有尾両生類(サンショウウオ類)の「全般」に関する質問(10)

> 羽角先生、大変です。6/25(火)17:44にYBC山形放送から配信された「イモリが狙う卵 守るのはクロサンショウウオ 産卵直後の行動を西川町でカメラが捉える」という記事が間違いだらけです。どうしたら良いですか? (2024年6月27日)

サイトを拝見しました。確かに、いくら素人とは言え、これは酷いですね。YBC山形放送に抗議して良い案件です。県立自然博物園の職員が捕食者であるイモリに対して「クロサンショウウオが追い払おうとしている」とコメントしているようですが、卵嚢(卵塊とは言いません)の周りに陣取っているオスは産卵に来るメスを待っているだけで、卵を守っているわけではありません。クロサンショウウオを含むサンショウウオ科の種に「親による卵の保護(parental care)」がないことは、Hasumi (2015)で指摘し、国際専門誌にレビューを書いているのですが、まだまだ一般には浸透していないようですね。
・Hasumi M (2015) Social interactions during the aquatic breeding phase of the family Hynobiidae (Amphibia: Caudata). Acta Ethologica 18(3): 243-253 doi: 10.1007/s10211-015-0214-z


>こんにちは。私は、とある山小屋で働いている〇〇と申します。サンショウウオだと思うのですが、ネットで調べても名前が分かりませんでした。私のいる県に生息している3種類の写真とは違って見えます。どうしても名前が気になって、ネット検索していると、お名前があったので、突然の連絡で失礼かと思いましたが、メールさせていただきました。よろしければ、この生物の名前を教えていただけたら幸いです。 (2021年7月27日)

画像、拝見しました。一見して、これまでハコネサンショウウオとされていた種の仲間のようです。ぼんやりとですが、黒い爪と後肢の膨らみが確認できますので、繁殖のため渓流に入ったオスだと思われます。しかしながら、この種は現在、遺伝情報を基に6種類に細分化されていて、形態学的に(外観から)種を同定するのが困難です。ハコネサンショウウオの仲間は生息分布域から種の同定が可能な場合が多いので、〇〇さんが働いている山小屋がある県、または山の名前を教えていただければ、正確な和名と学名が分かる可能性が高いと思われます。


>山梨県の南アルプスです。山は、北岳とか農鳥岳の近くになります。サンショウウオについて無知なのですが、山梨県にはオオサンショウウオはいないはずなのに、ペットボトルくらいの太さのサンショウウオの目撃情報がありまして、今回の写真も、普段たくさん見るサンショウウオとは模様が違ったので、気になってメールさせていただきました。まさか返事をいただけると思っていませんでしたので、驚いています。お忙しい時間を割いてのメール、本当に有り難うございます。 (2021年7月27日)

山梨県の南アルプスですと、普通のハコネサンショウウオですね。ただし、この種は背中模様の色彩変異が大きく、画像のような赤みがかった斑ら模様の個体も、頻度は高くありませんが見られます。また、日本産の小型サンショウウオ類で、ペットボトル(500〜600 ml)くらいの太さのサンショウウオは存在しません。オオサンショウウオの幼体なら可能性がありますが、生息するのは岐阜県以西になります。あとは人為的な移入の可能性で、誰かがペットとして飼っていたチュウゴクオオサンショウウオを放したのかもしれません(日本産オオサンショウウオは特別天然記念物として保護の対象なので、可能性は低いと思います)。アホロートルの大きく育った個体も、小さなペットボトルくらいの太さにはなると思います。


>日本のサンショウウオで、擬態するものはいますか?また、世界的に見た場合、サンショウウオで擬態するものはいますか? (2020年11月24日)

日本産サンショウウオで擬態する種を寡聞にして私は知りません。サンショウウオの体色は一種のカムフラージュで、外敵から身を隠したり、獲物の目をごまかして捕食しやすくするために、目立たない隠蔽色(いんぺいしょく)をしています(保護色とも言いますが、Concealing colorationの日本語訳では、隠蔽色という用語を使用したほうが良いと思います)。

陸生のプレトドン科の仲間で、毒を持つ、Red-cheeked salamander (Plethodon jordani)という、頬(ほほ)が朱色をしたサンショウウオがいます。この頬の朱色が外敵への警告色(Warning coloration)になり、外敵に対して「俺は毒を持っているぞ。俺を食っても美味しくないぞ」と警告して、捕食を免れることが可能になります(警戒色という用語は警告色の同義語で、現在は使われなくなりました)。米国産サンショウウオでは、この種にベイツ型擬態する、毒を持たない同所的生息種(Desmognathus imitator)が知られています。

ベイツ型擬態(Batesian mimicry): 擬態の一種で、自らは有毒でも不味くもないが、他の有毒種や不味種に形態、色彩、行動などを似せて捕食を免れるもの

爬虫類では「ヘコキムシにベイツ型擬態するトカゲ(A lizard mimics a spitting beetle)」が知られています。砂漠に生息する、いわゆるヘコキムシは、アナグマなどの外敵に襲われたとき、肛門から分泌液を噴出して外敵を撃退します。そのため外敵は、ヘコキムシの姿を見ただけで、これを襲おうとはしなくなります。このヘコキムシと同所的に生息するトカゲは、ヘコキムシに似た姿を持つだけでなく、歩き方までもヘコキムシそっくりにベイツ型擬態します。

一般的に有名なのは、毒を持つハチにベイツ型擬態するハナアブの例です。ハチの黄色と黒の縞模様は外敵への警告色で、このハナアブは多くのケースで捕食を免れることが可能になります(トラの黄色と黒の縞模様を警告色と主張する方がいるようですが、トラは毒を持っていませんし、トラを捕食する外敵はいません。黄色と黒の縞模様が目立つので警告色と勘違いしているようですが、これは一種のカムフラージュで、獲物の目をごまかして捕食しやすくするために、トラの体色が森林や草原に隠れるのに適していたに過ぎません)。

(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2020年9月9日付の回答である。

(2020年12月12日追記): トラの獲物となる草食動物は、黄色と黒の縞模様を色彩としてではなく、単なるコントラストとして認識しますので、そもそも警告色には成り得ませんし、黄色と黒の縞模様が「獲物に危険を知らせる」という発想自体が間違っています(トラの黄色と黒の縞模様は「奇妙でもないし、変てこでもない」ということです。「他人の意見に耳を貸さないから、間違った情報が世間に垂れ流され、何も知らない一般の方々が賞賛する」という、由々しき事態を招いてしまったことになります)。

(2021年9月21日追記): NHK教育テレビジョン(Eテレ)のピタゴラスイッチで「もんくたれぞう」というコーナーがあります。いつから始まったのか定かではありませんが「もんくたれぞう・うた」の初回放送日が2020年12月3日なので、比較的、最近の放送かと思われます。この中で「トラの黄色と黒の縞模様が目立つから、獲物に見つかって狩りが出来ない」という文句に「トラが草むらに隠れると、背景に溶け込んで、どこにいるか分からなくなる」と教えています(ここには、黄色と黒の縞模様が「獲物に危険を知らせる」という発想が、最初から存在しません)。ピタゴラスイッチの「もんくたれぞう」で、この文句は何回も放送されているようですので、機会があったら見て欲しいと思います。


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