地震災害(その2)津波

波浪と津波

絵1 防波堤を越える波浪

絵1 防波堤を越える波浪



絵2 防波堤を越える津波

絵2 防波堤を越える津波

絵1と絵2は防波堤を越える波浪と津波であり、同程度の波高でも海水の浸入状況が大きく異なることを表現してます。

波浪は風によって発生した波で、絵1のようにときには大波となって防波堤を越えることがあります。波浪の周期は長くても10秒程度であり、断続的・部分的に海水が浸入してもその海水総量は多くありません。通常は排水路を介して海に排水されるために広い範囲が浸水するようなことはありません。

一方、絵2は衝撃的な津波の先端部が通過した後の様子であり、防波堤を越えた海水が滝のように浸入しています。津波の周期が長いために湾自体の海水位が全体的に上昇するような様相を呈し、大量の海水が浸入してきます。津波の波高が防波堤や護岸堤をわずかに越える場合であっても海水は時間的にも空間的にも連続して浸入することになり、大量の海水によって浸水域が拡大していきます。


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津波の引き波と押し波

絵3 津波の引き波

絵3

津波の引き波 地震の後で潮が引きつつある状況

干潟が広がり水没していた岩が姿を現しました


絵4 津波の押し波

絵4

津波の押し波 海岸に侵入する大津波

1896年(明治29年)の明治三陸地震津波では、津波が三陸沿岸に来襲し、約22,000名もの犠牲者を出しています。この災害は世界各国に伝えられ、それ以後、津波は "Tsunami" として世界共通語になったといわれています。

絵3は潮が引きつつある状況を示しています。地震の後に潮が急速に引く場合は沖合に津波が迫っています。ただし、津波の前に潮が引くとは限りません。津波が「引き」で始まるか「押し」で始まるかは五分五分であると考えておくべきです。地震の後に津波が来襲するかどうかを確認するために海岸に近づくのは極めて危険な行為です。

津波は1波、2波、3波、・・・と襲ってきます。1波が大きいとは限りません。1波より2波、2波より3波のほうが大きいことも珍しくありません。1波の後、波が引いたからといって海岸に近づくのは危険です。津波は発生源からの直接波の他に反射や屈折を繰り返した波が次々と押し寄せてきます。第1波の来襲から数時間以上の警戒が必要です。

津波(押し波)は絵4のように海岸に近づき水深が浅くなると波高を高めて時には屏風を立てたようなと表現されるような壁として迫ってきます。

津波高は明治三陸津波(1896年)の三陸町綾里で38mでした。 関東大地震(1923年)でも三浦半島、鎌倉、熱海で8mの津波がありました。




港に押し寄せる津波と被害

絵5 港内に進入する津波

絵5 港内に進入する津波


絵6 引き波

絵6 引き波


絵7 津波来襲直後の爪跡および破壊されずに残ったコンクリート建物

絵7

津波来襲直後の爪跡および破壊されずに残ったコンクリート建物


港内から陸上にに進入した津波が漁船を陸に揚げて、時には家屋をなぎ倒すようなことがあります。市街地の通りを駆け上った水流はやがて逆に引き潮となり、浮遊物と強大な水圧がさらに建物などを破壊します。大きな津波の場合はむき出しとなった家屋の土台と破壊浮遊物が堆積しているだけの光景が出現します。

津波には火災を伴うことが珍しくありません。1993年(平成5年)の北海道南西沖地震では奥尻島の青苗地区で約300戸が焼失しました。  北海道南西沖地震は午後10時17分の発震であり、高台から撮影された夜間の大火災のようすがテレビに映し出されました。

津波の大きさは波高で表現しますが、実際には流速による巨大なエネルギーを保持しており、斜面を駆け上がって高台の家屋まで被害を受けることがあります。津波の波高と遡上高は異なり、津波を動的な現象としてイメージすることが重要です。

木造住宅が破壊され流されるような状況においても左最下段の絵のようにコンクリートの建物はほとんどの場合残ります。高台に避難する余裕がないならば、近くの高い建物に避難します。なお、コンクリートの建物が残るといっても、津波の水圧で窓などが破壊されて屋内は水流の通り道となったり水没したりするので下の階にいると助かりません。

高台までの距離が遠い地区では避難ビルが指定されていたり、津波に備えた金属製のやぐらのような避難施設が建設されている例もあります。

被害想定(中央防災会議)によれば、東海地震での津波による死者は約400人~1,400人、東南海・南海地震では約3,300人~8,600人という人数が挙げられており、東南海・南海地震の場合は津波を原因とする死者が全体の1/2~1/4程度を占めると想定されています。

津波の規模は古文書の調査や断層モデルによるシュミレーションから推定されていますが、過去に集落がなかった地域は古文書に記録として残りません。また、断層モデルによるシュミレーションは概略値あるいは代表値としての意味であり、条件によっては予想を超えるような津波が来襲する可能性があります。

津波への対処はより早くより高い場所に避難することに尽きます。




津波の遡上

絵8 川を遡上する津波

絵8 川を遡上する津波


津波が川に侵入すると津波の先端部の水面は激しく渦巻くステップ状の形状を呈します。これを段波(だんぱ)と呼びます。段波は段差を保ったまま、時には川を氾濫させながら上流に向かって遡上します。段波が川に浮かぶ船を上流に運び上げて橋を破壊するようなこともあります。

地震の心得に「川べりに近寄るな」といわれるのは川を遡上する津波のためです。