根室本線の釧路〜根室間は通称花咲線と呼ばれている。この花咲線の駅で周囲を原野に囲まれ、牛山隆信氏の「秘境駅へ行こう!」でも紹介されたのがこの初田牛である。
初田牛は片面ホームの駅でかつては交換設備があったらしく、赤錆びたレールが一本残っている。駅の裏側や向かい側に林があるがこれは霧防止の目的を持ったいわゆる防霧林である。この駅に訪問してみて感じたのだが7月の初旬ではあったが根室地方はカーディガンを羽織らなければならないほどの肌寒さで、厚床を過ぎた辺りから霧が濃くなり暗い感じだったのを憶えている。北海道では車を比較的高速で飛ばしてしまうほどの道路の安全性の事や、農作物の日照不足の解消の為にこう言った林が必要なのであろう。
初田牛の裏の林を抜けると電波塔のでっかい鉄柱を目の当たりにする。そしてすぐ十字路に差し掛かる。その十字路の片方を曲がると民家が1軒あり、そこで飼われている大きな犬はなぜか鉄道ファンの間では初田牛の名物になってしまっている。その横には牧場の建物があるが中を覗いてみた限りでは酪農は行っていないようである。十字路に戻って民家とは逆の方向へ行くと公民館の小さな建物がある。実はその公民館の所には初田牛小学校があったと言う事だが学校の面影はどこにもなかった。
また十字路に戻って今度は真っすぐに進むとやがて初田牛トンネルと言うスノーシェルターの役割みたいなトンネルがある交差点に差し掛かる。その交差点を真っすぐ進むと一面に原野が広がり、たった1本の道がどこまでも延々と続いている。本当はその道は牧場へ行くのだが、手つかずの原野にたった1本の道を見て何もない世界に勇気を持って飛び込むことに人生の面白みがあるのではないのか、その原野を見るとそういう気がしてならなかった。
(2003.7.4)