日本経済新聞2005.6.5(日)                               セカンドステージ ◆
 めざせ スポーツ夢舞台
自分にあったブーメランを手作りする関根さん
 健康や楽しみのための中高年スポーツはかなり普及したが、それだけでは飽きたらず、世界大会などに出場する人も徐々に増えてきた。そうした気持ちにさせる「夢舞台」が整ってきたことが背景にある。そこに一度は立ってみたい、実力を試したい、など動機はさまざま。どうせやるなら思い切って夢の舞台を目指してみてはどうだろう。
目標定め技で勝負-世界大会や甲子園
 目標を持ってもっとがんばりたい、と考える中高年スポーツマンにとって象徴的な夢舞台は、日本代表になって世界大会に出場することかもしれない。中高年に人気が集まっているニュースポーツでも最近、世界大会を開催するところが増えてきた。「今年は秋の米国選手権に出るのが目標」というのは十二年前にディスクゴルフを始めた会社員の白井一夫さん(56)。ゴルフに似たスポーツで、直径二十aの円盤(ディスク)をバスケット状のかごに投げ入れ投数を競う。飛距離では若いプレーヤーにはかなわないが、ゴルフでいうアプローチやパットなどの小技では負けない。白井さんは五二歳から三年間、日本ランク一位の座を守り、これまで年一回開催される世界選手権に四度出場した。ブーメランの魅力に取り付かれたのは会社員の関根清さん(55)。「何度か世界選手権の出場資格を手に入れたが、休みが取れず辞退してきた。来年は日本で開催されるので絶対に出ます。」と語る。競技はブーメランを投げて滞空時間や飛距離、スピー
中高年、出場機会広がる
ドなどを争う。世界選手権の選考試合とされる大会は年三回。関根さんはその大会で何度も二位となり「準優勝男」と呼ばれてきた。ブーメランの魅力は競うだけでなく、自分でブーメランをつくることにもある。その道具を使い、風を読み、独自の投げ方を工夫する。「それでパワーあふれた若い人と対抗します」・・・最初に投げた目標球に金属製のボールを投げて寄せ合うペタンクでも、中高年ががんばっている。自営業の中島良人さん(57)はわずか五年のキャリアながら、日本のトップクラスになった。初めて海外の大会に出たのは二年前。前年の日本選手権で優勝し、その副賞としてフランスのミヨー市で行われた大会に出場した。「年寄りくさいスポーツだと思っていたが、奥が深い。なによりがんばれば短期間で頂点に立てるのが魅力。私がその見本です」これらのスポーツに共通するのは愛好者が比較的少なく、パワーやスピードを技術や精神力でカバーできること。もちろん国際大会が豊富にあるのは海外生まれのスポーツだからだ。ただ若い人にまじり日本代表に選抜されるには努力が不可欠。「毎日毎朝、一時間の練習を欠かさない」(白井さん)、「毎夕、二時間砂丘で投げる」(中島さん)とストイックな生活ぶりをみせる。そんな努力ができない人でも、日本代表として国際大会に出場できるニュースポーツもある。スローピッチソフトボールやスポーツチャンバラだ。エントリーするだけで誰でも国際大会に参加できる。「本当に楽しいからみんなに呼びかけている」というのは、スローピッチソフトボールをしている須山勇さん(68)。昨年は米国で開催された大会に二チーム二十人が参加した。jまた今年夏、カナダで開かれるワールドマスターズゲームは中高年にも開かれた国際総合競技大会だ。競技は陸上、水泳、バスケット、バドミントン、ボート、自転車など五輪とほぼ同じ。競技によって二五〜三五歳以上という年齢制限以外に条件はなく、希望すれば出場できる。一方、国内に目を向けても夢舞台はある。その最たるものが、高校球児があこがれる甲子園だろう。かつて甲子園をめざし、夢をかなえられなかった元高校球児の中高年が昨年十一月、甲子園に終結した。名づけて「甲子園マスターズ」。彼らに夢を与える初めてのイベントだ。千葉、山口、熊本など三十一都道府県から、約三百八十人の元球児たちが夢の舞台を踏み、熱戦を繰り広げた。企画したのは神戸大の長ヶ原誠助教授(スポーツ老年学)。助教授によると欧米の中高年スポーツは@健康志向A楽しみ追及B高い目標を設定し努力―の三タイプが広く普及しているというが、日本ではBが育っていない。「その理由は『中高年になってまで一生懸命にならなくても』という考えが支配しているから。そうした考えを破りたい。もっと夢舞台ができればこうした傾向も変わると思う」と語っている。 (編集委員  芦田富雄)
TOP
back