はっぴ〜☆えいぷりるふうる 「グリフィンドールの諸君! おはよう!」 「さて、親愛なるグリフィンドール寮の紳士淑女諸君! 今日が何の日かちゃんと分かっているかな?」 朝の大広間に騒々しく現れたのは言わずとしれたフレッドとジョージだ。 「エイプリルフールだろ」 だれかが律儀に答える。お祭り人間の双子が今から何をしようというのか、みんな半分期待し、半分身構える。 「おまえら、どうせ1年365日エイプリルフールじゃないか」 リー・ジョーダンが笑いながら突っ込む。 フレッドは右手の人差し指を立てて左右に振った。 「甘いな、リーくん」 「自分たちの誕生日だって言いたいんだろ?」 そう口を挟んだのは弟のロン・ウィーズリーだ。 「おお! さすが我が弟! それでこそウィーズリー一族だぜ!」 「思ってもいないくせに」 ロンは、大げさに両手を広げてみせたフレッドを横目で見て小さくつぶやいた。 「しかしリーもいいこと言ったぜ」ジョージだ。 「確かにそうだ。着眼点が違う。さすが我らが親友!」フレッドがまた大げさに言ってみせた。 「前置きはいいからさっさと本題に入れよ」 リーは軽くいなして先を促した。 「そう、確かに我々にとっては1年365日エイプリルフールみたいなものだ」 ジョージが演説口調で話し始めた。 「だからよりにもよってのこの4月1日には、いつもよりサービス倍増でグリフィンドール諸兄を驚かせねばなるまい」 「そんなサービス、かえって迷惑だよな……」 再びロンがつぶやいた。 「二人に聞こえるように言いなよ」 ハリーがロンのひじをつついて耳元でささやいたが、ロンはそれを無視した。 「そう決意して毎年毎年頑張ってきたわけだが、毎年それでは芸がない」 「そこで俺たちは考えたわけだ」 「それならば365日を364日にしてやろうではないか」 「俺たちは宣言する! 今日一日は我らの生誕を記念して、普通に大人しく生活してみせる!」 「「「はあ!?」」」 グリフィンドールのテーブルにいた生徒たちが一斉に声を上げて双子を見た。双子は得意そうにテーブルを見回した。 「どうだ、驚いたろう」 「な〜んだ」 リーがにやっと笑った。 「これが本日一発目のウソってわけか」 「甘いな、リーくん」フレッドが再び人差し指を振った。 「いいか? 諸君ら一般人はふだん悪戯、悪ふざけとは無縁に真面目に過ごしている。しかしこの日ばかりはと人をひっかけることに夢中になる」 「そんな平凡なことを俺たちがやっていてはいけない」 「だから俺たちはみんなとは逆を行き、1年のうち4月1日だけは何もせず大人しく真面目に生きてやろうではないか」 「それって偉そうに言うことか?」 再びリーが突っ込む。 「何を言うか。俺たちにとっては一大事業なんだぞ」 ジョージが不服そうに答えた。 「そりゃ、そうだろうな」 何人かの生徒が笑った。 「おい、本当に本気なんだろうな?」 「油断させておいてだますんじゃないのか?」 次々とそんな声が上がるのも、日ごろの二人の行いのせいというものだろう。 「よーし、それなら、もし俺たちが本当に今日一日大人しくしてたら、おまえらみんな夜には俺たちの誕生祝いをしろよ!」 とうとうフレッドが憤慨して言った。 「食い物と飲み物もみんなして用意してくれよな!」 ジョージが続けた。 これには一同、いささか困って顔を見合わせた。なにしろ、いつも談話室でパーティーをするときには、フレッドとジョージがくすねてくる食料が大いに頼りにされていたのだから。 「よし、乗った!」 最初に返事をしたのはやはりリーだった。 「その代わり、1日もたなかったら夜には全部おまえらのおごりでパーティーだからな」 こうしてグリフィンドールの4月1日は始まった。 双子のウィーズリーが本当に1日大人しく真面目に過ごすのか。あっという間にほぼ全寮生を巻き込んだ賭けの対象となった。いつもならほかならぬ双子が胴元になるところだが、今回の首謀者はリー・ジョーダンだ。 参加しなかったのは、「ばかばかしい」の一言で切り捨てたハーマイオニーと、「どっちに賭けても負けそうな気がする」と言った弱気のロンと、その2人の手前遠慮したハリーの3人ぐらいだった。 あの二人が一日何もせず、大人しくしていられるわけがない。そのうち窒息しそうになって何かやるぞ。 いや、何かたくらんでいるに違いない。いつ、どこで、何を仕掛けてくるか用心してろよ。 いやいや、案外本気かもしれないぞ。あの二人が真面目になるなんて、それこそホグワーツ最大のジョークじゃないか。 様々な思惑と憶測が飛び交う中、同学年の人間たちの監視を受けつつ、意外にもフレッドとジョージは粛々と授業を受け続けた。 教師の言うことを混ぜっ返して笑いを取ることもせず、移動時間にクソ爆弾を破裂させることもなかった。 昼休みには、「リーと談合していると疑いをかけられないため」に、たいていいつも一緒にいるリーとはわざわざ席を別にしていたし、放課後になっても、どこかに忍び込もうとすることもせず、春の陽をきらきらと反射するようになった湖のほとりで二人仲良く大イカと遊ぶという、気持ち悪いほど和やかな光景を見せつけていた。 夕食のときには、もうすでに1日過ぎたとみなしていいのではないかという生徒と、いや、日付が替わるまではまだだという生徒の間で小競り合いがあったが、双子は面白そうに見てはいたものの、我関せずの態度を貫いた。 その後談話室で、「一日真面目に過ごす」に賭けた者を勝利者とすると、リー・ジョーダンが宣言した。当然、そちらに賭けた者のほうが少数派であったので、勝者のみならずリーにもそれなりに儲けが出たらしい。 約束だから仕方ないというリーの提案で、皆それぞれに部屋から秘蔵の菓子などを持ち寄り、アンジェリーナ、アリシア、ケイティのクィディッチ3人娘は面白がって談話室の飾り付けを始めた。 いつもと比べると豪華さに欠けるが、いつもの演出家がいないのだから仕方ない。ん? いない? 「おい、フレッドとジョージはどこ行ったんだよ」 誰かが気づいてリーに尋ねた。 「あいつらいつの間に消えた?」 「どっかでなんかやらかしてんじゃないのか?」 「ねえ、これって一日もたなかったことになるんじゃないの?」 わいわいと詰め寄られ、リーが曖昧な笑いで必死でごまかそうとしていたとき、談話室の入り口が開いた。 「よーっ、みんなご苦労さん」 「ちゃんとパーティーの準備してるかー?」 入ってきたのは当のフレッドとジョージ。二人とも両手いっぱいにケーキやカボチャジュースの瓶を抱えていた。 絶妙のタイミングに、リーはほっと胸をなで下ろし、寮生たちはわっと盛り上がった。なんだかんだ言ってもちゃんといつもどおり、食料を仕入れて(くすねて)きてくれたわけだ。そして入って来るなり派手に花火を幾つも爆発させた。 みんな大喜びして拍手で双子を出迎え、早速パーティーが始まった。が、 「キャー!」 「うげえぇ〜!」 すぐに悲鳴やらうめき声やらがそこここで湧き上がった。双子が持ち込んだ食べ物の中からカエルが飛び出したり、ペロペロ酸飴が仕込まれていたりしたのだ。 「やったな〜!!」 「リーーーー!! 賭け金返せ〜!」 「うるはい! かひはかひらあ〜!」 「舌ただれさせてまで金にこだわってんじゃねえ!」 たちまち談話室は大騒動に陥った。賭けの勝ち負けで押し問答する者、口に入れたケーキを吐き出す者、必死にカエルを追い払う者。それでも用心深く中を確かめてから食べようとする者もいれば、それを押しとどめる者もいる。 そんな騒ぎを、双子のウィーズリーは満足そうに笑いながら眺めていた。 深夜、フレッドとジョージの寝室でこっそりと、二人とリー・ジョーダンがその日の賭けで儲けた金を広げていた。 「ほらみろ。俺たちの勝ちだ」 「儲け半分寄越せよな」 「ちぇっ、グリフィンドールがこんな腰抜けどもばかりとは思わなかったぜ」 リーはぶつくさ言いながら金貨、銀貨を数え始めた。 「せっかくのチャンスだってのに、おまえらを引っかけようって根性ある奴が一人もいないとはな」 「ふふん、これが人徳というものだよ、リーくん」 「逆だろ。日ごろの行いが悪すぎるんだよ。きっとみんなおまえらの報復を恐れたんだぜ」 リーは悪態をつきながら、賭けの儲けの半分を差し出した。 「来年はこんな賭け、もう乗らないからな」 まだ納得いかない顔で、リーは頬を膨らませていた。 「安心しろ。二度とこんなことはやらない」ジョージが真剣な顔で言った。 「俺たちのほうで願い下げだ」 「マジで死ぬかと思ったぜ」フレッドが首を振った。 「俺は生まれて初めて、何もしない大人しい人間てのを尊敬したね」 「いい心がけだぜ」リーがあきれ顔でため息をついた。 「こんなことばれたら、おれたち袋叩きだぞ」 「「大丈夫。だってエイプリルフールじゃん?」」 どこまでも楽観的な双子にリーは返す言葉もなかったが、結構面白かったからまあいいかと、手元に残った金を見つめながら自らを無理矢理納得させていた。 |
なんか分かりにくいかなと思ったんですが、あまり説明っぽいセリフや文も不粋なので、こちらで一応補足。 つまり双子とリ−は、「一日双子が大人しくしていたら、双子をだまそうとする人間が出るかどうか」という賭けをしていたわけね。で、だれもいなかったと。 いなかったのは双子の人徳でもなければみんなが臆病だったわけでもなく、単に賭けに夢中になりすぎて思いつかなかっただけでしょう(笑)。 前日に突如思いついての突発的作品。お祝だと思って大目に見てね〜。 |