「県境の駅はレベルの高い無人駅の匂いがする」。長年無人駅を愛し、お金のない中学・高校時代には時刻表を眺めて旅空想行をしていた身にとって常日頃感じていたことである。
奥羽本線の津軽湯の沢もこの部類に入る。今でもこの駅は普通列車の一部が通過してしまう。普通列車の一部が通過するということは、それだけ利用者が希薄ということでもあり、レベルの高い無人駅であると言うことを想像させてくれる。
山間の中に対向式のホームと駅舎がぽつんと建ち、車窓から見た限りでは民家が一軒も見当たらず、(無人駅好きにとっては)来た者を裏切らない風景だ。
そもそも津軽湯の沢の周辺は矢立峠という難所が控えており、秋田寄りには矢立トンネルが大きな口を開けて電車を待っている。このトンネルを潜るとその先は秋田県になる。また駅の近くには冬季は閉鎖されているが復元された碇ヶ関の関所がある公園も存在する。所在地は平川市となったものの、旧村名は温泉と関所で有名な碇ヶ関村だった。
駅から歩いて1分もしないうちに羽州街道(国道7号)にぶつかり、車がたびたび通り過ぎる。国道周辺には民家が平川の谷間に沿うようにして建てられているが、その数はあまり多くなく、廃屋になっている家もいくつか見られた。
関所の近くに追分橋という橋がある。追分とは道が二つに分かれるところを指す言葉で、わが国でも地名として多く存在しており、実際ここでは羽州街道と津軽街道(国道282号)が分岐している。
かつて宮脇俊三氏が信越本線(現:しなの鉄道)の信濃追分を「信濃路の終わりを感じさせる」と表現していた。電車が来ない間は何人たりとも寄せ付けない雰囲気を放ち、静かに雪が降り積もって行く津軽湯の沢の駅を見ていると、いささか寂しい津軽路の終焉を感じた。
(2007.2.11)