絵は近景の水田(段丘)、近景から中景の「わに塚の桜」(段丘緩斜面上の盛土)や釜無川沿いの低地、および遠景の茅ヶ岳(火山)などを描いています。桜の花びらは風に舞って釜無川を越え、茅ヶ岳に向かうかのようです。
韮崎市は甲府盆地の北西端に位置し、市の中央には塩川を容れた釜無川が南(絵の左から右)に流下しています。「わに塚の桜」はJR韮崎駅の西方約2.5kmの釜無川の右岸の高台にあり、地形的には釜無川の旧河床である段丘に位置しています。
わに塚からは南南東方向に富士山(3,776m)、北東方向に茅ヶ岳(1,704m かやがたけ)、北方向に八ヶ岳(2,899m やつがたけ)を望むことができます。茅ヶ岳の背後(西側)は黒富士(1,633m くろふじ)などを経て関東山地の奥秩父山地へと地形的に連続しますが、わに塚からの眺めは最も接近している茅ヶ岳が大きく見え、この絵の遠景となっています。茅ヶ岳は金ヶ岳(1,764m かながたけ)の峰と連なっており、その山容が八ヶ岳に似ていることから、茅ヶ岳に「にせ八つ」という異名があります。
なお、わに塚の現地案内板によると、わに塚は形が鰐口に似ていることから鰐塚、武田王が葬られた古墳であることから王仁塚でわに塚と呼ぶそうです。
本地域は新生代新第三紀以後の堆積物や火山噴出物で充填されている南部フォッサマグナに位置しています。南部ホッサマグナには北から順に、八ヶ岳・茅ヶ岳・富士山・箱根などの第四紀の新しい火山が北西-南東方向に連なっています。
茅ヶ岳周辺の黒富士や金ヶ岳等は地形的には独立しているように見えますが、地質的な解釈によれば、黒富士火山の西斜面に噴出した寄生火山が茅ヶ岳火山であり、黒富士火山と茅ヶ岳火山は主従の関係にあります。さらに、茅ヶ岳と金ヶ岳の関係は茅ヶ岳火山がその後の侵食によって、現在の茅ヶ岳と噴出中心の金ヶ岳の2つに分かれたものです。
黒富士火山は100万年前から50万年前まで活動したデイサイト質の火山であり、約30万年の休止期を経て、その西斜面に安山岩質の茅ヶ岳火山が生じました。約20万年前のこの活動が最後になり、その後は活動していません。
活火山は「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義され、北八ヶ岳の横岳・富士山・箱根などが活火山であるのに対し、黒富士や茅ヶ岳は噴火の記録も噴気活動もなく活火山には入っていません。茅ヶ岳は「日本百名山」の深田久弥終焉の山として知られていますが、黒富士や金ヶ岳などは一般にはよく知られていません。その大きな理由の1つは活火山でないことでしょう。
参考資料
・三村弘二 1967 黒富士火山の火山層序学的研究 地球科学21巻3号
・三村弘二・柴田賢・内海茂 1994 黒富士火山と甲府盆地北方に分布する火山岩類の火山活動とK-Ar年代 岩鉱 89巻1号
・地理院地図(電子国土Web)