裁判所の判断:東京高判平成3年12月19日 平成2(ネ)4279号事件(抜粋)
「著作権法は、著作物は、著作者の人格の反映であることから、前述のように、著作者の意に反する著作物に対する変更、切除、改変等の行為を禁止し、著作物の同一性を保持することにより著作者の人格権の保護を図っているものである。しかしながら、他方、かかる同一性保持権を厳格に貫いた場合には当該著作物の利用上支障が生じ、かつ、著作権者においても同一性保持権に対する侵害を受忍するのが相当であると認められる場合については、同条二項において、著作権者の意思に係らしめず、その同意を得ることなく変更、切除、改変等の行為が許容される例外的場合を規定している」。
大学側は,「論述内容の誤解の防止及び他の論文との表記の統一」,あるいは「改行の必要性が認められず、行数の削減にもなる」との観点から改変を行ったと主張するが, 本件論文は,学生の論文であり,学生を対象にした雑誌であることから,教科用の図書として大学の教育目的の達成に支障が生じるものとも解されず,その「改変が著作権法20条2項3号の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変」に当たるとすることはできない。」(現行法20条2項4号)とする。
「著作物における送り仮名の付し方、読点の種類・位置、改行の要否等については、これを規制する法令の定めはなく、また、常に厳格な文法上の約束事があるとは限らず、広く著作者の個性に委ねられ、他人がみだりに容喙することが相当でない分野であるといわなければならない。しかしながら、これらの改変の結果により、当該部分の実質的な意味内容が変更したと認めることはできない上、被控訴人の改変行為においては一般的に広く採用されているところの表記法を採用したものであることからすると、右改変行為により本件論文の客観的価値が毀損されたものとは認め難い。また、侵害行為の態様においても被控訴人において控訴人が前記のような表記方法を厳守していることを知りながら、殊更にこれを無視して前記改変を行ったものと認めるに足りる証拠はなく、かえって、かかる事情を知らないまま読者により分かり易い表現にするとの観点から一般的に広く採用されているところの表記法を採用したものであることは既に認定したとおりである。加えて、被控訴人の前記改変により控訴人の社会的評価が著しい影響を受けたものと認めるに足りる証拠は全くない。」として,
「以上のような、侵害行為が本件論文の実質的な内容及び控訴人に対する社会的評価に及ぼした影響の程度、侵害行為の態様及びその動機等の諸事情を総合勘案すると、被控訴人の前記改変行為により、控訴人が被った精神的損害に対する慰謝料は五万円が相当であり、また、控訴人の弁護士費用のうち被控訴人の侵害行為と相当因果関係がある損害として被控訴人の負担すべき額は一万円が相当であると認められる。」と判断。
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