尼子騒兵衛インタビュー(「ぱふ」1995年7月号)
抜粋です。
話の順序は雑誌掲載のままですが、 小見出しは管理人が付けたもので、
このような分類で話をされているわけではありません。



☆デビューのいきさつ
もともと小さい頃から絵を描くのは好きだったんですけど、学生の頃に通勤しなくていい職業がいいなと思ってたんですよ。
もう一つは、結局サラリーマンになりましたので、月々のお給料が決まってますよね。このままだと、今の生活はいつまでたっても変化がない。そこでプラスα何かが欲しいなと思った時、漫画しかないなと思ったんです。
投稿したのは高校を卒業してからです。
集英社の『別冊マーガレット』のまんがスクールです。
今と同じ時代ギャグまんがだったんです。だから「なんでこれが少女まんがなの?」といわれてました(笑)。
集英社の『別冊マーガレット』でデビューしたんです。あとは『デラックスマーガレット』でも何回か描いたんですけど、以後こちらが何度ラフを出してもボツになるし、やめてたんです。私、高校を出てすぐ働いてたんですけど、世間ではやはり大学を出てなきゃという風潮がありますよね。だから働きながら大学で勉強したんですよ。それで、卒業するまではまんがは描かないでおこうと思ってやめてたんです。そしたら『別マ』で描いてた漫画家さんに「『朝日小学生新聞』がギャグを描ける人を探してたから、あなたのことを紹介しておいたわよ」といわれて、それじゃこれも何かの縁ですから、といって始めたのが「落第忍者乱太郎」だったんです。本当にズブの素人同然で、最初は3ヶ月だけだからということで始めたんですけど、それからもう10年ですからね。
☆歴史関係
最初は苦労しましたね。歴史の資料を集めたり、きちんと時代考証とかにもこだわりたいというのはありましたから。だから、最初のうちはそういうフィールドワークに原稿料を全部注ぎ込みました。
漫画家にならなければ、発掘調査をやりたかったんですよ。一応資格はとったんです。だから、これから年をとって40、50歳になった時、どこか私立の博物館なり埋蔵文化財施設なりに勤めて、土器の破片を繋ぎ合わせながらまんがを描いてもいいかなと思ってるんです。
☆読者への挑戦
今でも忍者の術なんかで薬が出てくると、会社の薬剤師の資格を持ってる人に、専門的なことを教えてもらったりしてます。でも、そういうことをちゃんと調べてるんだ、ということをひけらかすつもりはないんです。自分自身が納得して、嘘は描いてないわ、という自負だけで描いているようなものですから。
本当はまじめなことをやってるんだけど、あほな連中があほなことをいいながら話が進んでいく、というのがいいんですよ。
気が付く人が気付いてくれれば、それはそれでおもしろいと思います。これは読者に対する挑戦ですね。ここはこう描いたんだけど分かるかな、と。でも、見事に指摘してくる読者もいますよ。そういう時は、ああ、良かったな、と思います。時々、垣根のデザインの間違いを指摘されたりもするんですよ(笑)。
今は小学生向けというのは全く意識してません。自分の描きたいように描かせていただいています。
☆アニメ化について
自分のまんがもテレビで動いたら面白いだろうな、とは思ってたんです。いざアニメになってみると、自分の原作がそのまま脚本になって動いてると楽しく見られるんですが、脚本家の方が書かれた原作と違うオリジナルな話だと、結構複雑な気持ちです。
脚本の段階で一応チェックをさせていただいてるんですが、こちらが全部プロットを作るわけにはいかないものですから…。ただの恋愛ものみたいになっちゃってると「ありゃ〜」って感じで(笑)。でも、子供たちが楽しんでくれてればいいかなと思ってます。最低、時代考証だけはきちんとしてほしいとはいってあるんですけど、たまに「ありゃ〜」っていうのがあるんですよね(笑)。
☆同人誌について
ああ、こういう見方もあるのか、という感じで(笑)。彼女たちがこのキャラたちをどういうふうに見てるかというのが分かるし、また、こちらが考えてもみなかった設定がなされてたり(笑)、それはそれで楽しんでもらってるんだからいいんじゃない、という感じですね。コミックスにもアニメにも同人誌にも、それぞれの楽しみというのがあるんだと考えた方がいいと思います。それにこちらが口を挟むことはないと思うし…。逆に、こんなに一生懸命「落・乱」のことを思ってくれてるのかと、おもしろかったりもします。
(NHKに「こんな本が出てるけど、もし子供が見たらどうするんだ」という投書があったらしい)
個人の楽しみでやってるんだろうから、かまわないんじゃないか、と私はいったんです。
ただ、思い入れの強いキャラがいて、その人が自分で作ったこの設定以外じゃダメなんだ、ということになると、ちょっと違うかなと思いますけど。
☆プリンセス版について
あれは会社の仕事として描いたんですよ。
会社が電通という広告会社なもんですから、私が描いたものがアニメになったので、会社としてアニメの仕事もしていこうということになったんです。それで、秋田書店さんで単行本を出そうという目的で一年間だけ連載したんですよ。だから、私の漫画家としての仕事というよりも、会社の仕事として描いたものなんです。そういわけでなるべく会社で原稿を描けといわれてたんですけど、まんがというと個人業ですよね。それを事務作業のように会社でやれといわれても無理なんです。上司がまんがというものを全然分かってなかったんですよ。結局朝の5時まで会社で残業して描いて、その朝、家に帰ってご飯だけ食べてまた会社に行く、というハードな生活が続いたので、だったらまんが一本に絞って家で描きたいということで会社を辞めたんです。
多少、年齢層に違いがあります。
あと、『朝小』の場合は毎日連載だから、一つの話をいつ終わらせるか決まってないので、やりたい放題なんですけど、月刊誌の場合ページ数が決まってて、その中で起承転結を収めなきゃいけない分、話を作る時に苦労します。
☆絵本について
これはコミックスと違って“どろんどろん”ありなんですよ。『朝小』の方は絶対に呪文を唱えて姿が消えるわけじゃない、というスタンスで描いてるんですけど、絵本の方は“どろんどろん”ありの世界でいこうね、ということでやってます。これはこれでまた楽しいですよ。
☆ほかにも
あの世(冥土)に小学校があって、そこの子供たちを主人公に話を描こうかと思ってるんです。だから、また資料を集めなくちゃ(笑)。 浄土というのは研究所の類はいっぱいあるんですけど、地獄の話になると民間宗教の部類に入っちゃうんで、そうすると資料が少なくなっちゃうんです。系統立ってないわけですよね。描く方にとっては何でもありの世界なので便利かもしれませんが、何でもありというのは、逆に行き詰まる原因にもなるんですね。
☆こだわり
だから、「落・乱」も何でもありというのはよそうということで、自分で考えた術とかは出さずに、資料に基づいて描いてるんです。まあ、室町時代に冷蔵庫や自動販売機が出てきたりはしてますが、明らかに室町時代にはない物は分かりますでしょ。だから、ギャグとして受け止めてもらえる大きなウソは描いても大丈夫と思ってるんです。でも、アニメで寛永通宝がポンと出たんですよ。これはいかんです。寛永通宝は江戸時代のお金なんですよ。こういうのはウソかホントか分かりにくいですよね。だから怒ったんです。こっちがこだわって描いてるのに、たったo.3秒でぶち壊したわねって(笑)。再放送の時には描き変えることになったんですけど、これは大変お金がかかることなんですよね。どんなふうに変わるのか…。五百円玉でも和銅開珎でもいいんだけど、寛永通宝はダメよ、ということですね。こういう妙なところでこだわってるんですけど(笑)、その辺を分かっていただければなと思ってます。
でも、「しまったぁ! あの時代にこれはおかしかったんだ!」と後になって気が付くこともあるんですよ(笑)。そういえば一回お坊さんがお稚児さん連れてるのを描いたら、それたやけに同人の方にウケたことがあって(笑)。絵巻物を見てると本当にそういう人がすごく多いんですよ。
☆これからのこと
これは描こうと思ってなかなか実現できないでいるんですけど、蒙古襲来、いわゆる元冦というのがありましたよね。あれを分かりやすくギャグ満載で描きたいなと思ってるんです。
あと、データハウスから乱太郎の研究本というのが出ていて読んでみたんですが、研究というわりに浅いなぁと(笑)。コミックスの担当者と自分たちで研究暴露本を作ろうか、と冗談でいってるんですけど、担当者が結構ノリ気なんですよ(笑)。
まだ、いろいろと裏があるんですよ。それこそ、ちゃんと注意して読めば、土井先生の身長が分かったりとか。一人いい当てた方がいるんですよ。
ちゃんと分かるように仕掛けてあるんですよ。他にもまだ謎が隠されてますので、よろしかったらコミックスを読んで解いてみてください(笑)。
☆読者にメッセージ
漫画を愛する皆様、また、漫画を業とすることを目指しておられる皆様、何事も物事に熱中するということは大いに結構なことであります。私も色々なことに熱中しては冷め、熱中しては冷め、を繰り返してきました。冷めた後、というのはゼロに戻るのではなく、何か、が残るものです。それは自分自身の良き蓄積となっていくと思うのです。冷めてもいいから熱中しましょう!