塩狩は天塩と石狩の境である塩狩峠がすぐそばにある駅で、最初は信号場として開設された。ホームは上下線がずれたいわゆる千鳥式のホームである。
林に囲まれた静かな雰囲気がしそうな駅だが、上りホームの裏には一目千本桜、駅舎からさらに一段高い丘の上には小説「塩狩峠」の作者、三浦綾子さんの雑貨店を復元した塩狩峠記念館、稚内寄りには塩狩峠の標柱と国鉄職員だった長野政雄さんの殉職碑、そこからさらに2〜3分歩くと塩狩温泉と観光資源が多い駅である。
塩狩はやはり三浦綾子さんの「塩狩峠」なしでは語れない駅だと思う。結納の日に名寄から札幌へ向かう鉄道職員の主人公だったが塩狩峠の上り勾配の途中で客車の最後尾が連結器からはずれて逆方向へ暴走、主人公は客車のハンドブレーキに手をかけて必死に止めようとしたが止まらず、最後は体一つで自分の命と引き換えに乗客全員の命を救うという実話を元に作られた。
長野政雄さんは「塩狩峠」の主人公のモデルになった人であり、その事故が起こったのが2月28日だったので、毎年2月28日に塩狩峠で228個のアイスキャンドルを並べて長野政雄さんを偲んでいるという。
小説では自分の命と引き換えに乗客全員の命を救ったという事で、今では英雄の様な感じになっているかも知れないが、本人にとっては英雄という意識は一欠けらもなかったと思う。心の中にあったのは人一倍強い神に対する忠誠心と一人一人への慈愛の精神があったのではないか。
今の塩狩峠は特急も通る路線になってしまったが、一度でもいいから「塩狩峠」の小説を読んで見るべきだと思う。もし誰か一人の命と引き換えにして全ての人が救えるとしたら、いったい自分自身はどんな行動あるいは考えをするか考えさせられると思う。
(2003.7.8)