四つ指のキタサンショウウオ
皆さんの手足を広げてみて下さい。指は5本ずつありますよね。でも、キタサンショウウオは、手(前肢)も足(後肢)も指は4本です。
一般に、サンショウウオやイモリなどの有尾両生類は、前肢の指が4本、後肢の指が5本です。しかし、私たちの足では小指に相当する、有尾両生類の後肢第5趾(足の指を「趾(し)」といいます)は、退化・欠如する方向へと進化します(この傾向を形質傾斜といいます)。その結果、生じた後肢が4趾であるという形質は派生形質と呼ばれ、この形質を持つ種は地球上に新しく誕生したと考えられています。ある形質を共有する種を集めて一つのグループにしたものを属といいますが、有尾両生類では後肢が完全に4趾の種は、その際立った特徴から一属一種に分類されています。つまり、有尾両生類の進化の過程で新しく出現したキタサンショウウオという種が、たった一つの属を形成しているわけです。
キタサンショウウオ属がグループの一員となっているサンショウウオ科には、最大派閥のカスミサンショウウオ属がいます。この属には、日本に生息するサンショウウオのほとんどの種が含まれています。このなかで、本州の東北・北関東に広い範囲で生息するトウホクサンショウウオでは、地域によって、後肢が4趾の個体も5趾の個体も出現します。また、後肢第5趾が痕跡的か発育不良の、中間的な形質を持つ個体もいます。後肢が4趾の個体は太平洋側の個体群に多く、日本海側では少ない傾向にあります。このような違いは地理的変異と呼ばれ、この種の大きな特徴となっています。これは、それぞれの個体群が、何万年か後には、新しい種へと分化する可能性を秘めていることを意味します。
近年、後肢が完全に4趾の種が、カスミサンショウウオ属に仲間入りしました。ハクバサンショウウオです。先に私は「後肢が完全に4趾の種は一属一種」だと述べました。この分類基準がハクバサンショウウオに適用できなかったのは、この種が、カスミサンショウウオ属の他種と遺伝的な距離が近かったからです。後肢が4趾のハクバサンショウウオにとって、遺伝的な距離はどのような意味を持つのでしょう。さあ、皆さんも考えてみて下さい。
羽角正人(はすみまさと=新潟大学理学部生物学教室)