こんもりとした高台の上に長年の間、厳しい風雪を乗り超えてきたことを物語る木造駅舎が残る駅、上厚内。別棟のトイレと共に取り付けられている建物財産票を確認してみると昭和28年(1953年)と記されている。また窓枠もアルミサッシに変えられるのが一般的な反面、木製のままというのも珍しく、貴重な昭和の建物と言っても過言ではない。
厚内川の上流部に位置することからその名が付けられた上厚内。駅周辺に人が住んでいる感じの民家が2~3軒くらいしかなく、離農して上厚内を出て行って朽ちていく廃屋が多く目立つ、かつて牧場だった敷地も衛生面を考慮して立入禁止の措置を取られている。駅裏の国道38号線からは「上厚内市街」と表示されている上厚内の駅前は集落としては風前の灯火になっているが、寂れても立派な通りを見ると昔はもっと多くの人が住んでいたことが想像できる。
そんな著しい過疎地帯で乗客もほとんどいない駅という影響を受けて2017年春のダイヤ改正で廃止されるという噂を聞いて、おそらく最初で最後となる上厚内の訪問に踏み切った。この時は秋に襲来した台風の影響で根室本線が寸断されてダイヤが変更されていて、朝の7時半前から正午前の間ここで滞在することとなった。
駅の待合室には駅ノートや暇つぶし用に置かれている本などがあるが、前日釧路のホテルに向かう途中で転倒して顔面を強打して唇を切るケガをしてしまい、滞在時間の大半はその痛みと腫れで何もできずに、ただひたすら次の列車を待っていた。
ダイヤの変更によって昼前にやって来る普通列車はこの上厚内で行き違いとなり、先に帯広行きが到着。ちょっと遅れて釧路行きがやって来るという構図である。この駅の訪問が最後になると思うと、思わず上厚内にやって来た列車と駅名が書かれているものとセットで撮影してしまう私がいた。
(2016.12.3)