2003年12月16日読売新聞ホームページより 台湾のバリアフリー ◆23年の歴史でも評価60点 ■下れぬエスカレーター 歩道橋が歩道“占拠” 「ほら、車いすだけでなく、ベビーカーだって通れない。歩道をふさぐ歩道橋なんて早く撤去すべきです」 台北市南部の主要道路、ルーズベルト路にかけられた歩道橋を指し、市のバリアフリー(障壁の除去)政策を厳しく批判するのは同市議の徐佳青さん。障害者団体のメンバーらと市内の公共建築物や交通施設などを実際に訪れ、問題点を指摘する活動を行っている。 25年前に建てられたこの歩道橋は、歩道の幅いっぱいを“占拠”。歩行者も車道に下りなければ先に進めない。歩道との段差も約15センチ。車道は主要幹線で交通量も多く、交通弱者にとっては、この歩道橋こそ最大の障害物なのだ。 上りのエスカレーターしか設置されず、車いすでは事実上使用できない歩道橋、約5000万台湾ドル(約1億6000万円)で造られたが、交通量がないためほとんど使われていないスロープ付きの最新歩道橋……。
市工務局は「改善に向け、検討中」と釈明するが、徐さんは「市のバリアフリーへの認識不足と公共工事優先の姿勢が問題」とし、「台北市のバリアフリーは、100点満点で60点がせいぜい」と厳しい評価を下す。 ◆点字ブロックにバイク駐車 若者の啓発が必要 ■法制化から4半世紀 台湾で身心障害者保護法(旧障害者福祉法)が公布されたのは1980年。バリアフリーに関する規定は「公共設備及び建築物には無障害の生活環境など関連する事柄を企画し処理する」(第2条)と最初から盛り込まれた。さらに、97年に修正された同法56条には、既存建築物などのバリアフリー化を地方自治体に求める規定(罰則はなし)なども加えられたうえ、建築に関する規則なども相次いで制定されるなど、法制面での整備は進んだ。 だが、台湾の民間活動団体(NGO)、「エデン社会福祉基金会」でこの問題に取り組む朱永祥さんは「バリアフリーの重要性が一般の間で十分に認識されていない」と指摘する。 その一例として、点字ブロックの上に平気で駐車されるバイクの群れや道路の両脇に駐車する車が多いことなど、マナーの悪さを挙げ、「まず若者への啓発活動が大事だ」と強調した。 ■身障者体験 こうした中、同基金会では2000年から、大学生対象の「身障者体験プログラム」を実施している。学生に車いすや目隠し体験をさせ、実際にキャンパスを回ってもらう試みで、これまでに72校の約5万人が参加した。 朱さんによると、このプログラムをきっかけに学生が大学施設の段差に気づき、学校側に改善を求めるケースも増えるなど、「効果は大きい」という。来年から高校や中学にも活動を広げる考えだ。 徐・台北市議もこうした活動の必要性を認めたうえで、「公共事業にバリアフリーへのまとまった予算をつけるべきだ」と話す。「経費の膨張につながると敬遠する声もあるが、必ず見返りがある」と強調する。台湾ではバリアフリーに関する行政部門の人材がまだ不足し、地方自治体の一部ではまだ意識が徹底していないと指摘する声も強い。 徐さんは「台湾の身障者福祉はまだ初期段階」としながら、住民に豊富な情報を提供するなどソフト面の充実のため、障害者や高齢者など福祉窓口をまず1本化し、行政と利用者の意思疎通を図るべきだ、と提案している。(台北 若山 樹一郎、写真も) |