Another True History 3
キングズクロスからホグズミードまでの初めての旅を、わたしはエドとデイブのおかげで一時も退屈することなく過ごすことができた。 彼らはウィーズリー一族にとって「あれ以来」の双子だそうで、エドのセカンドネームはアルフレッド、デイブのはジョージということだった。 いわゆる歴史の必然というやつだ、と2人は自慢そうに言った。 わたしは言葉の使い方を間違ってると思ったが、自信はなかったので曖昧に相槌をうっておいた。 2人には二つ上にお兄さんがいて、ジェームズという。 ハリー・ポッターの父親と同じ名前だが、これは確かに歴史の必然でも何でもない。イギリスでは石を投げればジェームズさんに当たるというぐらいありふれた名前なのだ。 やはりというかなんというか、グリフィンドールだそうだ。兄弟はほかにいないらしい。 そしてグリフィンドールにはジェームズと同じ学年にエドガー・ウィーズリーというのがいて、こちらはなんとジョージ・ウィーズリーの直系ということだった。 エドガーの三つ下、つまりわたしたちの一つ下に妹が1人いるらしい。 そしてこのジェームズとエドガーが、W.W.W.の将来の後継者に名乗りを上げているということだった。 W.W.W.はフレッド・ウィーズリー、ジョージ・ウィーズリーそれぞれの家系から1人ずつ経営者を出すという二頭体制が不文律になっているそうだが、元祖双子はそういうことにこだわる性格ではなかったらしく、こういう仕事はいやいややってもうまくいくわけないから、やりたい者がやればいいと言ってはいたらしい。 それでも今のところ、それでうまいこといっているということだった。 先日見た感じではお店はにぎやかで楽しそうだったし、何よりだ。 エドとデイブはいろいろと教えてくれながら、どうやらわたしがハリー・ポッターの物語に並々ならぬ興味を抱いていることに気づいて、妙に真顔になって、また思いがけないことを言い出した。 「きみ、必要以上にあれを信じないほうがいいよ」 「え、でも、本当の話なんでしょう?」 それは確かに、自分たちのご先祖様が勝手に死んだことにされていたのだから、いい感情は持っていないかもしれないが。 父はヴォルデモート卿の恐ろしさ、というより、当時、闇の勢力に抵抗しなくなった社会の恐ろしさについて語ってくれたものだった。 父はそれを自分の祖父母から、わたしにとっての曾祖父母から聞かされたらしい。 もちろん曾祖父母も実際にその時代を体験したわけではないのだが、彼らが子供の頃にはまだ当時を知る者たちが多く生きていたのだ。 概ね平均寿命百歳といったところの魔法使いにとって、150年ほど前の事件というのは、それほど大昔のことではないのだ。 「もちろん、ハリー・ポッターがヴォルデモートを倒したのは事実さ」 「あの一連の事件から、僕らが教え込まれてることはたった二つ」 「血筋で人を判断してはいけない」 「闇の魔術に手を出してはいけない」 もっともな教訓だ。 おそらくウィーズリー家にとっては代々言い含められてきた家訓なのだろう。 「つまりね、それ以外はどこまで事実か、どこからが想像で補ったものかわからないからどうでもいいってことなんだ」 「考えてもみろよ。あれだけいろんな人間が右往左往してて、うちんとこのじいさんだけが例外的に死んだことにされたって、不自然だろ?」 右往左往というのはちょっと失礼だと思ったが、言われてみれば確かにそうだ。あの長い話のなかで、そこだけが事実と異なるなんて、それこそ不自然だ。 やっと得心したらしいわたしの様子を見て、双子は同時に前方に身をかがめながら、わたしに指でちょいちょいと合図をした。 わたしもつられて思わず上体を乗りだし、双子と額を突き合わせるような格好になった。 双子は、悪戯の相談でもするように、面白そうに声を潜めた。 「実はだね、僕らは奇しくも去年の夏、あの話のもう一つの嘘を発見してしまったのだよ」 どこがどう奇しかったのか分からなかったけれど、早く続きが聞きたかったので黙っていた。 「去年の夏、僕らはクィディッチワールドカップに行ったんだ」 「きみ、三校対抗試合は知ってるだろ? もちろん」 「ファイナルだけじゃないぞ。1週間も泊まり込んで準々決勝から見たんだ」 「だけど100年に一度開かれていたはずの三校対抗試合が、あれ以来開かれてないんだ」 待て待て待て待て。 「あの、悪いんだけど、話題を一つに絞ってくれない?」 そう言うと、2人はそろって不服そうな顔をした。 「なんだよ。僕らは同じことを話そうとしてるじゃないか」 どこがだ。突っ込む勇気も当時はなかったので、仕方なくわたしは紙とペンを取り出した。 羊皮紙と羽根ペンなどではない。普通のマグルのメモ帳に、インク瓶などなくてもいつでもどこでも使えるボールペンというやつだ。 「去年、オランダチームが準々決勝に残っていた。オランダはベスト4にも残ったんだけどね」 「開かれていないというより、多分もう廃止になったんじゃないかっていうのが大方の見方らしいんだけどね」 「そこで僕らは準決勝前に各チームの紹介パンフレットを買ってもらったんだ。選手のプロフィールやインタビューなんかが載ってるやつさ」 「そりゃあ、前回開かれたときはヴォルデモートに利用されるわ、死者は出るわの騒ぎだったわけだし、やめたくもなるってもんだよね」 「そのパンフレットを見て、僕らはオランダチームにクリスティアン・ディゴリーというチェイサーがいるのを発見した」 「だけどフランスのボーバトン校には、死者が出たという話は伝わっていないらしいんだ」 わたしははっとして、メモをとる手を止めて2人を見つめた。ディゴリー……。 「もちろん、オランダにだってディゴリーって人はいくらでもいるんだろうさ」 「三校対抗試合がとりやめになったのは、やっぱり危険すぎるってことと、ゴブレットの選手選出が信用できなくなったって理由らしい」 「だけど、このディゴリー選手は英国から帰化した人の末裔だとはっきりプロフィールに書いてあった」 「だから、先回開催されたとき、選手が4人出てしまったのは本当なんだろうね」 「しかもインタビューでは、最初にオランダに帰化したのはクリスティアンより数代前の話で、その人はシーカーだったと本人が語っている」 「だから、セドリック・ディゴリーの最期に関してのみ、もしかしたら何か話と違ってることがあるのかもしれない」 「オランダリーグでシーカーとして活躍した選手だったそうで、そのご先祖の誇りを胸にオランダのために闘うと言ってた」 「ちなみに、なんでフランスの学校のことなんかに詳しいかっていうとね、ウィーズリー一族とデラクール一族のつながりは、その後もいろいろあったからなんだ」 「かのセドリック・ディゴリーもシーカーだったからね。じゃあ、帰化したのはいつごろの人だったんだろうと思ったわけさ」 「僕らもフランスに行ったことはあるし、親類のおばさんに聞いたらすぐ教えてくれた」 「そこで僕らは事実関係を調べて回ることにしたんだ」 「聞いて回ったっていうほうが正確だけどね」 わたしは、それこそ物語でも読んでいるときのようにひきこまれてしまった。 確かにこれは二つの話を同時進行したほうが分かりやすい。 双子って便利だ。 わたしが心からそう言うと、2人に、僕らはこんなことのために双子に生まれてきたわけじゃないと嫌な顔をされてしまった。 |