Present for YOU


 12月に入ると、ホグワーツはすっかり落ち着きがなくなる。クリスマスの休暇が楽しみなのだ。
 ハリーはもちろんプリペッド通りのあの家に帰る気は最初からない。あそこにいて目の前の賑やかなクリスマス・パーティーに加われないよりは、仮に1人でも学校にいるほうがよほど気は楽だ。
 ハリーがクリスマスに家に帰らないことを同情してくれる人もいるが、分かってないな、とハリーは思う。帰らずに済む学校の寮があることをハリーはこんなにありがたく思っているのに。
 それでも今のハリーには、今までになかった楽しみがある。ホグワーツに入学して、生まれて初めて友達ができた。
 ここへ来る特急列車の中で、ロン・ウィーズリーといろんなお菓子を分け合って食べた心躍る経験を、ハリーは忘れていない。それまでのハリーには分け合える物も相手もなかった。
 自分にできることで、自分が何かあげることで他人が喜んでくれるって、なんて素敵なことなんだろう。
 クリスマスも誕生日も、ろくなプレゼントをもらったことがなかった。ダドリーのような我儘がしたいわけではないが、開けてみて幸せになるプレゼントがほしいと思ったことはもちろんある。でもそんなことより、自分のプレゼントで誰かが幸せになってくれることのほうがもっと嬉しい……。
 そのことをハリーは初めて知ったのだ。


 だけど、一体何をあげたら喜んでもらえるんだろう?
 プレゼントというものを人にあげたことのないハリーには、これは意外な難題だった。
「僕ならキャドリーキャノンズのブロマイドがいいな」
ロンは無邪気にそう言うけれど。
「それはあなただけでしょう。ほかの人たちは違うわ」
 ハーマイオニーの言うことが正しいとハリーは思う。だけど秀才のハーマイオニーも、こういう問題についてはあまり頼りにならない。
「冬のプレゼントの定番といえば、やっぱり手編みのマフラーやセーターだと思うけど」
「そんなものいらないよ!」
ハーマイオニーの提案に、ロンが即座に反論した。
「だれもあなたにあげるなんて言ってないでしょ!」
ハーマイオニーが眉をつり上げてロンに言い返した。
「君からもらいたいなんて言ってないだろ!」
「やめてよ、2人とも」
ハリーが割って入った。
「でもハーマイオニー、ぼくに編み物ができると思うの?」
ハーマイオニーはきまり悪そうに黙り込み、ロンは、ふふん、というふうに横目で彼女を見た。
「どっちにしろ今からじゃ間に合わないし。定番じゃなくていいんだよ。むしろびっくりするようなものだったら開けて楽しいんじゃないかな。そうだ、ロン、フレッドとジョージだったらそういうの……」
「やめといたほうがいいよ」
ハリーが言い終わらないうちにロンはさえぎった。
「弟のぼくが言うのもなんだけど、まともなアイディアを貸してくれるとは思えない」
「やっぱり?」
ちょっとは期待したんだけれど、とハリーはがっかりした。
「本人に聞くのが一番確実じゃない?」
 立ち直ったハーマイオニーが新たな提案をした。
「うん、確実だけど、面白くはないよ」
「そうね……」
 ロンもハーマイオニーも、一緒に考え込んでくれるのがハリーには少し申し訳ないが、嬉しくもあった。
「じゃあ、ケーキなんか駄目かしら?」
「ケーキならいいんじゃないか? もらって嬉しくない人なんかいないよ」
これにはロンも賛成した。
「ケーキかあ……」
ハリーは自分が生まれて初めてケーキをプレゼントしてもらったときのことを思い出した。11歳の誕生日に、ハグリッドが手作りのちょっとひしゃげたケーキを持ってきてくれたっけ。でも……。
「僕はケーキ作れないよ。どうやって手に入れるの?」
「この時期なら日刊予言者新聞にいろんな広告が出てるわ。よかったらプレゼントカタログもいろいろあるから貸すわよ」
そんなのもあるんだ、とハリーは感心したが、ロンは
「そんな便利なものがあるんだったら最初から出せばいいじゃないか」
と文句を言った。
「ハリー、手っ取り早くその中から選んじゃえよ」
「手っ取り早くだなんて、ロンったら、ハリーの気持ちがわからないの?」
「でもカタログなんかあったら助かるよ」
ハリーは慌ててそう言って、ハーマイオニーに持ってきてもらった。
 ロンと一緒にいろいろな広告などを見ていると、談話室のそこここで同じように新聞や雑誌、カタログを広げている主として女生徒たちがいることに、初めてハリーは気がついた。そうか、みんなもやっぱり悩むんだなあ、と思うとちょっと気が楽になった。
「ふくろう便で直接相手に届けてもらうこともできるし、自分のところに送ってもらって自分で相手に渡すこともできるわよ」
ハーマイオニーが親切に教えてくれた。
 でもあんまり高いものは買えないし、なんだか何に使うのかハリーによくわからない魔法グッズはまずいような気がする。
「じゃあ、これなんかどう? 脚付き椅子」
「椅子には普通脚があるもんだろう?」
「この椅子の脚は本当に動くのよ」
「それって便利なのかなあ。年寄りでもないのに」
「う〜ん……便利なのがよかったら、これなんかどう? 羽ペン5本セットお買い得よ」
「そんなもの、君以外のだれかが欲しがると思うの?」
ロンがまた横から口をはさんだ。
「羽ペンセットなら砂糖羽ペンにしなよ」
「なんだかどっちもどっちだなあ」
「だけどハリー、ドラゴンの卵ってわけにはいかないんだぜ」
「そうよ。それに早く決めないと、もう日にちが間に合わないわ。そうだ、これなんかどう?」
 ハーマイオニーが指差したのは、ドラゴンの絵の付いたビールジョッキのような特製マグカップの写真だった。
「うーん……」


 12月上旬のある日、放課後、ハリーとロンとハーマイオニーは暗くなりかけた小道を小走りに、ハグリッドの小屋に向かった。それぞれ手には何か四角い包みを大切そうに持っている。
 ノックの音にドアを開けたハグリッドは、3人の顔を見ると、やれやれという顔をした。
「またおまえさんたちか。ニコラス・フラメルのことならなんも知る必要ねえ。もう余計なことに首突っ込むのはやめるこった」
そう言ってそのままドアを閉めようとする。
「違うよ! ハグリッド!」
ハリーは慌てて手に持っていた包みを突き出した。
「お誕生日おめでとう、ハグリッド」
「僕たち、お祝いに来たんだよ」
「ケーキもちゃんと用意したのよ」
 ハグリッドの、体に似合わぬ小さな黒い目がいっぱいに見開かれ、やがてその目に光るものがあった。
「誕生日だ? そんなもん、親父が死んでから一度も……そんなもん、だれも……」
ハグリッドは鼻をこすった。
「さあさあ、入れ入れ。そんなとこに突っ立っとっては寒いだろう。3人とも入れ入れ」
 ああ、そうだった、とハリーは思い出した。
 自分の誕生日プレゼントだと、ハグリッドがヘドウィグを買ってくれたとき、それは多分ヘドウィグでなくても自分は嬉しかった。自分の存在をそんなふうに気にかけてくれる人がいるということが幸せだったのだと。

 小屋のドアが閉まり、暖炉で薪のはじける音がした。




5000を踏んでくださったいおりんちゃんのキリリク
え〜、ご本人もすでに覚えていらっしゃらないのではないかと(笑)
ハリーを主人公にあったかくなる話、ということでしたがいかがでしょうか・・・。



目次に戻る