春なのに・・・


 はじめまして。わたしは匿名希望の某少女A。
 少女Aといっても犯罪者ではないのよ。多分憧れのあの人たちにとっては少女Aでしかないわたしは、グリフィンドールの6年生の女の子。一学年上のあの人たち、そう、双子のウィーズリーに憧れる内気で一途な乙女です。
 え? 双子のうちのどっちが好きなのかですって? それは両方というか、どちらでもいいというか。
 え? それは本人たちに対して失礼じゃないのかって? でもいつも二人一緒にいて同じことしてるんですもの。どっちでも変わりないじゃないの。っていうか、学年が違う悲しさで、どちらがどちらかよく分からないわ。でも両方素敵なんですもの。だから両方等しくお慕い申し上げる、これこそ純真な乙女心というものだわ。
 ホグワーツに入ったころはわたしも子供だったし、彼らは騒がしいばかりで、大人しいわたしは近寄らないほうが身のためだと思っていたの。今となってはこの内気さが悔やまれるわ。そのうち寮のムードメーカーでクィディッチの選手でもある彼らにだんだん惹かれていったんだけど、学年も違う引っ込み思案な女の子のことなんて、彼らの眼中にはないようで、存在を意識してもらうことができないの。
 わたしと同じ学年のケイティ・ベルがクィディッチのチームに入って二人と仲良くしてるのを見て、それが一番確実だと思ってわたしもチームに入ろうとしたけど、トライアウトまでに高所恐怖症を克服することができなくて諦めたわ。
 年下の女の子なんか興味ないと思っていた彼らが、わたしより一つ下のハーマイオニー・グレンジャーと仲良さそうに話してるのを見たときには大人しいわたしもさすがにメラメラしたわ。でもどうやら彼女は双子の弟のほうと友達だっただけみたい。
 それで将を射んと欲すればまず馬を射よということでわたしも弟くんと仲良くなろうかと思って、彼の姿を見るたびじっと視線を送ってみたけど、そのうちかえってわたしを見ると怯えた顔をするようになったのでこれも諦めたわ。年上の女性の魅力に気づくには彼は幼すぎたのね。
 最大のチャンスは去年のクリスマス・ダンスパーティだったわ。でも自分から誘うなんてとてもできない! ぐずぐずしてる間に、わたしの目の前で、衆人環視の中で、フレッドがアンジェリーナ・ジョンソンを誘ってしまったの。ああ、やっぱり同じ学年、同じチームじゃないと駄目なのね!
 いえ、でもまだジョージがいるわ。もしかしてもう決まってるのかもしれないけど、もしかしたら見込みがあるかもしれない。もう内気だのなんだの言ってる場合じゃないわ。そうよ、コクるわけじゃないもの。ダンスに誘うだけよ。今の学内の雰囲気なら許されるわ! 
 というわけで一大決心をし、昼食のときに声をかけてみることにしたの。本人の前でちゃんを言えるように、大広間に行く前に廊下の隅で何度も練習して。
「わたしと一緒にパーティに行っていただけませんか?」 
 そうよ、それだけでいいのよ。
「喜んで! 感激だなあ、君から誘ってもらえるなんて」
はい?
 気がついたら男の子が1人、わたしの前に立っていたの。だれよ、あんた。
「僕もなかなか相手が決まらなくて……君がもう決まってるかどうか気になってたんだ」
 思い出したわ。グリフィンドールの同じ学年の野郎じゃないの。名前なんだっけ。
「あの……」
「嬉しいなあ。パーティ、楽しみにしてるよ」
そいつはわたしの両手を握って勝手に盛り上がって勝手にお礼を言って勝手にさっさと行ってしまったの。
 その後、クリスマス・ダンスパーティまでわたしはその子の誤解を解くことができず……行ったわよ! そいつと一緒に!
 そんなこんなで今年は彼らも7年生。卒業も間近。これが最後のチャンス。彼らの誕生日にプレゼントを渡してみせるわ!
 去年もそのつもりではりきってプレゼント用意したのに、彼らの誕生日ときたらエイプリルフールのおかげで無駄に騒がしくて、とうとうチャンスがなかったの。大体二人はしょっちゅうどこかに姿を消していて、学年も違うわたしには、人目を忍んでそっと渡すなんてとても無理だった。今年こそは…!
 でもでもやっぱり面と向かって手渡すのは恥ずかしい。というわけで、プレゼントの包みの中に手紙と自分の写真を入れて、その日の朝、そっと彼らの部屋の入り口に置いてくることにしたの。
 男子生徒は女子寮に入れないけど、女子生徒は男子寮に入れるの。この理不尽な逆性差別のおかげでわたしは4月1日早朝、まだ薄暗いうちに男子寮に忍び込むことに難なく成功できたわけ。
 彼らの部屋の前に到達すると、ドアの前にはすでにリボンをかけた箱が一つ置いてあるじゃないの。ご丁寧に、「フレッド&ジョージへ」ってカードが付いてるわ。何よこれ、先客がいたのね。ちょっと待ってよ。ってことはライバルがいるってことなのね! 許せないわ。
 もちろんこのままにはしておけないわ。そのプレゼントの箱を取って自分のをそこに置き、どこかの誰かがが置いてった箱はわたしが持って帰ったわ。
 一体誰かしら、わたしのライバルは。まだ誰もいない談話室で箱を開けてみたら、中から出てきたのは大きなネズミが一匹。何なのこれ。なんてセンスのないプレゼントなの。恐るるに足らずだったわ。
 ところが、いきなりそのネズミが巨大化しはじめたの。ええ〜、何よこれ何よこれ! とうとう大型犬ぐらいのサイズになってわたしにむかってがば〜って口を開けるじゃないの! きゃあ〜!! わたしが悲鳴を上げた途端、ポン! と音がして巨大ネズミが消えてただのネズミのおもちゃになっちゃった。
 信じられない! 許せないわ! わたしは思わずネズミも箱もカードもまとめて暖炉に放り込んでやったわ。あ、しまった。それでライバルは一体誰だったのかしら。でもどうでもいいわ。こんな愛もロマンもないようなプレゼントするような人。相手にならないわ。
 そしてどきどきしながら談話室で彼らが起きてくるのを待っていたの。喜んでくれるかしら。どんな反応するかしら。わたしの姿を見つけたら、初めて声をかけてくれるかしら……。
 グリフィンドールの生徒たちがぞろぞろ起きてきて、今か今かと待っていると、男子寮の階段の上から、妙な爆発音が聞こえてきて……。
 ほどなくして、愛しの双子とリー・ジョーダンが騒々しくしゃべりながら階段を下りてきたの。
「ちくしょう、見破られたか」
「はっは〜、あんなもんで俺たちをひっかけようなんて甘いぜ、リー」
「しっかしいきなり爆破しなくてもいいだろう? 女の子からの愛のプレゼントかもとか思わないわけ?」
「リーが何か企んでたのは知ってたからな。で、中身は何だったんだ?」
「『ビッグマウス』。なかなか可愛いしろもんだったんだぜ」
「「くっだらね〜」」
・・・・・・おのれ、リー・ジョーダン! いっつもいっつも双子とつるんでるという美味しいポジションにいるくせに、こんなときにしょーもないことを企んで純情な乙女の邪魔をするなんて〜!
 人知れず滂沱の涙に暮れた朝が過ぎ、昼休みになるころにはわたしも立ち直っていたわ。だって彼らは7年生なのよ。最後のチャンスなのよ。
 そうよ、まだ日付が変わるまでは諦めちゃ駄目よ。プレゼントだって、去年用意して渡せなかったのが残ってるじゃないの。彼らの発明品に役に立つかと思って苦労して手に入れたのよ。そこそこ高かったのよ。もったいなくて捨てられずにいたのが役に立つわ。
 ただ、用意したのが去年だからちょっとタイミング悪いかしら……。でもしょうがないわよね。今から今日中にほかのプレゼントを調達するなんて無理ですもの。
 今度の狙い目は夕食時。寮はほとんど空になるからそのときに再度男子寮に忍び込むしかないわ。こういうときこの学校って不便よね。普通に廊下にロッカーでも置いてあればいいのに。その辺のロッカーなんか使ったらきっと二度と見つからないわね、この学校。
 誰かに見られやしないかと心臓ばくばくだったけど、今度もこっそりドアの前に置いてくるのに成功したわ。
 そして談話室でどきどきしながら待っていると……。また階段の上で嫌な予感のする爆発音がしたの。
 ほどなくして案の定……。
「俺じゃないって! ほんとに!」
「俺たちにガマガエル型容器を送りつけるなんて、嫌がらせにもほどがあるぜ!」
「けど、あれはきっとガマの油が入ってるやつだぜ? 俺見たことある。かなりの貴重品だぞ」
「うるさい! 俺たちは今カエルというカエルを粉砕したい気分なんだ!」
・・・・・・ああ、目眩が・・・・・・。
 やっぱりタイミングが悪かったのね。でもしょうがないじゃない。去年お小遣いはたいて買ったんですもの。まさかアンブリッジなんていうカエル女が校長になって、しかも双子の不倶戴天の敵になるなんて、予想できるわけないじゃない……。けど、なにも中身を確かめもせずに爆破しなくてもいいと思うの……。
 こうなったら最後のチャンスは彼らの卒業式ね。たしか東洋では、卒業式の日に好きな男の子の制服の第2ボタンを引きちぎると、その瞬間にその子と恋に落ちるというまじないがあるとか。伝え聞いた話だからちょっと違うかもしれないけど、それに賭けてみるわ!
 そういえばホグワーツに卒業式ってあったのかしら。一度も見たことがないような気がするけど気のせいかしら。
 まあいいわ。要するに彼らが7年生を終える最後の日に決行すればいいってことよね。いざとなったら帰りのホグワーツ特急の中って手もあるもの。その時にはきっときっと勇気を出して少女Aを脱してみせるわ! 彼らが卒業するその日には……!





こんなイカレポンチな女がグリフィンドールにいたかどうかは知らないが、双子が卒業の日を迎えることがなかったのは周知のとおりである。こんな私に夢小説なんてまさに夢の夢。中学時代の愛読書は「ベルサイユのばら」だったはずなのにおかしいな。いつか普通に双子がもてもての(って今言わないかな?)恋愛小説でも書いてみたい、などとエイプリルフールの日に言ってみる。フレッド、ジョージ、愛してるよ!




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