羽角正人: 湿原のキタサンショウウオ. キタサンショウウオの冬ごもり. 温根内通信(釧路湿原国立公園温根内ビジターセンターニュースレター) 41: 3, 1995年11月.
湿原のキタサンショウウオ

キタサンショウウオの冬ごもり

 釧路湿原に冬の季節がやって来ました。これまで夜中に、昆虫やミミズなどの餌を採るため土の上を歩き回っていたキタサンショウウオは、春まで長い眠りに入ります。でも、どこで彼らが冬を越すのか分かっていません。
 本州の東北・北陸・北関東に広い範囲で生息するクロサンショウウオは、腐葉土の中に深く潜って冬を越します。土の上には雪の布団が敷かれ、外の寒さを和らげてくれます。春になって雪が解けると、冬眠から覚めた成熟個体は、繁殖のために池へ向かって移動します。雪解けの速い大きな木の根元や日当たりの良い斜面を越冬場所に選んだ個体は、まだ積雪の多いなかを我先にと飛び出して行きます。
 私は今年の4月、大楽毛(おたのしけ)の湿原でキタサンショウウオが卵を産む池を区画するため、周囲の地面にプラスチックの杭を打ちました。ところが、いくらハンマーでたたいても、10cmもすると杭が刺さりません。土が凍っていたのでした。杭がスムーズに刺さるようになったのは、繁殖シーズンも終了した5月初旬のことでした。それまで凍土を実感したことのなかった私に、素朴な疑問が浮かびました。
 キタサンショウウオが土の中に深く潜って冬眠していたのなら、彼らは現在、こうして産卵してはいないでしょう。土の中の浅いところにいたのなら、彼らは土と一緒に凍っていたに違いありません。谷地坊主や池の中で冬を越す可能性も考えられますが、それらも土と同じく凍ります。さて、冬に凍らない場所は湿原にあるのでしょうか。それとも、キタサンショウウオは氷漬けの状態で春まで過ごすのでしょうか。その場合には、体を凍らせないための物質を体内に蓄える必要がありそうです。さあ、皆さんも考えてみて下さい。

羽角正人(はすみまさと=新潟大学理学部生物学教室)


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