ファーストフード伝説雑感


 ミミズバーガー
 2003.03.23

 
 マクドナルドのミミズバーガーの話は、ファーストフード系都市伝説の中でももっとも有名な部類に入るものでしょう。この話は、私がまだ小学生だった頃に聞いた、初めての都市伝説です。それももうかれこれ15年前になろうかと言う時期の話で、ここ最近になって聞かれるようになった話というわけではありませんが、今だに時折いろいろな場面で話題に上る話のようです。誕生以来細く長く続いてきた、といったところでしょうか。

 日本国内でこの話がいつ頃からある話なのか、断定的に言うのはなかなか難しいところですが、一つの指標となる情報があります。実はアメリカ本国のマクドナルドが、ビッグマックにミミズの肉を使用しているという噂が流れたのが、1978年のことでした。その前年、マクドナルドはその売上の多くを悪魔を崇拝する教団に寄付しているという噂が流れていたのですが、それに変わってミミズバーガーの噂がささやかれるようになったのです。ミミズバーガーの噂の威力か、悪魔崇拝云々の話はフェードアウトしていったようですが、マクドナルド側にしてみれば、ますます厄介な状況に追い込まれてしまったのかもしれません。食べ物を商品として扱う企業である以上、肝心の商品(アメリカの場合、ビッグマック限定でミミズ肉でしたが)にまつわる悪い噂は、悪魔崇拝以上に企業イメージを傷つけるものだった可能性があります。

 もっとも、アメリカにおけるこの種の異物混入系都市伝説は、それよりもさらに以前からケンタッキーフライドラットが存在しており、ミミズ肉入りビッグマックの噂をしてた人々も、実際には相当このタイプの話に対する免疫が出来ていたのかもしれません。

 ただ、フライドラットとミミズバーガーには相違点があり、前者は製造過程の事故で混入してしまったものであるのに対し、後者は意図的に食肉として加工していたと言う話なので、同系等の話と言い切ってしまうのは誤謬があるかもしれません。反面、この話の根底にあるものは、工業製品的に生産されるファーストフード店の食べ物に対する不信感らしい、と言う部分は共通していそうです。この”工業製品的食物”というイメージに引きずられて話が発生する傾向は、後々のファーストフード系伝説にも受け継がれているように思います。いろいろとバリエーションの多いファーストフード伝説の中でも、ちょっと変わったところでは、どの店舗でも同じ味のものが同じように製造されるファーストフードならではの、店舗による味の違いにまつわる話もあるようです。この話は、当サイトからの相互リンク先である”山ちゃんガハハ”さんのコンテンツ、”突撃!つったか隊”で検証されているのを見て初めて知ったのですが、同じような噂は他にもありそうですね。

 さて、ここで日本のミミズバーガーの話に戻ります。マクドナルドの日本一号店は、1971年に銀座に出店された店舗であり、ディズニーランドの誘拐犯の噂よろしく、”施設本体と同時に話も輸入した”というように、時系列からせはアメリカ発祥の都市伝説とは言いにくい部分があります。とは言え、アメリカではミミズバーガーがビッグマックに限定されていたのに対し、日本国内ではまずそういう話は聞かれないことから、日本のミミズバーガーがアメリカに輸入され、ビッグマックに収斂していったというパターンは不自然です。かと言って、これだけよく似た話が全く別個に、しかも短期間に発生するとも考えにくく、状況的にはミミズバーガーもレンジ猫同様、アメリカの話が日本に持ち込まれたもののようです。

 私が本格的に都市伝説に関する情報を漁るようになってから、何だかんだで二年ほどになりますが、その間にミミズバーガーの話を聞かされる機会が、四度ほどありました。そのうちの三度までは一般論的にマックのハンバーグにはミミズの肉が入っている、というものでしたが、ただ一人、友達が実際にミミズバーガーに遭遇したと言う話をした人がいました。友達の友達と言う、あいまいな存在ではなく、話者の友達という、かなり具体的な係累の体験談でしたし、何よりこんなサイトを運営していても、生で都市伝説を語る人に遭遇する機会と言うのも意外と少ないものですから、自分がちょくちょく都市伝説について調べていると言うことなどおくびにも出さず、顔がにやけそうになるのを懸命に押さえながら、粛々と拝聴させていただきました。ちなみに、この話をしてくれたのは、推定30代の女性でした。また、マックは駄目だがモスはOK、ハンバーガーではないが吉牛はだめ、という話もしてくれました。ただ、4本足のチキンの話は知らないらしく、その話をしたところ、『私がしているのはそういう根拠のない噂の話ではない』との返答でした。

 結論から言ってしまうと、ミミズバーガー(猫肉バーガーなどの亜種含む)も、4本足チキンも、みな事実であると立証できる根拠のない噂話でしょう。にもかかわらず、そこそこ年齢が行っていそうな人でも疑うことなく信じてしまうあたり、よく出来た話と言えます。とりあえずは、この話の内容について検証してみましょう。

 まず、なぜハンバーグの肉=ミミズ肉であることが必要なのかについて。ファーストフードというと、宿命的に安価でスピーディーに食べられるものであることが求められます。そこで安価に一定量の肉を確保する手段として、好んで欲しがる人がいなさそうな、どうでもよさそうなものを材料とするという発想が生まれるのでしょう。前出の女性が、モスバーガーは大丈夫と言う話をしたのも、バーガーショップでありながら気の利いたメニューを用意し、調理もオーダーが入ってから、価格設定はそれらの手間を考慮して同業他社より高めになっている同店のスタイルが、いわゆるファーストフードのイメージとは少し異なっているためでしょう。

 一応食用とされますが、ミミズ肉ははっきり言ってゲテモノで、この話では得体の知れない食べ物を無自覚のうちに食べさせられる恐怖が、話を聞く人の興味を引きます。世の中に星の数ほど存在するであろう(?)ゲテモノの中から、ミミズが選定された理由ですが、一説には食肉加工業者の間では、ひき肉の事を”ミミズ”という通称で呼ぶ習慣があるため、そこから勘違いが始まったのではないかとされています。今は慣れもあるのかそれほどではないかもしれませんが、ファーストフードが世に出始めの頃は、それまでの外食産業の感覚からはかけ離れた調子で供される食べ物に対し、粗製濫造・安かろう悪かろう的なイメージを持たれがちだったことでしょう。そういうネガティブなイメージが、ミミズと呼ばれるハンバーグ用の怪しげな肉と結びついて、ミミズバーガーが完成した、という構図です。もっとも、このひき肉=ミミズの話がアメリカの話か、日本の話か、あるいは万国共通とは言わないまでも日米両国で当てはまる話なのかによって、この仮説の信憑性も変わってくるのですが。この仮説が信頼に足るものだとすると、ミミズ肉以外(もちろん牛肉以外)の肉は、ミミズバーガーの話が有名になったことから生まれた亜種、単純なゲテモノ肉別バージョンの話のように思います。

 ところが、そもそもゲテモノ肉=安価と言う公式そのものが不確かなのです。ゲテモノは、一部の人しか食べないからこそのゲテモノであり、量産しても到底採算が合うものではありません。世の中に出回る大抵の商品は、量産体制が確立されて価格も安くなるものですが、大して需要があるとも思えないミミズ肉は当然量産などされないでしょうし、従って決して安いものではありません。ミミズは養殖するまでもなくその辺の土の中をほじくればすぐにでも出てきそうですが、天然物は往々にして養殖物よりも高くつきます。そもそも、小難しい理屈を並べるまでもなく、釣りエサ用のミミズは、同量の牛肉より高価なはずです。行きずりの魚が食べるためのミミズが、人間様の食べるミミズより高級品であるという事はないでしょうし、ミミズ肉等の少量しか生産されないであろうゲテモノの肉は、(言い方は良くないですが)クズ牛肉より高くなるはずです。

 せっかくだから4本足チキンの話も。これはフライドチキン用に、効率よくもも肉を作るために、1羽に足が4本ついた鶏がバイオテクノロジーで開発され、その肉が商品として市場に出回っているというものです。一見すると、フライドチキンに使われるもも肉ばかりが良く売れて、それ以外の部分があまり使われていないように錯覚してしまうことから生まれた話のようですが、実際には他の部分の肉は別の料理に効率よく使われているため、足の部分ばかりが極端に不足するということはないようです。4本足のニワトリがいるなら、同じ理屈で二枚舌の牛とか話もあるのかもしれません。焼肉屋で”ロースに対してタンの比率が多すぎる”、などと言って。

 このミミズバーガーの話は、時にそれを見つけた人が店側に抗議し、慰謝料(あるいは口止め料)を受け取ったという話が付け加えられることもあります。面白いことに、その話を聞いて、ミミズバーガーの事を店側にほのめかし、金を取ろうとした人が物陰でボコボコにされたという、花さかじいさんみたいな話もあります。店によって対応が違うとか言う話もあります。実際にミミズの肉がハンバーグから出てきでもしないかぎり、現実にこんなことをしても物笑いの種になるか、悪質な場合は警察に突き出されて終りでしょう。

 はっきり言って私個人は、ミミズバーガーは実在しないと思います。もっとも、この奇妙な食べ物は、存在することは証明できても、存在しないことを証明するのは不可能です。世界中のミミズ全ての動向を把握し、それらのうちのただの一匹もハンバーグに混入していないことを確認でもしないかぎり、存在しないことの証明にはなりません。そのために、いつまで経ってもこの話は世の中に残り続けているのでしょう。少し気の毒ですがマクドナルド(および無責任な放言にさらされがちなファーストフード各チェーン)は、今までもこれからも、この都市伝説と付き合っていかなければならないのかも知れません。この都市伝説は、話題にのぼる店が世間の耳目を集めていることの証明であり、有名税と言えばそれまでなのかもしれませんが、少し気の毒な気はします。なお、駆逐できないまでもこの都市伝説のイメージを払拭するためか、マクドナルドでは、ハンバーガーの製造過程を案内するツアーのような企画が催されているという話を聞いたことがあります。興味のある方は、こう言ったイベントに参加してみるのも面白いかもしれません。

 最後にミミズにまつわるあれこれを。今回はミミズ=ゲテモノという図式を基に話を展開してきました。一般的な感覚とはさほどズレはないとは思いますが、こと漢方薬の分野では、ミミズは解熱作用があることで知られています。おそらく薬用としても、普通に養殖されているでしょう。グロい見た目のせいでイメージは悪いですが、決して毒ではなさそうです。
 
 また、以前にミミズバーガーと言う映画に関する情報を頂いたことがありましたが、この映画はズバリミミズバーガーそのものを事を扱ったものではなく、単にミミズを食べるシーンが頻繁に登場するこの映画のために、ミミズを食べる=ミミズバーガーという安易な発想から邦題を付けただけのもののようです。原題は”Worm Eater(虫を食べる人)”。ひねりも何もない安直なタイトルですが、このC級映画の内容をシンプルかつストレートに伝えたタイトルなのかもしれません。マイナー映画の邦題のつけ方は、結構雰囲気的なものだけによっているような気がしますが、ミミズを食べると言うコンセプト(?)から付けられたであろうこの映画の邦題は、ミミズバーガーというものが広く認知されていることのあらわれでしょう。

※2004.10.28 追記
 古典的なネタなので、このコラムの追補は長らくの間ある種ないがしろにしてきた感がありますが…。色々な機会にこの話と接してみると、どうも「ミミズバーガーより猫バーガーの方が歴史が古い」という証言をよく耳にします。事実だとすれば、現実的には「猫バーガーによってゲテモノバーガーの噂が広まる土壌が作り上げられたところへ、アメリカのミミズバーガーが飛び込んできた」という事になるでしょう。