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<感動のCM>ダウン症合併症で
死亡の児童の生き方 反響呼ぶ
ダウン症の合併症で6歳で亡くなった一人息子と共に懸命に歩んだ夫妻の姿を追ったテレビコマーシャル(CM)が感動を呼んでいる。運命を真正面から受け止めた両親が、我が子を抱きしめ「ありがとう」というシーンで終わるまでわずか60秒。01年4月に放映されて以来、これまで6回放映されただけだが「CMで泣いたのは初めて」などと、視聴者に与えた衝撃は大きく、1000件を超える反響が寄せられている。
このCMは「明治生命」(東京都千代田区)が自社宣伝のために製作したイメージ広告「あなたに会えて」と題したシリーズの中の一編で、主人公は埼玉県桶川市北1の会社員、加藤正さん(46)、浩美さん(39)夫妻と99年1月に亡くなった長男の秋雪(あきゆき)君の親子3人。加藤さん親子の映像は、秋雪君の成長の過程を描いた「懸命編」と、友達と過ごす様子を描いた「友達編」の2編(各60秒)がある。
歌手・小田和正さんの「言葉にできない」がバックに流れ、誕生したばかりの秋雪君がベッドで眠っていたり、運動会で浩美さんに支えられゴールを目指す様子など、計22枚の写真に字幕を添え、親子で暮らした6年間の思い出を伝えている。ラストは、亡くなる前年の夏、3人で行った茨城県大洗海岸で正さんが秋雪君を抱きしめ「ありがとう」の字幕が流れるシーンで終わる。
きっかけは、秋雪君が亡くなって11カ月後に行われた同社主催の「しあわせな瞬間(とき)フォトコンテスト」で、募集を見た浩美さんが「秋雪と過ごした時間が趣旨に一致する」と応募した。
約1万6000件の応募作品から大洗海岸で撮った写真が入選。00年5月から他の入選作品約10点と共にCMで放映したところ、同社に「(加藤さんの作品で)他の写真も見たい」などの声が殺到したため、一家単独でのCM(90秒)を製作し、01年と02年に計3回放映した。この時点で500件を超える再放映を求める声が寄せられた。リクエストに応え、編集し直して今年4月から再び放映している。
4月以降、月1回流したCMには、これまでに700件の反響が寄せられている。浩美さんは「秋雪が6年生きたことは奇跡で、私たちは一緒に食事し、散歩するだけで幸せだった。そんな思いを多くの人が受け入れてくれているのがうれしい」と話している。【月足寛樹】
全国の小中学校などから「CMを教材として取り上げたい」という依頼が相次いだため、明治生命は学校などにビデオ約50本を送った。同社に寄せられた感想も20代から中高年までと幅広い。
青森県藤崎町の町立藤崎中学校では今年5月、2年生担当の須郷祐一教諭(39)が「親が子供のことを思っていることや、命の大切さを学んでほしい」と道徳の授業で取り上げた。107人の生徒が書いた感想文は、同社を通じ加藤さん夫妻に送られた。生徒たちは「生きることがこんなに大切で、大変なことで、幸せなことと知らなかった」などと記した。
同社にメールで感想を寄せた東京都の20代の女性は「はじめてCMを見て涙を流してしまいました。1年余りしか生きられないと告げられても、前向きに頑張っていく家族の写真を見て一生懸命生きていくという気持ちが伝わり涙が出ました」とつづった。
茨城県の20代の女性は「不景気とかストレスとかで自殺する人が多かったり、いやな世の中だけど、CMを見てそんなことが一気に吹っ飛びました。生きていてほしくて、あんなに頑張っている。私も力をもらった気がします」と記した。
埼玉県の40代の女性は8年前、第3子を授かった際、医師から「障害の可能性のある子が50%」と言われ、出産を断念した。メールには「いまではとても後悔しています。どんな障害をかかえて生まれたとしても、限りある命の中で精いっぱい生き続ける努力をしなければいけないとつくづく考えさせられます」とあった。
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CMの今後の放映予定は、九州の一部地域を除き7月1、22日、8月12日、9月2、23日。いずれも日本テレビ系で午後7時からの番組中に放映される。(毎日新聞)
[6月28日22時25分更新]