釧路市に飛び地編入された
直別、尺別、音別はいずれもアイヌ語の川から由来する地名である。アイヌ語の「涸れ川、水無川」に由来する尺別は炭鉱の栄枯盛衰によって大きく影響を受けた駅と言っても過言ではない。
2面2線の構内を持つ尺別だが、駅裏のホームと湿地帯の間に鉄道の跡地が今でも残されている。かつて尺別には「雄別炭礦尺別鉄道」という私鉄の起点駅となっていて、貨物だけでなく、本数は少ないながらも旅客営業も行っていて、炭鉱鉄道があった頃の尺別は栄えていたという。だが1970年に炭鉱が閉山されると、後を追うようにして鉄道も廃線となり、尺別の町からも人が去ってみるみるうちに寂れて行ったそうだ。
ホーム側に屋根が片流れしている駅舎の待合室内には駅ノートの他に尺別鉄道の歴史の切り抜きが貼られていて長い列車の待ち時間の間にそれを読んで昔の栄えていた頃の尺別の姿を想像してみるのもいい。
尺別の集落に残されている建物は帯広寄りにいくつか残されているが、実際に人が住んでいる家は2~3軒のみとなっていて、あとは更地にされ、尺別の駅舎は太平洋からの海風をもろに受ける形となった。
そんな尺別の集落の片隅に青い屋根の小さな家がある。一青窈のヒット曲をモチーフにした映画「ハナミズキ」で新垣結衣が演じた主人公、平沢紗枝の家として使われたものである。線路側の裏の壁面に映画で使われたことをアピールしているという点はコメントし難いものがあるが、途中下車した時の長い待ち時間の間に、ちょっとした巡礼スポットとしてふらっと立ち寄ってみるのも有りだ。
炭鉱鉄道の起点として栄えた尺別、今は誰もいないホームにディーゼル音を鳴り響かせて入線し、誰も降ろさずに出発する、そんな寂しい駅に成り下がってしまった。
(2017.2.1)