外法師

《呼称の由来》

 『外法師』を『そとほうし』と読むと、これは渡瀬草一郎先生が作り出した造語になります。この意味は、『陰陽寮に属していない外野の術師』を指しています。陰陽寮の道士と陰陽師と、それ以外の者とを区別する意味では、有効な方法といえるでしょう。
 尤も、『そとほうし』と称して、『在野の法師』、つまり特定の寺などに定住しない仏教のお坊さん、という意味も、実際に存在するようです。ただ、滅多に使用される事はないようですが。
 一方、これを『げほうし』と読むと、これは『世間一般に知られていない新しい、或いは外国の術を使う術師』という意味になります。
 そして、これを『がほうし』と読むと……『倫理や道理に外れた術を使う術師』或いは『術を外道な用途に使う術師』という意味になります。

 ひとつの単語で三つの意味、という面倒な状況な訳ですが。
 さらに面倒な事に、『げほうし』『がほうし』の区別は人によってまちまちで、『げほうし』を『外道な術師』と解釈する人もいれば、逆の意味として使う人もあり。結局は筆者事に基準を決めて執筆するしかない、という現状だったりします。
 ですから前述の三つの区別は、あくまで私が分類したものであり、『これが絶対正しい』というものではない、という事を、明記しておきます。


《術の方式・用途など》

 『そとほうし』の場合、『在野の法師』の場合は無論、念仏などの仏教系の術ですが、これが『在野の術師』という事になると、やや焦点が絞り切れません。
 ただ『陰陽師や陰陽寮の者でない術師』と言っても、『陰陽ノ京』作品内では、基本的にその術式は陰陽寮のものと異なる事がないのです。まあ、やたらめったらと色々なものを出されても混乱するだけ、と言ってしまえばその通りではありますけれどね。

 『げほうし』の場合、これも大別は難しいのですが、例えばインドのヨーガ、東南アジア系、さらにアイヌや琉球系のシャーマニックなどが当てはまるでしょうか。さらにマイナーな所で行くと、ペルシアのゾロアスター教――中国では拝火教と呼ばれました――などもあります。
 無論、キリスト系の法術や、西欧などの魔術・呪術などもこれに当てはまりますが……実際問題として、これらが伝わるのはかなり後、恐らくキリスト教が伝わるのとほぼ同時期であり、その頃にはこれらの術は『伴天連の術』と呼ばれるようになりますから、『げほうし』と呼ぶのは微妙に気が引けますね。

 『がほうし』の場合、さらに範囲が広がります。
 既に知られている術でも、それが外道な目的にしか使用できないもの――例えば蠱毒などがそれに当てはまります――であれば、それは『がほう』です。
 同様に、本来の使用法を外れ、呪いや道義に外れた用途に術を使用すれば、それもまた『がほう』と呼ばれます。
 無論、『げほう』の範疇の術でも、外道な目的に使われる術であれば『がほう』であり――要するに、一般的に悪い術師は『がほうし』という事になります。
 尤も、この呼称自体、あまり使われる事はないようで、小説などでもほとんど見かける事はありませんが。


《総評》

 漢字という文字は、ひとつの文字であっても、読み方ひとつで随分と意味が違ってきます。この『外法師』という単語も、その多数例のひとつではありますが……実際、ここまでいろいろと変わってくるのは、面白いかも知れませんね。
 また、漢字という文字は、時代によってその意味も変化します。
 調べてみると、なかなか新鮮な発見がありますよ。


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