地震・防災関連用語集

カテゴリ:地形

遷急線(せんきゅうせん)

山地斜面を眺めると、多くの場合尾根から麓に向かって傾斜が急になる地点(傾斜変換点)があります。この点を遷急点といい、遷急点を連ねた線を遷急線と呼んでいます。

あまり高くない山地のハイキングや登山で経験するように、山地斜面は先ずは山裾のなだらかな傾斜で始まり、徐々に傾斜がきつくなります。斜面上方を見上げても斜面は覆いかぶさるように続いていますが、急斜面を登りつめると、突然のように傾斜が緩やかになり空が開けてきます。今、遷急線を越えたのであり、ここまでくると尾根筋は近くに迫っています。遷急線を越えた瞬間にホッとするのは、急斜面からの開放感と頂上まで斜面が緩やかであることが約束されれている安堵感によるのでしょうか。

斜面の表層崩壊の多くは大雨や地震を引き金として発生します。大雨の場合は凹地形、地震の場合は凸地形で崩壊が発生しやすい傾向があるものの、いずれも遷急線付近が崩壊の先端部となることが多くなります。遷急線付近で崩壊が繰り返される結果、長期的には遷急線が斜面上方に向かって前進していきます。特に谷頭部の凹地は大雨による崩壊が発生しやすい箇所として挙げられ、崩壊によって谷が山体を切り込んでいきます。このような場所では遷急線も谷に沿って大きく湾曲しています。遷急線は河川や沢に平行に発達する傾向があることから分かるように河川による侵食と密接に関係しています。

遷急線は新旧の度重なる崩壊によって生じた崩壊境界線であり、侵食前線です。一方、上方から見て急斜面が不連続的に緩くなる地点を遷緩点といい、遷緩点を連ねた線を遷緩線といいます。遷緩線の多くは崖錐などの堆積物と斜面との境界線です。

遷急線などの傾斜変換線が数条存在している場合など斜面の傾斜が複雑である場合もありますが、山地斜面を単純化・パターン化すると、山裾側から順に緩やかな堆積斜面(斜面下部)、急傾斜の崩壊斜面(斜面下部~中部)、未崩壊の山体部(斜面中部~上部)に分けることができ、これらの境界が遷緩線、遷急線です。