ひとつの終焉
エイモス・ディゴリー氏の慟哭の声。泣きじゃくるチョウ・チャン。教師たちの青ざめた顔。呆然と立ちすくむ生徒たち……。それらすべてに無言で背を向けると、どちらからともなく城に向かって歩き始めた。
目の端に、ムーディに抱え込まれたハリーの姿が映ったが、掛ける言葉もなかった。弟の親友であり、年下の友人であり、チームメイトでもある彼に、自分たちが今してあげられることは何もない。大人が付いているのだから、大人に任せておけば良い。 二人とも黙ったままなんとなく歩き続けた。何が起こったのか分からない。ハリーがさっき何か叫んでいたが、それがどういうことなのか、なぜそうなったのか分からない。人垣の合間から見えたセドリックには傷らしい傷もなかった。それでも瞬きひとつしない彼がすでに鼓動を止めていることは遠目にも明らかだった。 同世代の人間の死に遭ったのは初めてだった。それも全く知らないではない。ついこのあいだまで、彼は自分たちと同じ空間を飛び、同じものを目指していなかっただろうか。自分たちにとっては「敵」であったにしても。 二人ともどこへ行くとも言わないまま、廊下の壁にかかっている絵画の一つをドアのように開け、通路を伝っていわば彼らの部屋の一つに入っていった。 埃の溜まった床。窓もなく、ところどころひび割れた壁。二人が持ち込んだがらくた、草、生き物、鍋、水槽、フラスコ、瓶、本……。そんな中に転がっていた椅子に二人は腰を下ろして黙りこくっていた。 自分たちの知り合いが死んだなどという実感には乏しかった。涙を流して泣くほど親しかったわけでもない。それでも胸の中がひどく重苦しかった。 彼には彼の夢があったろう。自分たちにあるのと同じように。ましてや「優秀な」生徒であった彼は、いわゆる前途洋々たる若者であったはずだった。それが突然すべて断ち切られるなどと、そんなことがあり得るのだろうか。 一つの時代が自分たちの中で終わったような気がした。世の中がこれからどうなるのかは知らない。そんなことは関係ない。ただ、自分たちはもう昨日までの時代に別れを告げなければならないのだと、そう感じた。 長い沈黙を破ったのはフレッドだった。 「なあ。バグマンのことは諦めよう」 フレッドは提案をしたのではなかった。フレッドは自分の片割れが同じ考えであることを知っていた。 「ああ。所詮あぶく銭だ」 ジョージもまた、自分の片割れの考えを知っていたから、フレッドがそう言い出すのを待っていた。 「あんなものをアテにしなくても俺たちはできる。あと何年かかかるだろうけどな」 「何年……」 ジョージは思わずかすかにつぶやいて視線を落とした。それは、何年かかるか分からない、先の見えない計画を厭うたわけではなかった。生きていられると、1年後、2年後、自分たちが生きていると誰が言えるだろうか。昨日までは当たり前のように口にしていた「数年後」「卒業したら」という言葉が、今はひどく不安定に歪んで見える。 それでも、今日を生きている者が明日も生きるつもりで生きなくてどうするというのだろう。 「大丈夫だ。できる」 そう言ったフレッドの声はいつになく静かで、温かくさえあった。その声にジョージは視線をフレッドに戻し、部屋の中を見回してからふっと笑みを浮かべた。再びフレッドを見て、ゆっくりとうなずく。 「うん。思いどおりになんかなってやらない」 誰の、何の、とはフレッドは問わなかった。ただその顔にも笑みが浮かんだ。 二人は再び沈黙した。部屋の中は静寂が支配し、そうしていると互いの心臓の脈打つ音、血液が体内を巡る音まで聴こえてくるような気がした。そしてその音は自分自身のものと重なっていった。 外には喧噪が広がりつつあった。 |
titled by Ms.Ho