グリモールドプレイスの夜
キッチンのテーブルの上には2冊の本、羊皮紙と羽ペンが2セット。 その前には苦虫をかみつぶしたような表情の青年二人。同じ顔をした二人はしかし、一人はうつむいてその表情を一応隠し、もう一人は挑戦的に正面をにらんでいる。その視線の先には少々うらぶれた服装の男が一人、しかし悠然たる態度で座っている。 「よく来たね。じゃあ授業を始めるよ」 穏やかにそう言ったが、その授業を受けるらしい生徒二人は教科書に手を触れようともしない。 「僕たち忙しいんですよ」 うつむいていたほうが顔を上げて言った。 「NEWTの準備をしている君の同級生たちも十分忙しいと思うよ、ジョージ」 「僕たち『闇の魔術に対する防衛術』の成績は良かったよ。ルーピンも知ってるでしょう?」 「確かに、君たちが優秀だったのは覚えているよ、フレッド。しかしこの科目に関しては、君たちは随分いろいろなことを学び損ねている。クィレルの授業は悪くなかったかもしれないが、結果的に彼がああいう者であったことを考えると、正確な授業をしていたのか疑問だし、ロックハート氏のときは授業にならなかったようだね。去年は途中で先生がいなくなったし、今年はアンブリッジだ」 二人の生徒は、「アンブリッジ」という名前が耳に入ることさえうんざりだという顔をした。 「それに、卒業予定だった時まで週1回わたしの授業を受けることで、今回の君たちの行動をアーサーもモリーも容認するというのだから、随分と君たちにとっては得になる話だと思うんだがね。わたしとしては君たちのためにはスネイプ先生にも来てもらって補習授業をしたらどうかと提案したかったが……」 「「結構です! 授業を始めましょう!」」 双子はあわてて声をそろえて話をさえぎった。 「くっくっく……」 それまで暖炉の前で静かにバタービールを飲んでいたシリウスが、こらえきれずに笑いを漏らした。 「あのスニベルスがどれほどご立派な教授になられたものか、確かめてみたいものだがね」 「シリウス、邪魔をするなら出ていってもらうよ」 「わかったわかった。大人しくしてるよ」 シリウスは再びバタービールに口をつけた。 「いずれにしろ、これからのことを考えればこの科目をきちんと学んでおくことは君たちにとって身の守りとなるだろう。NEWTを受ける子たちはもっと追い込まれて、睡眠時間も削って勉強しているんだからね。これぐらいは楽なものだと思いなさい」 「だけど連中は好きで受けるんじゃないか」 フレッドが言い返した。 「そうさ。受けたくないと思うなら受けなきゃいい。点数なんか気にしなきゃいいだけじゃないか」 「就職のときにNEWTで良い成績を取っておくことが必要な場合もあるんだよ」 ルーピンがたしなめるように言った。 「だったらそれも結局自分のためでしょう?」 「それなのに勝手にイライラピリピリ――」 「テストなんかなければいいとか――」 「親がうるさいとか――」 「強制的に受けさせられてるみたいに――」 「被害者面して――」 「ああ、言いたいことは分かるが……」 ルーピンは苦笑いしながら両手を振って二人を留めた。 「だれもが君たちのように、いらないものはいらないと蹴っ飛ばしていけるわけではないんだよ」 「それに僕たちは楽な道を選んだとは思ってないよ」 「逃げ出したわけでもないしね。必要なものはいただいたから出てきただけさ」 「君たちの言い分はもっともだ。だが親には親の言い分があるんだ。さ、授業を始めるよ」 「「はーい」」 「それから、授業中はわたしのことはちゃんとルーピン先生と呼びなさい」 「「……はい……」」 「くっくっく……」 シリウスがまた笑い出した。 「シリウス!」 「はいはい。じゃ、僕は授業の邪魔にならないように出ていくとするか」 立ち上がったシリウスは、ザマミロという目で双子を見下ろした。 二人はそろって恨めしそうな横目でシリウスをにらみ返した。 「では149ページを開いて」 ルーピンのきびきびした声と、廊下に出たシリウスの小気味よさそうな高笑いが響き渡ったグリモールドプレイス、ある春の夜だった。 注 私はほんとに双子ファンなんです |