Another True History 5


 組み分けが済んでみると、わたしはグリフィンドールになっていた。
 双子はまるで当然のようにグリフィンドールだった。
 ホグワーツに行く前は、父と同じレイブンクローだったらいいなと思っていたけれど、友達をつくるのが苦手なわたしは、列車の中で仲良くなれた双子と一緒になれたのは幸いだった。
 2人は彼らの兄のジェームズと、どういう関係と呼ばれるものか知らないが、血縁のエドガー・ウィーズリーに、列車の中で友達になったといってわたしを紹介してくれた。呆れたことに、ジェームズとエドガーもしっかり赤毛だった。
 勉強についていけるかとか、自分の魔法力の弱さだとか、人間関係だとか、いろんな不安は始まってみればどれもたいした問題にはならなかった。
 確かに授業や宿題は楽ではなかったけれど、落ちこぼれることもなく、楽しい学園生活を送ることができた。

 エドとデイブは明るく元気だったが、特にいたずら好きということはなく、その点は元祖双子とは違っていた。
 少し後の話になるが、2人とも2年生になったとき、クィディッチのメンバーの募集があったので、トライアルを受けて2人とも合格した。
 ビーターではなく、チェイサーだったが。
 2人の間でパスを始めると、誰も割って入れないのはさすがだった。

 性格的に、フレッド&ジョージの後継者だったのは、むしろジェームズとエドガーだった。
 「忍びの地図」は失われていたが、多くの抜け道を知っているようだった。
 150年前に城がかなり壊れたので修復された際、抜け道も使えなくなったり新しいのができたりで、物語を参考にしても無駄なのだそうだ。
 自力で発見したと言っていたが、親の代から伝えられてきたのもあるのではないかとわたしは思っている。

 ジェームズもエドガーも頭は良さそうなのに、時々わざと授業をさぼってみたり、先生に向かって悪戯をしかけてみたりしていた。
 エドとデイブによると、W.W.W.を継ぐ者として、うっかり監督生などになってしまうことがないように気をつけているのだとか。
 監督生になったら相続権がなくなるなどという決まりはないということだったが、規則をしっかり守って勉学に励むだけの7年間を送った人間に、あの店の経営は無理だというのが暗黙の了解になっているとのことだった。
「だからといってただのバカや無能でも困るしね。その辺の加減は難しいんだ」とはジェームズ・ウィーズリーの弁であった。


 それはクリスマス休暇が終わって間もなくのことだった。
 談話室で本を読んでいたところ、エドガーに部屋の隅に呼ばれた。
 たいていいつもジェームズとつるんでいるのに、このときは珍しく1人だった。
「休みの間に探したんだ。たしか以前、うちの屋根裏部屋で見かけたと思ってね」
 そう言ってエドガーはわたしに、古びた木の箱を渡した。
 蓋に錆びた留め金が付いていて、シンプルだけれど、子供だったら間違いなく自分の宝箱にしてしまいそうな雰囲気のある箱だった。
 さほど大きくはない。長方形で、長いほうの辺がちょうど両手を肩幅に広げたぐらいだった。深さは6インチほどだろうか。
「開けてみなよ」
 言われてわたしは躊躇した。
 相手は名実共にあの双子の後継者なのだ。
 いかにも怪しげな箱を開けてみろと言われて、素直に開けるバカ正直者は、少なくともグリフィンドール寮内にはいるわけがない。
 向こうもその自覚があるのか、いぶかるように見上げたわたしに、
「真面目な話なんだって。何かあったら俺1週間断食してもいいから」
と訴えた。
 エドガーが断食したところでわたしに何の得があるわけでもないのだが、少し苛立ったようにそう言われて、わたしは慌てて蓋を開けた。
 中に入っていたのは、どうやら手紙の束のようだった。
 封筒に入っているものもあるし、羊皮紙を細く丸めただけのものもある。
 しかもかなり古い。
 わたしは理解できなくて、困惑してまたエドガーを見上げた。
「きみが昔のことに興味があるって、あいつらから聞いてたから、何かヒントがあるんじゃないかと思ったんだ。ガキのころ屋根裏で、そんな箱を幾つも見つけてね」
 わたしはそっと、一番上にあった封筒を指先でつまみ上げてみた。
 宛名はジョージ・ウィーズリーになっている。
 裏返してみた。差出人はわたしの知らない名前だった。
「その箱のは全部、ジョージじいさん宛の手紙だ」
「これをどうしろって? エディは中身見たの?」
「いや、まあ幾つかは見たけどね。途中でめんどくさくなって……。でももしかしたら、中に何か、きみが知りたがってるようなことのヒントがあるかもしれないだろ?」
「そうだけど、こんなの他人に見せてもいいの? ご両親は?」
「内緒に決まってるだろ」
「それじゃあ受け取るわけにはいかないよ」
「いいんだよ。どうせうちの人間は、こんなのがあるってことも知らないんだから。がらくたが一つや二つ消えたって、誰も気づきやしないよ」
「でも手紙だよ? 後で知ったら嫌な気がすると思うよ」
「だからさ、もしきみがその中から何も発見できなかったらただのクズだから、またそっと屋根裏に戻しとく。でももし何か歴史的発見があったら、そうだな、何かに写し取っておくといいよ。それから返してくれれば」
「え、それだってまずいよ。だって人の手紙を勝手に」
「でも歴史の研究には、故人の書簡だったり日記だったりを調べるのは普通だろう? いつかきみがそれで本でも出すことになったら証拠がいるだろうからね。それまで俺が責任もってとっといて、ちゃんと実物を正式にきみに譲るからね」
 わたしは、信じられないなりゆきに、手が震えるほどだった。だが……。
「でも本を書くなんて約束できないよ」
 もちろん本心を言えば、見たい。
 手紙の中身を見たくてしょうがない。
 だけどそのときのわたしはただの子供で、本を出せるような学者になれるかどうかなんて、いや、そんなつもりさえなかったのだから。
 そう言ったらエドガーはがっかりするだろうか。
 やっぱり見せないと言うだろうか。
 エドガーは面白そうに笑った。
「どうだっていいよ。そんなこと。ただ、正直俺もちょっと興味があってね。あの話はいろいろ不自然なところが多すぎるから」
「そう? エディもそう思う?」
「うん。いや、自分がまるっきり無関係のところにいたら気づかなかったかもしれないけどね。だけど、俺は自分では、何をどうやってそれを証明したらいいのか分からないんだ。だからきみに託すよ」
 わたしは手紙の入った箱を抱きしめた。
 自分をこんなふうに信用してもらえたことが嬉しくて、いきなり随分大人になったような気がした。
 そのとき以来わたしは漠然と、将来は学者になって、この謎を追い続けようなどという夢を持つようになった。

 わたしはすぐ部屋に戻って、ベッドに入ってカーテンを閉めた。
 わたしがこんなふうにして本を読んでいるのは珍しくないから、誰にも邪魔される心配はない。
 再び箱を開けて、手紙を一つずつ取り出して、差出人を確認し、中身に目を通してみた。  他人の秘密を盗み見てしまうようで、罪悪感を持たずにはいられなかったが、幸いなことに、特に、読んでしまってごめんなさいと言いたくなるような内容のものはなく、友人・知人からのありきたりな近況報告のようなものとか、挨拶状みたいなものばかりだった。だから屋根裏に放っておいたりしたのだろう。熱烈なラブレターでも出てきたらどうしようかと思ったのだが、どうやらその心配はなさそうだった。
 差出人の多くは知らない名前だったが、中にはリー・ジョーダンやアリシア・スピネットなど、物語で見た名前もあって、胸が高鳴った。
 これは本当に本物なのだろうか。
 あの人たちがその手で書いたものなのだろうか。
 もちろん疑っているわけではなく、ただただ夢のようだったのだ。
 何通目かの手紙を開いたとき、それは直接フクロウの足に結び付けられていたものらしく、細く巻かれた羊皮紙に皺がよっていたのだが、短い文章の最後に「ハリー・ポッター」という署名を見つけて、わたしはあやうく大声を上げそうになった。
 わたしは一文字も漏らすまいと丁寧に読んだ。
 内容は、今度のジニーのバースデイに来られるかどうかというだけのものだったが、あの壮絶な闘いの後にようやく平安な生活を手に入れたハリー・ポッターの日常の一こまだと思うと、感激で涙が出そうだった。
 その夜はすべてを調べることができず、そこまでで打ち切った。
 わたしは箱に魔法をかけて誰かが開けたりしないようにして(もっとも先生に見つかっていたらひとたまりもなかったのだろうが)ベッドの下にそれを隠して眠りについた。

 翌日は、授業が終わるとすぐにベッドにこもって手紙を開いた。
 そしてわたしはついに決定的な文言をその中に見つけた。
 ほかにもないかと興奮して、夜中までかかってすべてを調べたが、あいにくそれよりほかにはなかった。それでも大収穫だ。
 それは、ほかならぬフレッド・ウィーズリーからの手紙だった。
 エドとデイブが話してくれた、墓ぐらい建ててやるがどこがいいと尋ねた手紙に対する返事として、イギリス各地の景勝地やら観光スポットが勝手に並べられていた。
 そして、コリン・クリービーからもフレッドのところに手紙が来て、あいつは怒っていたが自分は取り合わなかったということが書かれていた。
 たった2行ではあったけれど、わたしは何遍もそこを読み返し、エドガーにいわれたとおり、一字一句、別の紙にそれを写し取った。
 コリンがどういう事情で死亡したことにされたのかまでは全く分からなかったが、それでも、とにかくあの闘いを生き残りはしたのだ。
 おそらくコリンがあえて脱出しなかったか、一度出た後こっそり戻ってきたかして、ホグワーツで闘ったという部分は事実なのだろう。そうでなければコリンが怒る必要はないからだ。
 物語の中で、コリンはマクゴナガル先生に追い立てられた後、次に唐突に遺体として登場する。「こっそり城に戻ってきたに違いない」の一言で、その人生は終わらされている。
 いつ、どのようにして戻ってきたのか。はたして一人だったのか。彼の弟はどうしたのか。どこでどのようにして戦って、その最期はどのようなものだったのか。全く分からない。
 それも当然だったのだ。コリン・クリービーは生きていたのだから……。
 わたしは興奮して、その夜はほとんど眠ることができなかった。
 そして翌日から、図書室に行って、七つの物語をもう一度最初から読み直し、不自然と思われる点を列挙していった。
 それができると、エドガーにも意見を求めて、わたしは不自然リストを作成した。
 それがホグワーツ魔法学校1年生のときのことだった。                            





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