福祉車両の展示場。週末には50〜60人が訪れる=東京都杉並区で |
高齢者や身体障害者向けに改造した福祉車両の販売台数が増え続けている。介護保険制度を利用した在宅介護の広がりなどで、個人向けの販売が拡大しているためだ。高齢化社会で今後の成長が期待できる分野だけに、自動車メーカーも新商品を積極的に投入している。
●工場フル稼働
乗用車、バス、ワゴン車……。様々な車に従業員がもぐり込んだり乗り込んだりして、車いすを載せるリフト、手すりなどを黙々と取り付けている。「今年に入ってから生産能力いっぱいの状態です」。日産自動車の福祉車両を手がける子会社オーテックジャパンの本社工場(神奈川県茅ケ崎市)はフル稼働が続く。
改造車が主力のオーテックは、90年代半ばから福祉車両も手がけるようになった。改造車の受注が景気に左右されるのとは違い、福祉車両の生産は順調だ。01年度は前年度比17%増の5500台で、全生産台数の1割を超えた。今年は7千台のペースで、経営の柱の一つに育ちつつある。
業界全体でも福祉車両の販売台数は伸びている。日本自動車工業会調べでは、01年度の販売台数は前年度比16.5%増の3万3784台。国内自動車販売の0.5%弱に当たる。
福祉車両の歴史は古いが、販売が加速したきっかけは00年に導入された介護保険制度。導入前後には福祉ビジネスに乗り出す法人が福祉バスなどを買い込んだ。最近の主役は個人客だ。在宅介護が広がり、自宅から施設へ通う「足」が必要になっていることや、街のバリアフリー化で高齢者の外出が増えていることなどが理由とみられる。展示場でも「来場者の9割は個人客」(トヨタハートフルプラザ東京)という。
自動車メーカーも車種を増やして需要増を後押ししている。
福祉車両首位のトヨタ自動車は、市販している乗用車のほとんど、48車種に福祉車両を設定する。三菱自動車は8車種、ホンダは6車種、スズキは4車種をそろえ、客の選択肢は増え続けている。
各社では担当の専門技術陣が、新型車の開発と並行して福祉車両も開発し、最近は新型車の発表と同時に福祉タイプも発売している。
●進む低価格化
福祉車両はかつてほぼ受注生産で、100万円近い改造費がかかっていたこともある。最近では生産量が増えたことや部品点数の削減が進んだことで、低価格化が著しい。5月にトヨタが発売した小型車イストの「助手席回転スライド車」は、基本価格に7万円上乗せされるだけだ。
ただ、採算面では「もっと販売台数が増えれば大きな利益が期待できる事業になるのだが……」(トヨタの岩月一詞副社長)というのが現状。オーテックの福祉車両事業も、今年度ようやく利益が出始めた程度だ。
こうしたなか、一般車ではしのぎを削るライバル同士が、福祉車両では協力関係を探り始めている。トヨタは他社に回転シートの回転部分を供給、オーテックもライバルに車いすをつり上げるクレーンを提供するなど部品の生産量を増やしてコスト削減を図っている。
2002年8月14日朝日新聞ホームページより