山陰本線屈指の難読駅、特牛は「こっとい」と読む。駅名の由来は牝牛という方言の「コトイ」だとか、日本海に面した小さな入江の「琴江」という、いくつかの説が存在していると言う。
高台にあるホームからは、まるで時代から取り残されたかのような山間の農村の風景が広がる。駅前に診療所や民家が数軒点在しているが、その素晴らしい風景と駅名の個性さが相重なって、この駅を訪問しにやってくる人が少なくない。
味わい深い木造駅舎の中には駅ノートが置かれている。ノートが設置された当初は駅舎内に商店が併設されていて、そこで近距離のきっぷが買える、いわゆる簡易委託駅だったが店が廃業されて無人化されたものの、地元の方のご厚意によって商店跡のスペースを待合室として開放して現在に至っている。その待合室には地元の方々から寄贈されたものが数多く置かれ、駅前では採れたての野菜を販売したりと、かなり自由気ままにやっている感がある。
そんな特牛の駅前にあるバス停のすぐそばに「伊上畑」という名前の駅名標や駅看板、発車時刻表などが展示されている。
ここ特牛は映画「四日間の奇蹟」のロケ地として使われた駅である。当サイトのリンク先としてお世話になっている、駅ノートの管理人さん曰く、原作の小説が「このミステリーがすごい!」で金賞を受賞しただけに、映画が大ヒットして、ほのぼのとした雰囲気が素晴らしいこの駅に観光客がどっと押し寄せてきたらどうなるのだろうか?と懸念していた。
しかしながら、映画は角島がメインのロケ地であって、特牛の駅は石田ゆり子が演じる岩村真理子が西田敏行、松坂慶子が演じる倉野夫妻と出会うワンシーンのみだったこと、伊上畑の駅は原作には一切登場しない、映画オリジナルの設定であったこと、そして映画そのものが社会現象にまで至るほどの大ヒット作にはならなかったこともあって、その不安は拭い取られ、今まで通り、長閑な駅となっている。
駅ノートに目を通してみると、とりわけ目立ったのは角島に行ってきたという内容で、中には無料通行できる橋としては全国で2位の角島大橋も見てみたかったという書き込みもあった。実際に、ここから一日数本ではあるが、角島に行くバス便が発着している。
昔ながらの農村風景に魅せられて、今では秘境駅と認定されてしまった特牛の駅ではあるが、駅前の診療所に通う老人の方が何気にいる上、駅舎のはす向かいにある、近距離きっぷを取り扱っているお店の人が駅舎の方にちょくちょく足を運んでくることもあって、長閑な雰囲気でありながら、始終どこかで人の気配や温かみが感じられ、なぜか安心する駅だった。
(2009.8.6)