トガリネズミ―キタサンショウウオを捕食する動物
食虫類であるモグラの仲間にトガリネズミがいます。釧路湿原にはオオアシ、エゾ、カラフトヒメの3種類のトガリネズミが生息しています。動物図鑑には、トガリネズミは昆虫やミミズを食べると記されています。ところが、彼らはサンショウウオを捕らえ、食べてしまう動物でもあるのです。
私は今年の4月から10月まで、大楽毛(おたのしけ)の湿原でキタサンショウウオとトガリネズミの調査をおこないました。その結果、彼らの行動圏は時間的にも空間的にも重なることが分かりました。しかも、期間中に陸上で捕獲した総数がキタサンショウウオは163匹であるのに対し、トガリネズミは539匹でした。
これは驚くべき数字です。なにしろ捕食される側の動物より、捕食する側の動物の方が圧倒的に数が多いのですから。もちろん、捕獲した総数が動物の生息密度を表すものではないのですが、それにしてもトガリネズミの数は多すぎます。このような湿原に、なぜキタサンショウウオは生息することができるのでしょう。その理由は色々と考えられます。
1) トガリネズミの攻撃から身を守る手段を持っている
2) 捕食されても個体群が維持できるだけの個体数がいる
3) 日本のトガリネズミはサンショウウオを捕食しない
北米産の皮膚に毒を持つサンショウウオには、トガリネズミから攻撃を受けたとき、鳴き声を出して威嚇するものがいます。捕食した相手がおいしくないことを学習したトガリネズミは、この鳴き声が発せられると相手を攻撃しなくなります。また、北米産の牙のような長い歯を持つサンショウウオは、トガリネズミから攻撃を受けたとき、逆に相手の鼻先にかみつきます。このような捕食者に抗する行動が、キタサンショウウオにみられるという証拠は何もありません。でも、この湿原で彼らは何世代も生き延びてきたのです。その方法とは? さあ、皆さんも考えてみて下さい。
羽角正人(はすみまさと=新潟大学理学部生物学教室)