時分の花 (要約) 能楽の完成者として知られる世阿弥は、その芸術を論じた「風姿花伝(花伝書)」で芸における生涯教育論を述べています。これは、人間が成長していくそれぞれの段階でいかなる教育をすべきかについて書かれた教育論でもあります。そして、若い頃の芸を「時分の花」という含蓄深い表現で表しています。例えば十二、三歳の頃は、あまりやかましく言わず伸び伸びとやらせるのがよいといいます。なぜなら、この頃は、だいたい何をやっても可愛いので、それはそれなりに規制せず、舞と謡いという基本だけをしっかり練習することが大切だと言います。ただ物まねは教えないほうがよろしい。というのは、その役柄を評価できる判断力が備わるまで待つべきであるというのです。 翻って考えれば、つまり、この頃の年齢の芸は、その姿形、声の可愛らしさに依拠しているところが大きく、もし、それが失われたとき、その基盤を失ってしまうので、まだ本当の芸とは言えないということを述べているのです。この考えは、ボーイ・ソプラノとその指導にも通じる考え方と言えるのではないでしょうか。そして、世阿弥は、「マコトの花」が咲くように背伸びをせず土台をしっかりと作るべきだと厳しく言い切っています。 |