都市伝説に興味があり、いろいろな都市伝説サイト、妖怪サイト、ならびに怪談サイトに足繁く出入りしている方の中には、「怪人アンサー」の名を知っている人も多いのではないかと思います。当サイトにも、2002年8月10日、掲示板への投稿という形でアンサーにまつわる情報が寄せられました。
最近、アンサーなる怪人の噂を聞きます。
携帯を10こ用意して、1個目から2つ目に、二つ目から3つ目に、・・・10個目から1個目に、と、輪になるように携帯を同時にかける。すると、普通は話中になるハズの携帯がどこかに繋がり、アンサーという人物に繋がる。
アンサーは、10人中9人の質問には、それが何であろうと答えてくれれるのだけれど、一人にだけ、逆に質問をする。
そして、質問に答えられないと、液晶から手が出てきて、体の一部をもぎ取っていくという。
アンサーは、頭だけで生まれてきた奇形児で、そうやって体のパーツを集めて完全な人間になろうとしているから。とか。
そしてそれから約1年後の2003年9月、この「怪人アンサー」についてある興味深い事実が発覚しました。実はこの話がどうやら「一個人によって生み出されたものであるらしい」と言う事が、「現代奇談」の管理者であるひろしさんの調べで分かったのです。作者を名乗るくねりずあいりさんは、自身のサイト「予感〜Presage〜(http://www.d8.dion.ne.jp/~kuneriz/ans.htm)」の中で、アンサーにまつわる諸々の種明かしをしています。アンサーは、言うなれば作られた噂だったというわけであり、その点に関してのみ注目すれば他の噂・都市伝説と同列に扱うべき性格のものでは無いと言わざるを得ませんが、アンサーの話には興味深い側面があります。アンサーの話がはじめて公衆の面前にさらされたのは、インターネット上でした。ある種のネットロアと言うこともできると思います。そして、最終的にはテレビ番組をはじめ、いくつかのマスメディアで取り上げられるまでに至ります。今回は、このアンサーの話がいかなるものであったかについて、考えてみようと思います。
▼アンサー「都市伝説としての評価」
アンサーの話は、すでに都市伝説と呼ぶに足るだけの用件はほとんど失っています。しかし、隠されていた事実が明るみに出た今、敢えて「都市伝説」として再評価してみると、短い話の中にも都市伝説らしからぬ要素が存在しています。やはり都市伝説と言うよりは怪談と呼ぶべき性格の強い話だったのだと思います。なお、数ある怪談の中には都市伝説があり、都市伝説の中にも怪談がありますが、どちらかがどちらかを完全に含包できるといった性質のものではないことをご承知ください。
まず、アンサーを呼び出す儀式ですが「携帯を10個用意して、1個目から2個目に、2個目から3個目に・・・10個目から1個目に、と、輪を描くように同時に携帯をかける」とされています。これは元ネタこそ存在するようですが、作者くねりずあいりさんの考案したものです。惜しむらくは、その創意工夫の段階で「携帯を10個用意」すると言うアレンジを加えてしまったことです。テレビ番組・「運命のダダダダーン」では、アンサーの噂を映像化していましたが、はっきり言って10人からの高校生?が雁首そろえて10台の携帯でいっせいに電話をかける様は異様でした。現実にはあり得そうに無い怪談系都市伝説が、それでも広義では都市伝説として認知されているのは、一つには、何気ない日常の一場面がふとした弾みに異界に直結してしまったという「世にも奇妙な物語」的シチュエーションの故でしょうが、日常生活の中で10台集めた携帯同士で一斉に通話しようとする場面を想定するのは少々想像力が要ります。映像化されたものを見て、「やはりこれは儀式のための儀式だったのだろうか」と思う程度には抵抗感のある構図でした。もしかするとフォークロアにおいてホーリーナンバーとされている、「3」台で儀式を行えば、違った意味でもう少し注目を集めたのかもしれませんが。
また、アンサーはその名の通り、並みの都市伝説であれば謎のままになっていそうな部分について、非常に雄弁に答えを語っています。口裂け女はどこから来たか?ムラサキカガミという言葉の意味するところは?なぜかしまさんは「カシマ」なのか?都市伝説の中では、謎は謎のまま積み残され、そこから新たな物語が紡ぎだされていくことが往々にしてありますが、アンサーに関してはかなり細かな「設定」が用意されているようで、その影響か、「なぜ体の一部を奪っていくか」という聞く人にしてみれば当然の疑問について語られています。他方、なぜ質問に答えるのか、といった部分は表面化していません。
アンサーの話はやはり一人の作者によって形作られた物語だけあって、話自体はかなり練られている印象があります。と同時にそれは、往々にして話の構成が無骨で一種泥臭くもある都市伝説とは対称的な特徴であると言えます。アンサーは「都市伝説且つ怪談」と言う性質の話ではなく、「怪談ではあるが都市伝説(的)ではない」と言う評価の方が妥当なのではないでしょうか。
▼発端
さて、簡単ながらアンサーがどのような性格の話だったかの説明を終えたところで、ここからはアンサーが「噂」としてインターネット上に初めて登場してから現在に至るまでの流れを追っていきます。もともとアンサーの話がどのようにして生み出されたものであったかについては、作者であるくねりずあいりさんのサイトに詳しいので、あえてその経緯については触れません。ここでは、関連諸サイトの掲示板にアンサーの話が書き込まれた前後の時期の動きについてまとめておきます。以下は、ひろしさんが当サイトの掲示板に提供してくださったアンサー関連記事投稿日の一覧です(ひろしさん、ありがとうございました)。
2002年8月8日
USOジャパン
2002年8月10日
現代奇談、Urban Legens(閉鎖)、α-web、あっぱれ都市伝説(閉鎖)、妖怪王、ディープ・ダンジョンVer2.1
2002年8月11日
現代特殊民話
2002年8月15日
ライコス掲示板(都市伝説スレッド)
※順不同
上記のうちいくつかのサイトは私も覗いていましたが、反響はそれほど大きく無かったように思います。むしろ、かなり早い段階で以下のような書き込みが見られるところもありました。
最近各地の都市伝説サイトに「怪人アンサー」なるものの情報が飛び交っている。
怪人「アンサー」というのをご存知ですか?
携帯を10個用意して、1個目から2個目に、2個目から3個目に・・・10個目から1個目に、と、輪を描くように同時に携帯をかけるんです。普通ならば、全て話中になるのですが、それが
アンサーは、10人中9人の質問に、それがどんなものであろうと、答えてくれるのですが、一人だけ、逆に質問をしてきて、それに答えられないと、携帯の液晶から手が出てきて、体の一部をもぎ取っていくとか。
アンサーは、頭だけで生まれてきた人間で、そうやって体のパーツを集めて完全な人間になろうとしているとか・・・。
この噂、知っていますか?
ところが、つわものたちが集っているはずのどの都市伝説サイトにおいても
「知らない」、「そんな話は初めて聞いた」という返事しかこない。
奇妙なのはこの投稿が各地の都市伝説サイトになされた時期が一致していることと、
その投稿をした人のハンドルネームが全て異なっていること。
これはもしかしたら何者かがジサクジエーンでこの噂を広めようと企んでいるのではあるまいか?
私がこれを見つけたのは、アンサーの書き込みからしばらく経ってから、2ちゃんねるの都市伝説とはまったく関係無い「ジョジョの奇妙な冒険」スレに於いてでした。上記の書き込みそのものは2002年8月15日のものですが、これはオリジナルをコピペしたものであり、元ネタが別に存在すると思われます。残念ながらその元ネタが厳密にはいつ書き込まれたものかは未確認ですが、今となっては正鵠を射た推理であったとしか言いようがありません。感服します。実は私自身も、初めてアンサーの話を目にしたときに胡散臭いものを感じたのですが、当時はまだ曖昧模糊とした疑念に過ぎませんでした。上述の書き込みはアンサーの話にまつわる不審点を的確に指摘しているので、それに沿って今少し詳しい説明を。
■・・・つわものたちが集っているはずのどの都市伝説サイトにおいても「知らない」、「そんな話は初めて聞いた」という返事
この時点では、いくらネットを検索してみてもアンサーに関する話は見つけられませんでした。そもそもそのような噂は存在しておらず(作者の周りのきわめて限定的な範囲ではある程度認知されていたということです)、当然ネットにも存在していません。まったくの第3者に知っている人がいるはずはありません。
■奇妙なのはこの投稿が各地の都市伝説サイトになされた時期が一致していることと、 その投稿をした人のハンドルネームが全て異なっていること
一部掲示板で、作者くねりずあいりさんは調査という名目でアンサーの話を紹介しています。少なくとも調査という大義名分がある以上、あからさまなマルチポストの方がかえって信憑性があったように思います。HNは意図的に使い分けていたようですが、その場合には投稿時期をずらしつつも、書き込み内容はどこのサイトにおいても一言一句違わないくらいの方が、不特定多数によるコピペで増殖するというパターンを踏襲した典型的なネット怪談の一種のように見え、これまた懐疑の目をそらすには効果的だったかもしれません。実際にばら撒かれた書き込みの中には、各サイトの性格に文章を書き換えたものがありました。ただ、いずれにせよ書き込みの際に各所の掲示板に残されたIPアドレスは同一のものだったようで、注意深く観察すれば他人を装った同一人物の仕業であることは看破できたようです。(この情報もひろしさんの調査の賜物です)
いずれにせよ、都市伝説サイトの掲示板の常連ともなれば噂・都市伝説に関する嗅覚は平均以上に鋭いでしょうし、程度の差はあれ、色々な点からアンサーの話に胡散臭さを感じた人は少なくなかったように思います。なお、そうは言いつつも私はこのアンサーの話を都市伝説の部屋に収録しました。話の内容に惹かれたというよりもむしろ、何者かが(ネットを介して)噂を広めようとしていることに興味を覚えてです。
なお、最初にアンサーの話を見た時に私は2ちゃんねるからのコピペか何かかと思い2ちゃんを探しましたが、そこにアンサーを見つけることはできませんでした。2ちゃんねるがネット上の情報の集積場であり、同時に発信場所であることはすでに疑う余地の無いことですが、どうやら2ちゃんへの書き込みそのものがなされなかったようです。もっとも、仮に都市伝説スレあたりに書き込まれていたとしても、アンサーの話は受け入れられなかったのではないかと思います。2ちゃんねる都市伝説スレは、都市伝説というテーマに対してある意味で非常に真摯な場所であり、オカルト的性格の強い話題を嫌う傾向が見られます。多分にオカルト的なアンサーの話は、放置か叩かれるかの憂き目にあっていた可能性が高いように思います。
▼経過
私個人の心情としては8〜9割方まで創作だろうと考えながら取り上げたアンサーの話ですが、他方で単に極めてマイナーな噂である可能性も念頭において、ネット巡回の時にはある程度意識的にアンサー(あるいはアンサー的なもの)の情報を収集していました。しかし、さほど目立った収穫はありませんでした。このことは、ネット上でアンサーの反響がさほど大きなものではなかったことの表れなのではないかと思います。
ただ、アンサーの話は比較的早い時期に、ネット以外の思わぬところに飛び火していました。2002年10月3日付の東京新聞Web版の中の『ニュー妖怪、ネットで増殖中/社会の不安感映し出す』という記事の中で、他の諸々の『ニュー妖怪』と一緒に、アンサーのことが紹介されています。この記事は8月10日にくねりずあいりさんから投稿があった妖怪サイト・「妖怪王」さんの情報からの抜粋という形でアンサーのことを伝えています。一つ奇妙なのは、記事中に『二〇〇一年ごろから、全国の中高生の間で広まった』という記述が見られることです。くねりずあいりさんによると、基本的には2002年8月以前のいついつからアンサーの話が存在していた、というような投稿をしたことはないとのことです。一方東京新聞側には、『二〇〇一年ごろ』という数字を導き出したソースが何であったかについての質問状を送りましたが、回答はありませんでした。
また、アンサーは初登場した2002年のうちにその他のクラシックな定番都市伝説とともに、『本当にあった!!都市伝説』(発売元:株式会社ハピネット・ピクチャーズ)の中に収録されています。
ネット以外ではなかなかの隆盛を誇っていたアンサーですが、事実上の原点であるネット上では芽が出ないまま時が経ちました。都市伝説、妖怪の話題を扱った専門性の高いサイトにはある程度認知されはしたものの、草の根レベルでの目立った反響は少なく、苦戦が続きます。
▼運命のダダダダーンZ
年が明けて2003年、ネット巡回の片手間程度とは言え、相変わらずアンサーに関する情報に注意はしていたものの、その絶対数はやはりごく少数でした。目立った収穫といえばその中に、アンサーの噂が数年前(少なくとも02年8月以前)から存在していた
、といった趣旨のものが含まれていたことですが、アンサー情報は諸サイトの掲示板や個人の日記サイトからのものを合わせてわずかに3件を数えるのみでした。
しかし、初登場からちょうど1年を迎えようという時期に、テレビ朝日系列で放送されている「運命のダダダダーンZ」でネット怪談の一種としてアンサーが紹介されました。アンサーはついにテレビ出演を果たしたのです。(なお、こちら:ハリウッドスターへの道に同番組でアンサー役を演じた俳優さんの画像があります)
このテレビ出演は、ビデオ・DVD化や、新聞報道などよりも反響が大きかったようで、くねりずあいりさんのサイトの中にも同番組についての特別な言及があるところから、種明かしの直接の契機となったのも同番組だったのではないかと思います。番組放送から種明かしと言う流れが、後のアンサーの真相発覚にまつわる一連の動きにつながってくるものでした。
▼反響(運命のダダダダーン以降)
ひきこさん、一寸ババアとともにテレビ出演を果たしたアンサーですが、反響に関してはひきこさんの方が大きかったと思われる節があります。アンサーの反響を調べるのに用いた方法は、番組の放映がおよそ2ヶ月前でテレビ放映を受けた噂が出版物などに飛び火するほどの時間的余裕がなかったであろうことから、安直ながらGoogle検索をはじめとする各種サーチエンジンによる検索となりました。検索対象としてヒットしたのは、主に日記サイトや各種掲示板ですが、その範囲においてアンサーの反響はひきこさんと比して明らかに小さかったように思います。ただし、検索に関して「アンサー」と言う普通名詞の名前が少なからずネックになり、信頼するに十分な調査結果が得られたとは言い難い面もあったことは申し添えておかなければなりません。何しろ、普通に「アンサー」で検索すると、何よりもまず「ファイナルアンサー」が大量にヒットします。「怪人アンサー」と呼ぶ人もいれば、単純に「アンサー」と呼ぶ人もいたでしょうし、この名前はさながら煙幕の如く、ネット上における怪人アンサーの伝播状況を不透明なものにしています。
もう一つの指針となりそうなのが、当サイトのYahoo!JAPANディレクトリにおける紹介文です。これは、『「ひきこさん」等の怪談、都市伝説の紹介』となっています
。当サイトがYahooに登録されたのは8月7日。時期的に運命のダダダダーンが登録に影響したのは明らかであり、同じ時期に決定されたであろう紹介文の中に、「ひきこさん」の名前があって「アンサー」が無いというのは、両者の反響の差に関して、非常に示唆的な情報と言えます。なお、現在Yahooに当サイトが登録された経緯、および登録直前時期の「ひきこさん」と「アンサー」の検索回数について問い合わせをしています。先方にしてみれば公表はしにくい情報でしょうし、色よい返事がもらえることはあまり期待できませんが・・・・・・。
(※2002.10.14追記 やはりこの質問はYahoo側のセキュリティポリシーやプライバシーポリシーあたりに抵触する内容らしく質問に対する答えはいただけませんでした。)
▼反響(奇談メモ以降)
さて、現在「怪人アンサー」をGoogle検索すると、以前よりも多くの情報がヒットします。そのうちの多くは、「現代奇談」さんの2003年9月2日付け奇談メモを受けたものです。奇談メモの反響は大きく、ネット巡回・サイトウォッチ系のサイトでも、「作られた噂」であるアンサーに注目するところが出ました。私にとっても作られた噂であるアンサーが、テレビで放映されるまでになる流れが刺激的であったのは確かです。ただし、アンサーを純粋にネット初で広まった噂と見ることには、疑問符をつけざるを得ません。すでにここまで出述べてきたように、アンサーは数多あるネットロア的なものの中でことさらに成功したといえるほどの物語ではありません。アンサーが広く認知されるようになった直接のきっかけはあくまでテレビという既存マスメディアであり、ネットを介して広まったわけではないのです。伝播の最終段階(テレビ以前、十分な拡大を見せていたわけではない以上この言い方にしてから語弊がありますが)でテレビに頼らざるを得なかったあたり、むしろ現時点での情報伝達媒体としてのインターネットの限界を見た思いがします。奇談メモ以降、諸サイトでアンサーの話が注目されたのも、物語としての本質にかかわる部分ではなく、極めて特異な経過を経て拡散したことに対しての関心からです。そのことからもアンサー自体がそれほど強い伝染性を持つほど魅力的な話であったとは言い難く、「情報伝達ツールとしてのインターネットの有効性が実証された例」とする論調にも手放しで同調はできません。半分まではアンサーの本質を捉えているが、しかしもう半分は・・・・・・と言ったところが私の感想です。そう思うのは私が「運命のダダダダーン」でアンサーが取り上げられるに至った舞台裏を多少なりとも垣間見ていることによる、というのが正直なところです。
▼アンサーテレビ出演の裏で
私は、8月5日に放映された同番組に関して、番組制作会社の方と何度かメールのやり取りをしています。少し詳しい経緯を。その「往復書簡」の中の印象としては、先方は最初に当サイトの内容を見た段階から「ひきこさん」に関してかなり強い関心を抱いておられたように思います。そして、メールに書かれた内容の主眼も、ひきこさんに関する詳しい取材は可能かと言ったところに置かれていました。もっとも、この詳しい取材が可能であるか否かと言う問い合わせに関して、こちらからお役に立てることはありませんでした。ただ、ひきこさんはマイナーな「ネット怪談」なのではないか、という私見も合わせて返信したところ、先方は「ネット怪談」と言う切り口での紹介に向かって動いたようです。その後、先方から当サイト内の画面を撮影して良いかと言う内容の3通目のメールをいただきました。撮影許可願いの中にはアンサーも含まれていました。ちなみに、この段階で、私はアンサーがひきこさんと同等の扱いで紹介されることは無いだろうと勝手に思い込んでいたの痛恨でした。少なからず創作の疑いがある話であることを伝えられなかったことに、一点後味の悪さを感じます。なお、放送で取り上げる話の選定やどのように取材を進めたかについて先方に、簡単ながら質問のメールをお送りしましたが、これも返答はいただけませんでした。それはともかくとして、どうもこのメールのやり取りからは、8月5日の放送の内容は、番組内容が「ネット怪談」と言うソースをインターネット上の情報だけに限定しても成立し得るものとなったこともあり、当サイトを含めた諸サイト(具体的に番組の参考にしたサイトは分かりませんが)の情報ありきで製作されたものであるように思えます。ここから先はほとんど憶測になりますが、同番組は、表現に正確を期するなら、インターネットにはびこる噂を拾い集めて製作されたと言うより、噂を集めたと言う触れ込みのもと運営されているインターネットサイトを元に作られた、となるように感じます。また、作者→ウェブサイト→番組制作者という極めて少ないステップを経て完成したものと言う感もあります。もちろん実態がどのようなものであるにせよ、ネット上に存在している怪談を番組で紹介した事実に変わりはなく、アンサーが作られた噂であったことも番組の評価においてさほどの重きをなす事実ではありません。
▼口承でのアンサー(2002年10月24日追記)
インターネットサイトは多くの場合、極めて高い専門性を持ったものです。「都市伝説系サイト」の名で呼ばれるサイト群にも往々にしてその傾向が見られ、極論すれば都市伝説に全く興味のない人が都市伝説系サイトを閲覧することは非常にまれなのではないかと思ます。その点でアンサーは、ネット上においてはその手の話題に関心のある人々のコミュニティー以外に飛び出し、そしてそこで生きていくのは難しいと言う宿命を背負わされたものでした。ではネットと切り離された口承と言う形でアンサーが語られることはあったのでしょうか。結局口承であっても、興味のない人にこの話を振った場合、反応がないばかりか逆に白眼視される恐れすらあります。さほど頻繁に普段の会話に顔を出せるような内容ではなかったでしょう。また、基本的には都市伝説に無関心の人に、唐突にアンサーの話を知らせたところでそれ以上の流布拡大は難しかったのではないかと思います。
▼なぜアンサーはマスメディアに受け入れられたか
アンサーは、ネットに生まれる噂・ネット怪談と言う形で新聞やテレビに紹介されましたが、インターネット上に広まった噂が、実社会(ネット(=仮想現実)対現実世界と言う対比は薄っぺらであまり好きではないのですが)に溢れ出し、それが既存マスメディアを動かしたと言うよりも、ネット上の噂を収集したサイトを介してマスメディアがネットの噂を紹介したと言う側面が強いと思います。ネットの噂はあくまでネット内の噂としてしか取り上げられておらず、現実社会に対してネットが重大な影響を及ぼしたと言う事例ではありません。アンサーとマスメディアの邂逅は、多分に出会い頭的なものです。確かに都市伝説・噂・怪談サイトは、噂と言う形の情報が集まる場所ですが、最終的にその情報をサイト内にフィードバックするなり、あるいは特別なリアクションのないままスルーするなり、どのように扱うかは管理者の胸先次第と言う部分があります。実際、書き込まれたアンサーの情報をくみ上げたのは、前述の範囲内では妖怪王さんと当サイトだけでした。よく知られた噂だからサイトのメインコンテンツに収録することはあっても、メインコンテンツにあるから広く流布した噂と言うロジックが成立するわけではありません。また、運命のダダダダーンに関しては、番組制作会社の方と幾度かメールのやり取りをした経緯があることから鑑みて(番組内でアンサーを取り上げることに決まった詳しい経緯については不明ですが)、ネット上の噂を集めたサイトで見つけた話の中で、たまたま担当者のセンスで話が拾い上げられたに過ぎないと言う感触があります。妖怪王さんとのつながりを感じさせる東京新聞の記事も似たような部分があったのかもしれません。新聞とテレビ、両者に登場したアンサーがたまたま拾い上げられたネットロアであるという見方は否定するだけの根拠はない、というのが実感です。一つ確かなことがあるとすれば、古参メディアがインターネットをニュースソースの一つとして認知するようになったと言うことでしょう。それでもやはりそのことは、直ちにネットがマスメディアに匹敵する情報発信能力を得たと言うことは意味しないと思います。また、一般受けせずマスコミ受けしたのは、携帯電話という極めて現代的なツールにまつわる怪談であり、「話の背景にはこのような社会情勢の影響が・・・」というスタイルの、従来の都市伝説研究にあった紋切り型の解釈がしやすかったと言う面があるのかもしれません。そういう意味では、物語と社会的背景を結びつける社会学的アプローチにおける都市伝説研究の金科玉条のような分析手法に対し、やや懐疑的にならざるを得ません。すでにそのような研究手法が確立され、そのことがある程度一般に認知されている以上、それを逆手にとったかつての人面犬のような作られた噂に対応するのは難しいと言えるでしょう。私が都市伝説関連で最初に触れた参考資料がブルンヴァンの著書であり、ブルンヴァンが最近の都市伝説に過去の物語との類似性を見出すどちらかと言うと民俗学的な分析を好んでいた影響もあり、ブルンヴァン的都市伝説解釈の方に魅力を感じているため、比較的古い研究スタイルに割と冷淡な見方になっているのかもしれません。都市伝説研究において行われる、物語の背後関係についての洗い出しは、話が誕生した背景についての考察であり、同時に話が多くの話者に好まれ広く流布していった背景についての考察です。「アンサー」における後者に関する考察は、ミクロな範囲に対するものでしかあり得ないためにさほど重要なものではなく、前者についてはそれが真に迫ったものであればあるほど、行為自体の意味が薄らぐものでした。都市伝説的考察が無意味なものであったことは、今更言わずもがなのことでしょう。
▼2002年8月以前から存在していた?
現状におけるアンサー最大の疑問点は、くねりずあいりさんがアンサーを生み出し、ネットにその話題を持ち出す以前からこの話が存在していたことを示すかのような情報が存在していることです。アンサーの話が持つモチーフの贅肉を極限まで殺ぎ落とすと、「携帯電話を介して質問に答える」謎の存在と言うことになります。自分でも幾分か誘導的なものを感じる論理ですが、このパターンに関して、既存の携帯電話怪談ではさとる君があてはまします。多くの人にとってこの種の怪談は、ヨタ話として認識されているというのが正確なところであり、怪談が好まれるのは毒にも薬にもならないヨタを楽しむ意味合いがあります。当然ヨタ話であれば、いいかげんな聞き方をしていて勘違いする可能性も否定できません。2002年8月年以前のアンサーは、アンサーが既存携帯電話怪談を吸収、あるいは過去の携帯電話怪談の記憶を乗っ取った事例なのかもしれません。もちろん、単なるデマの可能性もあります。単純な時系列の記憶違いとも考えられます。また、そもそもくねりずあいりさんが本当の作者ではないという可能性もあります。その可能性にほっかむりするのは議論の正当性を欠くことにもつながりますが、状況的には、たとえ作者ではないにせよくねりずあいりさんが中興の祖であることは間違いありませんし、その可能性まで考慮すると収拾がつかなくなる恐れもありますので、その可能性について言及するにとどめておきます。
▼アンサーの今後
創造主の意思を離れ一人歩きをはじめている節があります。今回のアンサー騒動の残滓が数年後まで生き延びた場合、果たしてこの話はどのような展開を見せるのでしょうか。生き残りの可能性自体は決して低くないと考えます。作者による「否定」の効果は、新聞、テレビなどで伝えられた情報を打ち消すには少々力不足です。今回の一件から、なおも数年先まで命を永らえたアンサーの生き残りは、すでにアンサーであってアンサーで無いものかもしれません。思えばアンサーは、既存の色々な話からアイディアを借り、それらをつなぎ合わせて生まれてきた話でした。そして、作り手の知らないところで、作り手の意思を離れて蠢動しているかの如き様は、つぎはぎだらけのフランケンシュタインズモンスターを思わせます。そういう意味でアンサーは、やはりれっきとした妖怪なのかもしれません。
※付記
これまで、都市伝説の部屋におけるアンサーの扱いは、表面上その他の一般的な都市伝説と変わるところが認められないものでした。何者かが捏造した噂を広めようとしている気配があり、その顛末に興味を持った、という理由で紹介していたことについてこれまで何らの言及をしてきませんでした。表現に紛らわしい部分があったこと、また「作為的に噂を広める」という道徳的にはいささか問題のある行為に薄々は勘付いていながら、それに便乗するような形でこの話を紹介していたことを、ここにお詫びします。
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