全国の鉄道ファン(そうでない人も)が訪れてみたいと思っている駅、田本。断崖絶壁にへばり付くようにしてあり、集落へ行くのに徒歩でしか通れない細い山道を歩かなければならない所が秘境駅として認知され、やって来るファンが後を絶たない駅である。そんな私も念願の田本駅初訪問をしたので、訪問記を書こうと思う。
前日朝の10時から夜の11時まで仕事をした後、午前0時を見計らって青春18きっぷに判を押してもらい、八王子から大月まで各駅停車に乗り、大月からは夜行急行「アルプス」で辰野に向かう。これは仕事場が八王子にある為「ムーンライトながら」に乗ることが不可能なので、私はこのような措置をとっている。もちろん「アルプス」の乗車区間の運賃と急行券は別途である。
辰野からは4:52の始発電車に乗り、唐笠、金野、千代、伊那小沢の順に無人駅を訪問し、2002年3月13日午前11時38分に私は念願の田本に下車をした。私が田本に下車をした時、車掌さんはキツネにつままれたように驚き、慌てて私の元に駆け寄って、私の持っていた青春18きっぷを確認すると常務員室の方に走っていった。電車の発車を見送った後、写真を数枚撮り、田本の名物の出口への山道を歩くことにした。この道は非常に急な坂道で子供の頃の高尾山(八王子のハイキングの定番の山)よりもきつく感じた、歩いても歩いても出口にたどり着けず、日頃の運動不足と前日の仕事の疲れの影響のせいで何度も休憩をしようかと考えた事もあった。だが「齢25で途中で休むとは無人駅訪問者の名に恥じる」と思い、何とか休むことなく出口へと向かっていった。駅から歩いて7〜8分くらいで上の方の木々がなくなって、遠方に民家が見えたときには何かものすごい安堵感と、出口まで行った達成感が湧いた。そしてその民家の所に自販機が3台も置いてあったので冷えたアクエリアスを買い口にした。急な坂道を上って汗をかいたので美味しいのは言うまでもない。田本の入口は、県道1号線で「奈川商店」あるいはお食事処「奈川」から駅に入る道がある。写真でも分かるように道が3方向に分かれているが一番下っている道を下ると駅に行くことが出来、所要時間は10分弱と言った所である。
今度は駅のほうに戻る番である、先ほどの急な坂道を今度は下るので楽だと思ったら、転んだら一気に転がって下手をしたら谷に転落して命に関わるような道だったので上る時よりもかえって足もとに注意しながらの歩行になってしまった。これが雨や雪で道が滑りやすくなっていたら怖いなと内心思っていた。
足もとに慎重になりながら駅に到着して駅ノートに書き込みをし、その後誰もいない田本のホームで一人ぼんやりとしていた。こんな断崖絶壁の駅で自然を一人で満喫出来るとはなんて贅沢なんだろう、そして何回でも訪ねてみたい駅だなと心に感じた。
田本を下車して約1時間後の午後12:44に豊橋行きの電車が到着し、次の無人駅へと向かっていった。この世に大の田本駅ファンが存在する限り、この駅はずっと残っていると思うし、絶対になくさないで欲しい駅の一つである事には間違いない。