オストメイト朝日新聞記事
人工肛門利用者対応トイレ、設置増えるが「まだ不便」

 駅やビルのトイレに駆け込んだ経験はありませんか。人工肛門(こうもん)や人工膀胱(ぼうこう)を付けた人にとって、外出先のトイレはさらに深刻な問題だ。バリアフリーが進む中、専用の設備を取り入れる所も出てきたが、使いやすさには差があり、利用者は「悩みを知って」と呼びかけている。

◆パウチ交換に専用流しを

 東京都内の女性(74)は外出中、予想外に排泄(はいせつ)物が出ると、駅や百貨店のトイレに駆け込む。持参のビニール風呂敷を床に敷いてひざをつき、おなかを突き出すようにして腹部に付けた排泄物をためる「パウチ」と呼ばれる袋を便器の中に入れる。パウチの下側の口を開いて排泄物を絞り出すが、手やパウチの口が汚れることも少なくない。

 「そんな時は便器の中に手を入れて洗うしかない。不自然な姿勢も大変。専用の流しが欲しい」と話す。

 十数年前、大腸がんの手術を受けた。刺激物を控え、規則正しい食事を心がけるなど、外でパウチを交換しなくてもすむような体調管理のコツも覚えたが、それでも年に何回かはこんな目にあうという。

 都内の女性(63)は3年前、やはり大腸がんで人工肛門を付けた。病院の検査で下剤を飲んだ帰り道、パウチの接着部分から排泄物が漏れ出し、服が汚れて困った経験がある。ひどく落ち込み、外出が怖くなった。「専用のトイレや着替えができる場所があれば、安心なのですが……」

 腸の一部や膀胱を切除して人工の排泄口を付けた人(オストメイト)は、当事者らで作る日本オストミー協会の推定では全国に20万人以上いるという。便意や尿意を感じたり我慢したりできないので、セカンドバッグほどの大きさのパウチに排泄物をため、いっぱいになると取り換えなければならない。衛生陶器メーカーのTOTOの調査では、7割の人が外出先でパウチを交換したことがあり、半数が着替えが必要になった経験があるという。

◆対応施設も「まだ不便」

 こうした声に応え、数年前から出てきたのが、オストメイト対応のトイレだ。洋式便器の縁にパウチ洗浄用のノズルを付けたタイプのほか、便器とは別に専用の汚物流し台を設置するもの、シャワーノズル付きや温水が出るものなど、各メーカーが開発している。

 同協会は昨秋から全国で実態調査をしているが、今月の中間集計で設置は1500カ所を超え、2年前の3倍以上に増えた。自治体の庁舎や公民館、図書館、駅などで、車いすも入れる障害者用の多機能トイレに付けた例が多い。たとえばJR東日本は、首都圏の主要駅を中心に207駅に設置。東京23区でも江戸川区や目黒区、世田谷区など庁舎や関連施設に導入する所が増えている。百貨店やホテルでの設置例もある。

 背景には昨春、不特定多数が使う施設のバリアフリー対策を義務づけた「ハートビル法」の改正法が施行され、建築設計標準の中に「オストメイトへの配慮」が盛り込まれたことなどがある。ただし、今のところ設置の大半は洗浄ノズルをつけただけのタイプ。

 「多機能トイレには、おむつ台などもあり、スペース的に難しい」「庁舎が古く、トイレが狭く、費用的にも厳しい」などが、流しタイプやシャワータイプの設置が進まない理由だ。

 数は少ないが、成功例もある。京成ホテルは千葉、茨城県内の4ホテルに汚物流しや温水シャワー付きを設置した。「モップ流しの代わりに汚物流しを設けて併用したら、費用は従来と変わらなかった」という。

 「対応トイレが増えたのはうれしいが、特に大腸を全摘出した人は排泄物が水様で、洗浄や着替えが必要になることもよくある。こうした場合は洗浄ノズルタイプでは処置できない。心配で旅行や外出ができないなど、生活範囲を狭められている人も多い」と同協会副会長の村山輝子さん。

 「『人工肛門で命は助かったが、電車の中でパウチが漏れて死にたくなった』という人もいる。どこに行っても、安心してトイレを使いたい。私たちの悩みを多くの人に知ってほしい」

(2004/01/23)
朝日新聞ホームページより

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