に入ってきて、いきなり「おまえが壊したのか?」と私に詰め寄ってきた(もちろん英語で)

「そんなの知るか」と怒ると「この部屋には、普段、おまえしかいないだろう(1)。今日、部屋に来てみたら、カップが壊れていたんだ」と、明らかに私を疑っている。だから「いいか、思い出してみろ。昨日、おまえが帰るとき、カップは壊れていたか? おれは昨日、おまえより早く帰ったんだぞ」と強い口調で諭すと「なぜ、そんなに怒っている。これは皆に聞いていることだ」と、支離滅裂なことをのたまう。もう一度、同じことをゆっくりと、噛みしめるように言って聞かせると、今度は「カップは昨日、壊されたんだ」と言葉を換えてきた。

「どうも言ってることが矛盾している。どうしても、おれを犯人にしたいらしいな」と思いながら、再び「私は知らない」と言うと「このカップは安いものだが、おれにとっては、○○教授からもらった大切なものだ」と、まだ私に疑いの目を向けている。「おまえの状況は理解した。が、いいか、おれは知らないし、他人を困らせるようなことはしない。そんな私を、おまえは疑ってはいけない」と諭すと、彼は「あなたの貴重な時間を潰して申し訳ない」と、おきまりの文句を言って、なぜか今度は意外にあっさりと引き下がってくれた。

当のバングラディシュ人が、自分でカップを壊して、その罪を私に擦(なす)り付けようとしたのでなければ(2)、誰か他に壊した人が存在するはずである。まあ、そんな人が名乗り出るとも思えないから、真相は闇の中なんだろうなあ(3)。

[脚注]
(1) 2003年4月から部屋は、生物学関連の様々な分野の研究室に所属する総勢15人の大所帯になったが、私の場合、野外調査をしないときは部屋でディスクワークをしていることが多く、必然的に私だけ部屋にいる機会が増えてしまう。
(2) 以前も「MOがなくなった(My MO was lost!)」と周りを騒がすから、誰かに盗まれたのかと思って皆で心配していると、実は「間違って自分でMOのデータを消してしまった」というのが真相であった。壊れたカップが「○○教授からもらった大切なもの」であるのならば、その教授に「自分で壊した」とは、とても言えないだろう。
(3) もし仮に、私をおとしいれようとする力が働いているのだとしたら、それは「私という人間を知らない愚かな行為」としか言いようがない。私のことをよく知っている人たち(例えば、家族とか、昔の彼女とか、親友とか)は、口をそろえて、こう証言するだろう。「彼が、そんなことをするはずはない」と......(1)。

[脚注の脚注]
(1) ここで、誤解なきよう述べておかなければならないのは「私の『独り言』が、以下の迷惑な人間に対して注意をしているに過ぎない」という事実である。従って、そのことで何か事が起こったとしても、私の関知するところではない。

「本当に懲りない人、困った人というのは、他人の忠告を全く意に介さず、のうのうと生きている」


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