渋沢栄一財団機関誌「清淵」03'5月号へ寄稿   S.Kiyomaru
ブーメランと私
ブーメランとの出会い

 澄み渡った青空のもと、ここは福島県のとあるキャンプ場。子ども達のレクリェーションにと思い、アウトドアーショップで買っていったアメリカ製のブーメラン。英文の説明書には、縦に投げること、風に向って右45度の方角に投げること、なにやらそのようなことが書かれてあった。まず息子が投げてみる。次に私も投げてみる。ブーメランは弧を描いて大空をかけめぐりき戻ってきた。「えっ、ブーメランは本当に戻るんだ。」この時もうすでにブーメランのとりこになってしまったようである。子どもの頃駄菓子屋の店先にぶら下がっていたブーメラン。おさなごころをときめかし飛ばしたブーメラン。でもなぜか戻ってこないもどかしさ。それでも飛ばしたブーメラン
どうしてブーメランは戻るのか

 ブーメランは、オーストラリアの先住民族アボリジニが数千年前から狩猟や儀式に使ってきた道具。やがて18世紀に西洋に紹介され、近年に至って遊具として市販もされるようになる。ブーメランは投げるとどうして自分のところに戻ってくるのか、だれでも一度は疑問を感じたことがあるはず。これは"く"の字に曲がった両翼の部分が翼の役目をし、縦回転する上下の翼の揚力の差により倒れまいとする方向に自然に曲がってゆく(ジャイロスコープ効果)のである。その結果、大きな弧を描いて投げた人の場所へ戻ってくる原理だ。ただし投げれば必ず戻ってくるわけではなく、上手く戻ってくるように投げ方を工夫したり練習する必要がある。そして自在にコントロールできたときの爽快感こそ、ブーメランの醍醐味といえるだろう。 
ブーメランは楽しい

 "ブーメランは戻る"ということが当たり前になると、次から次へと購入しては広場に行き試してみるようになる。だが店頭のブーメランだけでは物足りなくなり、やがて通販で購入できることを知ると、毎週のようにブーメ ランが自宅に届くことになる。日増しに本数が増え半年間で100本を超えてしまった。
輸入品であるブーメランは、良いものになると1本5000円前後と高価だった。これ以上買い続けると女房のひんしゅくを買いそうだったので、試行錯誤の末自分で作ることになる。そしてブーメランは作る楽しさもあることを知り、ますますブーメランの世界にのめり込んでいった。ブーメランはどんな形でもよく、。たとえば平仮名の「ん」や「星」の形をしたものなど、変わった形の創作ブーメランを作ってみるのもおもしろい。その後、日本ブーメラン協会という団体があることを知り、ブーメランは単なる遊びの道具としてではなくブーメランの技を競う大会が開催されているのも分かった。
2年に1度は世界大会もあり、国内でも春、秋季大会、ジャパンカップが開催されている。「ブーメランがスポーツ?」私は自分の耳を疑った。信じられない思いで私はすぐに大会の見学に行ってみた。選手達のブーメランのスピード、飛距離のいずれをとってみても、自分とは比較に
ならない。しかもブーメランの性能もかなり違う。また選手達の華麗な演技に呆然自失、私は強烈なカルチャーショックに落ち入ってしまった。見学の帰途、クラブ(スポーツブーメランクラブの研究会)を結成しようと思案したのはこの時だった。やがて仲間も増え、自分が体験してきたことを土台に競技用ブーメランの製作や技の研究に没頭してゆくのである。そして翌々年第五回ジャパンカップ(新潟市)に初めて出場することとなった。
 競技としてのブーメランも年々盛んになってきている。国内の大会で採用されている種目は5種目(ワールドカップは6種目)。@アキュラシー(正確さ種目)〜半径2メートル円内から投げいかに正確に投げた地点に戻ってくるかを競う。唯一キャッチしない種目で単純に見えますが使用するブーメランの特性を熟知し風の読み投げるときの集中力といった体力よりも精神力が要求される種目です。Aファーストキャッチ〜最低20メートル以上の距離で5回キャッチするまでの時間を競う。できるだけ投げた地点から動かないでキャッチすることがポイントです。速い人では100キロ以上にもなる。危険なのでゴーグルや手袋をしてキャッチする。
ブーメラン競技会
BMTA〜風を読みながら空高く上げキャッチするまでの滞空時間を競う。この種目はすべてがキャッチにかかっています。例えば、30秒滞空していても最後のキャッチでミスをすれば記録は0になってしまいます。ちなみに日本記録は66秒79です。Cオージーラウンド〜飛距離、正確さ、キャッチングという三つの要素の総合力で競うこれぞブーメランという種目。最近の大会では50メートル級ブーメランが主流になっている。Dトリックキャッチ/ダブリング〜キャッチは片手、足で蹴り上げてキャッチ、股
の下などでブーメランをキャッチするトリッキーな種目。ダブリングは一度に2本のブーメランを投げそれぞれ違う形でキャッチする難易度の高い種目で、競技会の花形ともいえる種目である。国内の大会は以上の5種目ですがこれらのほかに一定の時間内にキャッチの回数を競う(エンデュランス)ものや団体種目もある。競技会では各種目の技を磨いておくことも大事ですが、種目に合った性能の良いブーメランをいかに製作するかも大切である。私達は無風、風用、
強風用と最低3〜4種類のブーメランを種目ごとに用意して競技会に望んでいる。選手達も上級者になると、ブーメランに穴をたくさん空けたり、オモリを貼ったり、輪ゴムを巻きつけたり、自分流にチューニングして風対策におさおさ怠りがない。大会は1日を通して行われ、体力もかなり消耗するので、普段からの体のトレーニングも欠かすことは出来ません。
今私達は競技会の傍ら講習会やイベントなどで、各地の子ども達にブーメランを指導しています。「おじさん、ブーメランは本当に戻るんだね。ブーメランはすごいね。」子ども達がブーメランを飛ばしているときの活きいきとした、ほほえましい光景がそこにある。重力に逆らって戻ってくるブーメランの魅力。これからもますますブーメランの輪を広げメニー・ハッピー・リターンズといきたいものだ。
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ブーメランの輪