太平洋沿岸を走り、八戸線で一番おすすめのビュースポットの途中に、まるで周囲の自然と溶け込んでいるかのように、ぽつんと存在する小さな駅、有家。ホームからは太平洋、裏側は小高い山が稜線を描いており、アングルによっては建物がひとつも見当たらないゆえに、列車が来ない間はみんなに忘れ去られたような場所という雰囲気を感じさせる駅である。
眼前に広がる太平洋は、はるか地平線のかなたにも島が一つもないために、とりわけ海の雄大さを味わえる。また駅名標が設置されている待合室を締め切っても波の音が聞こえ、ここがいかに騒音のない静かな駅かというのも分かる。
近年では秘境駅として認定されたせいか、訪問者も少なくなく、駅ノートの書き込みもそれなりにある。中には岩泉線の
押角が「山の秘境駅」なら、ここ有家は「海の秘境駅」と例える人もいた。
駅前の一本道に出てみると、道沿いには民家が7軒ほど存在する。それとごくたまにではあるが、若者向けの車を何台か見かけた。沿岸は波が高い分だけ、サーフィンには向いているのだろう。
有家の沿岸にも海岸はあるが、この日は海には人が誰もいなかった。列車を待っている間に草むしりにやって来た地元の人の話によると、波が高くなるので盆が過ぎると遊泳禁止になるそうで、過去にもこの海岸で波にさらわれて亡くなった人がいたのだと言う。
9月下旬だと言うのに、未だに残暑が残る今日この頃ではあるが、誰もいない海から聞こえてくる潮騒は、まるで夏が過ぎるのを惜しむかのように哀愁じみた感じがした。
(2007.9.24)